第7話 従者二名、年下主の前で縮こまる
毎度のうっかり従者二名に、交互に視線を走らせてから、龍生は再度質問した。
「東雲、鵲、どういうことか説明しろ。国吉さんが海に落ちたのは、事故ではなかったのか? 藤島さんが突き落としたとか言っていたが……それは本当のことなのか?」
「い……いえ、それは~……」
「本当かどうか、実はよくわからなくて……。俺達、直接見たわけではないので……」
共に身長百八十センチ超えという大男二人が、一回りも年下の高校生一人に睨み据えられ、ひたすら小さくなっている。
結太にとっても桃花にとっても、とっくに見慣れた場面ではある。
それでも、『いつ見ても情けねーなー』と、結太は心の内でため息をついた。
「直接見たわけではない?……では何故、国吉さんが『突き落とされた』ことを知ったんだ? 国吉さんか藤島さんが、そう言っていたのか?」
「はっ、はい。国吉さんがハッキリキッパリ言ってました! 『お嬢に突き落とされた』って!」
「お、俺も聞きました! 最初は冗談かと思ったんですけど、藤島様もご自分の口から、『いつもの調子で突き飛ばしたら、その先が海だっただけ』とか何とかおっしゃってて……。そこで、ああ、本当のことだったんだ……って……」
東雲と鵲はそう証言すると、互いに顔を見合わせ、同時に深くうなずいた。
龍生は左手で右肘を掴み、軽く握った右手を顎に当て、考え込むようなポーズをしてみせてから、
「二人共、『海に突き落とされた』ことと、『突き落とした』ことは認めているのか。……だが、鵲の証言から考えるに、藤島さんには、〝突き落とそうとする意思〟があったわけではないんだな。彼女にとっても、海に落ちるのは想定外だったのか」
「もっ、もちろんです! イーリスさん、私達に国吉さんが〝海に落ちた〟ってことを知らせに来た時、泣いてました。思いっきり泣いてましたし、体も震えてました!……わたし、あんなに頼りなげなイーリスさん見るの、初めてでした。あそこまで取り乱してた人が、国吉さんをわざと海に突き落とすなんて、そんな酷いこと、出来るわけないと思いますっ!」
いつも大人しい桃花が、珍しく強く主張して来て、その場の男性陣は、一瞬、ビックリしたような顔で固まった。
桃花はハッと我に返ると、顔を赤らめ、
「あ……。ご、ごめんなさい。大きな声出しちゃって……」
たちまち、消え入りそうな声で謝る。
結太は慌てて龍生に向かい、
「俺もっ!――俺も、伊吹さんと同意見だ! イーリス、マジですっげー震えてたし、国吉さんにもしものことがあったらどーしよーって、泣きじゃくってたんだ。だからぜってー、わざとじゃねーよ! あれは事故だ!」
そう断言すると、桃花を庇うかのように、彼女の前に立った。
「楠木くん……」
桃花は感動したように、結太の背に熱い視線を送っている。
彼女には、頼り甲斐のある背中に見えているのだろう。
龍生は軽くため息をつき、一同に順々に視線を移すと、
「俺がいつ、『藤島さんが、わざと国吉さんを突き落とした』などと言った?……逆だろう? 俺は、『突き落とそうとする意思はなかったんだな』、と言ったんだ。彼女にとって、想定外の事故であったことを認めているのに、何故、詰め寄られなければならないんだろうな?――なあ、そう思わないか、結太?」
同意を求められ、結太ははた、と目を瞬かせた。
言われてみれば、確かに、龍生は『イーリスがやった』などとは、一言も言っていない。
桃花を庇いたいがゆえの言動だったため、そこまでは考えていなかった結太は、照れ臭そうに頭を掻いた。
「あ……はは……。だよなー? 悪ぃ悪ぃー。つい、熱くなっちまった」
「……まったく。伊吹さんに良いところを見せたいと必死になるのもわかるが、冷静な判断力は、失わないでほしいものだな」
さらりと、桃花に対するアピールであるかのように言われてしまい、結太の体は一気に熱を帯びる。
「なっ、ば……っ! 何言ってんだよっ!? 俺がいつ、良いところを見せたくて必死になったってんだ!?」
「なっていただろうが。現に、今」
顔色ひとつ変えず言い返し、龍生は再び従者二名に向き直る。
結太に構っている暇はない、といった調子だ。
「とにかく、突き落としたというのであれば大問題だったが、藤島さんに突き落とす気などなく、海に落とされた国吉さん自身が、笑って許す気でいるのなら、これ以上、事を大きくする必要はあるまい。国吉さんが大怪我を負っていたり、体調が悪化したというのであれば、捨て置ける問題ではなかったろうが……ん? 事件の当事者が戻って来たようだな」
「えっ?」
結太達が一斉に、龍生の視線を追って振り向く。
注目の的にされた方の一人、イーリスは、ギョッとしたように一瞬その場で立ち止まり、
「な――っ、何っ? いきなり大勢で振り返らないでよ! ビックリするじゃない!」
たちまち赤鬼のように真っ赤になって、ドスドスという足音が聞こえて来そうな迫力で、結太達に歩み寄って来た。




