第13話 結太、イーリスと国吉を姪と叔父にたとえ激怒される
イーリスと国吉の様子を見て、結太は『あれ? この場面、前にも見たよーな……?』と首をかしげた。
よくよく考え、昼食前にも、こんな流れでイーリスに礼を言われたことを思い出す。
(あの時も、国吉さんに促される感じで、礼を言って来たんだよな、イーリスのヤツ。……なんか、この二人の関係って……龍生と、トラさんサギさんみてーな、完全な主従関係――雇う者と雇われる者、って感じとは違ぇーよな。トラさんとサギさんは、主である龍生やじーさんに、心底惚れ込んでて、二人に対しては、〝絶対服従〟って態度示してっけど……。国吉さんは、雇われてる側にしては、主人に対して厳しーこと言ったりやったりしてるし……〝主従〟ってよりは……う~ん、そーだなぁ……〝父と娘〟?……いや。〝叔父と姪〟――ってイメージの方が、近ぇー感じすっかな?)
結太はそこで改めて、二人を観察するように眺めてみた。
イーリスは、未だ顔を赤らめ、気まずそうにそっぽを向いている。
国吉はと言うと、彼女の頭に手を乗せ、大きな手で、クシャクシャと撫で続けていて――……。
まるで、小さい子をあやす大人だ。
やはり、〝叔父と姪〟が一番しっくり来るなと、結太はうんうんとうなずく。
そんな結太に気付き、イーリスは怪訝そうに、
「……なぁに、結太? 一人でうなずいたりして……。何か言いたいことでもあるの?」
腕を組み、顔をしかめて訊ねて来た。
結太は、『いや。言いたいことっつーか……』と前置きしてから、
「なんかさ。国吉さんとイーリスって、〝お嬢様とボディガード〟ってゆーより、〝叔父と姪〟みてーだなって思ってさ。姪の行き過ぎた言動を、叔父がたしなめつつ見守る……みてーな? なんかそーゆー、ほのぼのしたもんを感じるっつーか……。うん。なんかいーよな、そーゆー関係って」
結太は、『〝雇い主と雇われボディガード〟ってのより、断然いーじゃん。血の繋がった親戚みてーな、あったかい感じがしてさ』と続け、アハハと笑う。
結太としては、良いことを言ったつもりだった。
堅苦しい、〝雇用主と雇用者〟のような関係より、温かみのある、〝叔父と姪〟のような関係の方が、見ていて気持ち良いと。微笑ましくて最高じゃないか、と。
だが、イーリスは〝叔父と姪〟というたとえが、相当気に入らなかったらしい。
鋭く結太を睨み付けると、『ジョーダンじゃないわッ!!』と声を荒らげた。
「どーしてアタシが、国吉なんかの姪にならなきゃいけないのよ!?――『血の繋がった親戚』!? そんなワケないでしょッ!! 国吉は、義父の大学時代の後輩ってだけで、アタシとは縁もゆかりもない、ただの赤の他人なのよッ!? 叔父だなんてあり得ないわッ!!」
イーリスの剣幕に結太はギョッとし、一歩足を引いた。
ここまで怒る理由がわからなかった。
もしかして、たとえではなく、本当に叔父と姪だと思っていると、勘違いしているのだろうか?
ならば誤解を解かなければと、しどろもどろになりながらも、一応説明を試みてみる。
「え……っと……。だから、その……。べつに、ホントの叔父さんと思ってるワケじゃ……ねー……んだ、けど……?」
「ホントに思ってなくたって不快よッ!! こんなケーハクな男と親戚扱いされるなんて、絶対に御免だわッ!! 血が繋がってるとかってふざけたこと、もう二度と言わないで!! 言ったら許さないッ!! 結太との縁は、思いっきり断ち切ってやるから、そのつもりでいなさいよねッ!?」
早口でまくし立てた後も、イーリスは興奮冷めやらぬ様子で、大きく肩で息をしている。
結太はただただ驚いて、目を見開いたまま、しばらくその場で固まっていた。
「……お嬢。何を一人で興奮してるんです? 結太さんも他の方々も、ビックリしちまってるじゃないですか」
苦笑を浮かべた国吉が、イーリスに声を掛けたとたん、結太以外の者達も、ハッと我に返り、キョロキョロと周りを見回す。
国吉の言葉通り、皆驚いて、固まってしまっていたようだ。揃って目をぱちくりさせている。
イーリスはバツが悪そうに目を伏せると、くるりと後ろを向き、大股で歩き出した。
「お嬢?……どこに行くんです? これから、皆さんと遊ぶおつもりだったんでしょう?」
すかさず、イーリスの背に向かって、国吉が疑問を投げ掛ける。
「もういい! 気分が悪いから、一人でそこら辺を散歩して来る。アタシのことは、放って置いて結構よ。みんな、好きにしてればいいわっ」
一度も振り返ることなくそう告げると、彼女は、何処かへと歩いて行ってしまった。
国吉は、『……ったく。しょーがねーな』とつぶやいた後、
「すみませんね、皆さん。うちのお嬢が、ご迷惑お掛けしまして。……なんかねぇ、ここんところ変なんですよ、お嬢。急に機嫌が悪くなったり、塞ぎ込んじまったり……いろいろね。あるんですよ、最近。以前は、あそこまで気まぐれなお方じゃあ、なかったんですがね……」
複雑な表情で、だんだんと小さくなって行くイーリスの背を見つめ、小さくため息をつく。
――が、すぐにまた、愛想笑いを浮かべ、
「ま、私らのことはお気になさらず。皆さんで、楽しんでらしてください。お嬢のことは、私めにお任せを」
軽く会釈してから、慌てたように、イーリスの後を追って行った。
残された者達は、それぞれ顔を見合わせ、首をかしげると、
「さて。……どーしよーか……?」
皆を代表しての結太の質問に、困り顔で返し、再び首をかしげるのだった。




