第4話 結太の片恋相手は小動物的癒し系少女
結太の想い人である伊吹桃花は、二年に進級してから同じクラスになった、小柄で華奢な、とても愛らしい少女だ。
動物に例えるなら、癒し系の小動物。もっと詳しい例を挙げれば、愛玩犬の代表格とも言える、トイプードル――といったところだろうか。
結太などは、小首をかしげた彼女に、潤んだ瞳でじぃっと見つめられただけで、心臓がドックンと跳ね上がり、たちまち赤面してしまうし、彼女のほわんとした、心が温かくなるような笑顔を見るだけで、胸が締め付けられてしまうほどだ。
もし、人間に〝理性〟というものが存在していなかったならば。
桃花の可愛らしさを感じるたび、結太はギュギュギュゥゥッと、力の限り抱き締めてしまっていたに違いない。
性格は、どちらかと言うと消極的。
いつも、幼馴染で大親友の咲耶の背に庇われ、縮こまっているような印象を受ける。(実際、桃花の側には、常に咲耶がいた。彼女はクラスが違っていても、学校の行き帰りも、昼休みも、龍生と付き合うようになってからも、可能な限り、桃花と行動を共にしていた)
咲耶の〝桃花愛〟が強過ぎるため、龍生と恋人同士になる以前は、陰で『もしかして、GL?』『密かに付き合ってる?』などという噂すら、立てられていたくらいだった。
龍生は今でもそれを気にしていて、『俺の最大のライバルは、伊吹さんだと思っている』と、つい最近も、真面目な顔で語っていた。
「ライバルって、なんだよそれ? 保科さんは、おまえと付き合ってんのにか?」
思わず笑ってしまったら、
「笑い事ではないぞ。俺は本気で言っているんだ。……伊吹さんは、他の男共などより、遥かに手強い」
龍生はニコリともせず、呆れるほど真剣な口調で返して来た。
どこまで本気に受け取ればいいのか、正直、結太にはわからなかったが……。
女友達に溺愛されてしまうほど、魅力的な人と言うことだろうと、納得することにした。
とにもかくにも。
伊吹桃花は、身近な人間の庇護欲を、無性に掻き立ててしまうような、外見内面共に愛らしい――けれど、意外と芯はしっかりしている少女なのだ。
その〝想い人〟である伊吹桃花に、何故、結太は避けられてしまっているのか?
発端となる出来事は、イーリスが転校して来た日に起こった。
その日の放課後。
結太は、桃花に告白する予定だった。
……いや。
本当は数日前にも、告白するつもりで、桃花を屋上に呼び出した(正確に言えば、龍生が呼び出してくれた)のだが。
多少の手違い(?)があり、結局その日は、告白出来ずに終わった。
龍生にも咲耶にも(特に咲耶にだが)、告白出来なかったことをひどく責められた。
結太としては、少し間を置き、気持ちを落ち着かせてから、改めて告白しようと思っていたのだが、二人に急かされ、週明けの月曜日に、再び告白することを約束させられてしまった。
しかし、突然転校して来たイーリスにより、その約束は果たせずに終わる。
放課後、結太が桃花に声を掛けようとしたら、先にイーリスが声を掛けて来たのだ。
彼女はいきなり、『新居の整理を手伝ってほしい』と頼んで来た。
突然過ぎる話だったので、当然断ったのだが、イーリスは引き下がろうとせず、『この街に引っ越して来たばかりで、知り合いがいない。他に頼める人がいない』のだと主張し、半ば強引に、結太を連行して行った。
説明し忘れていたが、イーリスが転校して来る少し前に、結太は彼女と知り合っている。(――と言っても、結太が怪我で入院していた時、屋上で出会い、ほんの少しだけ、言葉を交わした程度の知り合いだったが)
その、たった一度会ったきり、十数分ほど言葉を交わしたきりの少女が、自分の通う高校に転校して来るなど、その時は夢にも思っていなかった。
その上、彼女の新居だというところまで連れて行かれてみれば、そこは結太の住むマンションで……更に驚くことに、自分のうちの隣だったのだ。
衝撃を隠し切れない結太を、イーリスはこれまた強引に、部屋に引き入れようとした。
桃花に誤解されるようなことはしたくないと、しばらくは、部屋の前で踏ん張っていたのだが。
業を煮やしたイーリスが、突如として、玄関のドアを全開にし、
「これでいーでしょ? アタシが結太に襲い掛かろうとしたって、大声上げられたら終わりよ」
などと、まるで男の台詞のようなことを言い放った。
それで一気に緊張が解れた結太は、『女子にそこまでやられて断んのも、逆にカッコ悪ぃーか』と、中に入ってしまい……。
哀れ、結太の受難は、そこから始まったのだった。




