第1話 面片会女性会員三名、休日に集結する
イーリス提案の〝面片会〟が発足してから、およそ一ヶ月後。
期末テストも終わり、夏休みが数日後に迫っていた、ある日曜の昼下がりのことだ。
桃花と咲耶は、ある人物から、某大型ショッピングセンターに呼び出されていた。
待ち合わせに指定された場所は、ショッピングセンター内にある、広場の大きな(三メートル以上はありそうな)カラクリ時計の前だ。
二人を呼び出した〝ある人物〟とは、イーリスのことなのだが……彼女が呼び出したにもかかわらず、約束の時間から、既に三十分は経過していた。
咲耶は、時間にルーズな人間が許せないタイプだ。約束の時間ピッタリになった瞬間から、イライラし始めた。
仁王立ちして腕を組み、右足の爪先を、忙しなく上げたり下げたりし、怒りを露わにしている。
桃花はその横で、祈るように両手を組み合わせ、ヒヤヒヤしながら、イーリスが早く来てくれるよう、一心に祈っていた。
それから数分後。
「桃花、咲耶っ! ごめんねーーーっ! 思いっきり寝坊しちゃったーーーっ!」
両手を大きく振りながら、イーリスが笑いながら駆けて来る。
これだけ待たせておいて、ヘラヘラ笑って現れたのが気に入らなかったのだろう。咲耶は鬼のような形相でイーリスを睨みつけた。
「寝坊したなら寝坊したで、何故メッセを送って来ないッ!? 何のために、携帯番号とIDを交換したと思ってるんだ!? こういう時のためじゃないかッ!!」
怒りや苛立ちを隠そうともせず、大声で言い放つ。
イーリスは、長い髪を片手ですくって耳に掛けると、エヘヘと笑って。
「うん。まあ、それはそうなんだけど~……。メッセ送ってる暇あったら、急いでここに向かった方がいいかなーって思って」
「メッセなんて、『ごめん、寝坊した』だけで済む話だろう!? それでもおまえは、直接来た方が早いって言うのか!?」
前のめりになって、イーリスを叱り付ける咲耶の腕に、桃花は必死にしがみつく。
周囲の人々から、すっかり注目を浴びてしまっているのも、無性に恥ずかしかったし、会って早々、ケンカになるのも嫌だった。
「落ち着いて咲耶ちゃんっ。イーリスさんだって、悪気があったわけじゃないでしょう? ちゃんと謝ってくれたんだし、許してあげようよっ」
「謝ったって言ったって、ヘラヘラ笑いながらじゃないか! 反省しているようには思えん!」
「えーっ? ちゃんと反省してるわよぉー?――って、そんなことより! ほらっ、早く買いに行きましょっ? お店はこっちよーっ」
イーリスは、二人の手を強引に引っ張り、ある目的の場所に向かって歩き出した。
急に引っ張られて困惑した桃花と咲耶は、顔を見合わせてから、
「店っ? 店って何だ? いったい、どーゆーことだっ?」
「う、うん……。お店って、何のお店なの? どーしてイーリスさんは、今日、わたし達を呼び出したの?」
訊ねる二人に、イーリスは振り返りもせず答える。
「えー? 何のお店かって、決まってるじゃない! 水着よ水着っ! 秋月くん家の別荘って、無人島にあるんでしょ?――ってことは、周りは海! 見渡す限り海よ! 海と言ったら水着! 水着がなくっちゃ始まらないわ! 今日は三人で、可愛い、アーンド色っぽい水着を、選びっこしましょーってこと!」
「な――っ!……み、みみみ水着だとっ!? 何故そんなものを――っ? 水着なんて、学校指定のものがあれば充分だろう!?」
咲耶が放った言葉を耳にしたとたん、イーリスはピタリと立ち止まった。
「『学校指定のもので充分』……ですって?」
前を向いたまま、低い声でつぶやく。
それからくるりと振り返り、
「何を言ってるの咲耶ったら!? 夏のバカンスに、学校指定の水着を――スク水を着ようってゆーの!?……嘘でしょう!? 冗談よね!? 正気で言ってるとは思えないわ!! もし、正気の上に本気で言ってるんだとしたら、恋人である秋月くんがあまりにも可哀想よ!!」
頭ごなしに決めつけると、咲耶をキッと睨んだ。
反論された意味がわからず、咲耶は一瞬きょとんとしたが、すぐさまムッとして。
「秋月が可哀想って、どーゆーことだ!? どーして学校指定の水着だと、秋月が可哀想になるんだよ!?」
「どーしてって、決まってるでしょ!? 恋人と海で遊ぶのに、可愛くもなければ色気もない、あんなつまらない水着選ぶ女がどこにいるのよ!? 咲耶は秋月くんに、『可愛い』とか『綺麗だ』とかって、思われたくないの!? 呆れられたいワケ!?」
早口でまくし立てられ、さすがの咲耶も、思わず一歩足を引いた。
だが、ここで負けてはいられないと思い直したのか、引いた足を元の位置に戻し、両手を腰に当てて、イーリス以上の大声を張り上げる。
「何だよ『呆れられる』って!? 学校指定のスクール水着を着たら、どーして秋月が呆れるんだ!? うちの高校指定の水着は、シンプルな黒一色に、左右に入った白いラインがクッキリしてて、競泳用水着みたいでカッコイイじゃないか!! 私は好きだぞ!?」
自信満々に言い切る咲耶に、イーリスは『信じられない』とでも言っているかのように、口を半開きにして固まった。
そして再び、
「カッコイイ!? あれが!? ワンピースタイプのならまだともかく、タンクトップとスパッツを組み合わせたようなデザインの、スク水が!? あれが『カッコイイ』ですって!? あれならまだ、前に私が通ってた聖令女学院のスク水の方がマシだったわよ!! ワンピースタイプだったもの!!――でもホント、咲耶ったらセンスないのね。それだけ綺麗でスタイルも良いのに、もったいない。ガッカリだわ!」
一方的にまくし立て、フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
咲耶は『センスない』と言われて頭に来たが、桃花にそっと腕を掴まれ、ふるふると首を横に振られてしまっては、堪えるしかない。
ハァ~っと深く息を吐き出し、前髪を掻き上げると、
「……わかった。そこまで言うなら、スクール水着は断念してやってもいい。その代わり――」
咲耶はイーリスをひと睨みした後、フッと、意地の悪い笑みを浮かべた。
「そこまで私を侮辱するからには、さぞや、センスには自信があるんだろうな?」
「え?……え、ええ。もちろんあるわよ?」
「だったら、その素晴らしいセンスとやらで、私と桃花に似合う水着を選んでみせろよ。その水着を試着した後、私と桃花が共に納得したら……その時は、『参りました』と言って頭を下げてやる。だが、私と桃花のどちらか一人でも、納得させることが出来なかったら、もう口出しはさせないぞ。私も桃花も、スクール水着を持って行く。それでいいだろう?」
「えっ!?」
二人の間に挟まれ、ヒヤヒヤしつつ見守っていた桃花は、咲耶の『私も桃花も、スクール水着を持って行く』という言葉に目を丸くした。
二人だけの問題だと思っていたのに、まさか、自分も数に加えられていようとは。
桃花は内心ハラハラしていたが、その様子に気付くことなく、二人の顔を見比べると、イーリスはこっくりとうなずいた。
「わかったわ。必ず二人を納得させてみせる!」
対決姿勢で睨み合う、咲耶とイーリスの横で、桃花は困惑していた。
桃花だって、恋する女の子だ。
出来ることなら、結太に『可愛い』と思ってもらえるような、素敵な水着を身につけたい。
それなのに、この流れで行くと、イーリスが選んだ水着に、咲耶と自分が納得しなければ……咲耶だけでなく、自分までもが、スクール水着を持って行かなければならなくなるのでは?
(えぇえ~~~? そんな、困るよ……。咲耶ちゃんには悪いけど、わたしもスク水には反対だし……。夏休みの思い出作りに、海でスク水はないよ。……ああ、お願いイーリスさん! 咲耶ちゃんが納得せざるを得ないような、センスの良い水着選んで~~~っ?)
未だ睨み合う両名に挟まれ、桃花は胸の前で両手を組み合わせ、ただひたすらに、イーリスが勝利しますようにと祈っていた。




