第20話 結太、イーリスの『仲を取り持つ』発言に一瞬期待する
結太が机に突っ伏し、小さく呻いていると、右の二の腕をポンポンと叩かれた。
顔をしかめたまま、僅かに顔を上げた彼の目に、ニコリと微笑むイーリスが映る。
まだ浮かれてるのかと思いつつ、結太が『何か用か?』と訊くと、彼の方に体を傾けながら、
「ねえ。結太と桃花って、まだギクシャクしたままなの? 今日のお昼も、一言も話してなかったじゃない?」
などと、ささやくような小声で訊ねて来た。
(はあ?……ったく。何を呑気に。こんなことになってんのは、誰のせーだと思ってんだよ?)
イーリスの態度にイラッとし、軽く睨んでやる。
すると彼女は、結太の機嫌が悪いことなどには、全く気付く気配もなく、
「ねえねえ。だったら、アタシが取り持ってあげましょうか?」
いきなり何を思ったか、楽しげな様子で訊ねて来た。
「はああ? 取り持つ? 取り持つ、って…………いったい、どーやって?」
イーリスが悪いわけではないが、彼女が原因で、桃花と気まずくなってしまったのに、何を言ってるんだと、一瞬思った。
思ったのだが……。
本当に〝取り持つ〟ことが出来ると言うのなら、いっそ、彼女を頼ってみてもいいのではないか?――と、すぐさま思い直したのだ。
「どーやってって、そんなの決まってるじゃない。アタシが直接、桃花に訊いてみるのよ。『もしかして、この前のことが原因で、結太とギクシャクしちゃってるの?』って。それで、『そうだ』って答えたら、彼女が納得するまで説明するの。『あの時は本当に、急に現れたGに驚いて、目の前の結太に飛びついちゃっただけなのよって。怖くて堪らなくて、パニックになって、何が何だかわからなくなっちゃったの。他に頼れる人もいなかったから、藁にもすがる思いで、誰でもいいから助けてって気持ちで、結太にしがみついちゃっただけなのよ』ってね」
そう告げると、イーリスは『任せなさい』とでも言うように、軽くウィンクする。
だが結太は、その言葉を聞き、一気にテンションが下がってしまった。
「なーんだ。どんな風に取り持ってくれんのかと思ったら、それだけかよ。……その説明なら、とっくにしてくれたじゃねーか。それでも納得してもらえなかったから、今、こんな状況に陥ってんだろ?」
……そうなのだ。
あの時の説明なら、後日、イーリスからも咲耶からも、桃花に散々してくれている。
だから結太も、これでわかってもらえただろうと、ホッと胸を撫で下ろしたのだ。
しかし、その考えは甘かった。
結局、その日からずっと、結太は桃花に避けられ続けているのだから。
「一度説明してダメだったことは、何度繰り返したって同じなんじゃねーの? じゃなかったら、最初に説明した時に、理解してもらえてたはずだろ?」
絶望的な気分になりながら伝えると、イーリスは不満げに、ぷうっと頬を膨らませた。
「やーねぇ、結太ったら。たった一度説明しただけで、諦めちゃうの? 一度でダメだったら、二度三度って、頑張ってみればいいじゃない。そしたらいつかは、想いが届くかもしれないわ。よく言うでしょう? 〝三度目の正直〟って」
「……〝二度あることは三度ある〟、とも言うよな……」
小声で反論する結太に、イーリスは呆れ、更に何か言おうと口を開く。
――が、教室の壁掛け時計に何気なく目をやり、五時限目が始まる二分前だと気付くと、
「そろそろ先生が来ちゃう頃だから、ここはいったん引いておくけど……。とにかく、放課後にもう一度、桃花に話してみるわ。それでわかってもらえなくても、何度でも、説明し続けるつもりよ。アタシのせいで、結太が桃花と気まずいままだなんて嫌だし、何より申し訳ないもの。だから……ね? ここはアタシに任せて?」
可愛らしく小首をかしげるイーリスを、ぼんやりと眺めつつ……。
結太は『一応、自分が原因だってことは認識してるんだな』と思い、力なくうなずいた。




