第17話 イーリス、会名に不満な会員達にムクれる
イーリスの罠に見事にハマり、面片会に加入することになった、結太と龍生、桃花と咲耶だったが。
あまりにも、〝面片会〟というネーミングが酷いと、桃花以外の三人は、サークル名を変えてほしいと訴えた。
「あら。面片会の何がいけないの? 〝面白いこと、とにかく片っ端からじゃんじゃんやってみよう会〟、略して〝面片会〟。……うん。我ながら、絶妙なネーミングだと思うけど?」
(――絶妙!? いったいどこが!? どの辺りが!? 本気で言ってるとしたら、かなりヤバイぞイーリス!?……それにさっきは、〝面白いこと、片っ端からやってみよう会〟――とかって言ってなかったか? 〝とにかく〟と〝じゃんじゃん〟が、たった数分の間に付け足されてるぞ!? どっちが正式名称なんだ!?)
三人は心でツッコミを入れつつ、センスが悪い上に、結構いい加減なイーリスに呆れ返り、じとっとした視線を送った。
イーリスは、三人の視線から無言の抗議を感じ取ると、ムッとしたように唇をとがらせる。
「むぅぅ……。何よ何よっ、みんなして、不服そうな顔向けないでちょうだい! この名前の、何が気に入らないって言うのよ!?……だいたい、面片会が嫌だって言うなら、他にちゃんと、素晴らしい名前を考えてくれてるんでしょうね!? 面片会以上の名前、すぐに出せるんでしょーねッ!?」
「……素晴らしい……名前……?」
結太、龍生、咲耶は、それぞれ顔を見合わせてから、『うぅ~ん』と唸って頭を抱えた。
三人とも、『〝面片会〟はないだろう』と思ってはいるものの、特に、良い名称が浮かんでいたわけではないのだ。
イーリスは三人の様子を窺うと、勝ち誇ったようにニンマリ笑い、片手で肩に掛かる髪を払った。
「ほ~らご覧なさい! 〝面片会〟以上に素敵なサークル名なんて、浮かびもしないんでしょう? 良い案を出すことも出来ないくせに、文句だけ言うなんて勝手ね」
三人はぐっと詰まった後、バツが悪そうに視線をそらした。
悔しいが、イーリスの言う通りだ。
文句を言うのは簡単だが、良い案(サークル名)が出せないのであれば、どうしようもない。
けれど、ほとんど無理やり引き入れられたようなサークルの名を、真剣に考える気にもなれなかった。
「じゃあ、いい? サークル名は〝面片会〟に決定!……ってことで、文句ないわね?」
ニマニマと笑いながら、念押しして来るイーリスに、三人は渋々うなずいた。
このサークル名を、周囲に主張して回るわけではないのだろうし、まあ、実害はないだろう――と、ムリヤリ自分を納得させたのだ。
イーリスは、満足げに何度もうなずくと、『それじゃあ早速、本題に入りましょう』と言いながら、ぐるりと四人を見回す。
「本題?――本題って何だ?」
首をかしげる結太に顔を向け、
「本題は本題よ。面片会で、これから何をやって行こうか――っていう、話し合いをしましょうって言ってるの」
さも当たり前のことであるかのように告げると、イーリスは背筋を伸ばし、腕を組んだ。
続けて、瞳をキラキラと輝かせ、
「――で、さっきもちらっと言ったけど、バイトは絶対にしたいと思ってるの。だからこれは、決定ってことでいいわよね? 期末テストが終われば、すぐに夏休みだし……バイトを開始するには、絶好のタイミングだと思わない?」
などということを、唐突に主張して来た。
「夏休みはダメだ。君を除く四人は、既に予定が決まっている」
すかさず、龍生がイーリスの案に異を唱えると、彼女は目を丸くして、再び四人を見回した。
「予定? 予定ってなーに? 面片会の活動より重要なこと?」
「無論だ。この予定は、君が転校して来る前から決まっていた。今更取り消せないし、取り消す気も毛頭ない」
イーリスの目をまっすぐ見つめ、龍生はキッパリと言い切る。
まるで、『この予定を、バイトなどで潰されて堪るか』とでも、思っているかのようだ。
龍生の言う〝夏休みの予定〟とは、〝秋月家の別荘(ちなみに、秋月家所有の無人島にある)に行くこと〟だ。
本当は、別荘に行く予定だったのは、龍生と咲耶のみだったらしいのだが、『二人だけで行くと、家の者達に妙な勘ぐりをされて困る』という龍生の都合により、結太と桃花も、加わることになったのだ。
しかし、別荘に滞在する期間は、一週間程度と結太は聞いている。
その他の日は空いているので、バイトも、始めようと思えば、始められるはずなのだが……。
少なくとも龍生には、夏休みにバイトを始める気など、まったくないようだった。