第16話 一同、イーリスの生い立ちに驚愕する
思い掛けないイーリスの発言に、龍生のみならず、その場の誰もが目を見張った。
藤島家は、秋月家に匹敵するほど財力があると、龍生から聞いていたので、庶民的感覚など、ほとんど持ち合わせていないに違いないと、皆思っていたのだ。
イーリスが生粋のスウェーデン人だということは、見た目からも明らかだし、父親と血が繋がっていないことは知っていた。
しかしまさか、母親が再婚するまでは、貧しい生活を送っていたとは……。
「そうか。君の過去については、そこまで詳しく知らなかった。失礼なことを言って、申し訳ない」
イーリスについて、多少のことは祖父から聞いていたものの、母親の再婚前のことは、リサーチ不足だったと、龍生は猛省した。
「えっ? やだっ、そんなに沈み込まないで? アタシべつに、怒っているわけじゃないのよ?」
珍しくうな垂れている龍生を見て、イーリスは慌てたように、体の前で両手を数回交差させる。
そこまで落ち込ませてしまうとは、思ってもいなかったようだ。
しかし、ふと何かを思いついたかのように、動きを止めると、
「……でも、そうね……アタシって気まぐれだから、アルバイトに限らず、もっといろいろな、好奇心を刺激するようなこと、やってみたくなっちゃうと思うのよね。たとえば……合コン、とか?」
ニヤリと笑って、龍生の反応を窺う。
「ご――っ、合コン!?」
すかさず顔色を変えた龍生に、イーリスは片手で口元を押さえ、思わせぶりにフフフと笑った。
「そうよ? 咲耶が合コンなんて参加したら、あっという間に男の子達に囲まれちゃうでしょうね。携帯番号やIDだって訊かれまくり渡されまくりで、もーうターイヘーンってなっちゃうに決まってるわ。……フフフフフっ。どーする秋月くん? 気になっちゃうでしょう?」
……マズい。
龍生がどんどん、イーリスに追い詰められて行く。
二人のやりとりを、ヒヤヒヤしながら見守っていた結太は、徐々に焦りを感じ始めていた。
今の龍生は、咲耶を人質に取られた上で、相手の要求を受け入れるか受け入れないかの、交渉をさせられているようなものだ。
龍生にとって、唯一の弱点とも言うべき咲耶が人質とあっては、要求を受け入れるのも、時間の問題という気がする。
……しかし、イーリスも大したものだ。
結太達と知り合って間もないのに、どうすれば、相手が自分の思うように動くか、既に見極めているかのような、言動をしてみせるではないか。
まずは桃花を落とし、彼女にとことん弱い咲耶を引き入れ、次に、その咲耶をダシにして、龍生をも引き入れようとしている。
……マズい!
このままでは確実に――……。
「もし、どうしても咲耶が心配なんだったら、秋月くんも面片会に入ることをおススメするわ。アルバイトでも合コンでも、一緒に参加すれば、言い寄って来る男性達から、咲耶を守ることも出来るでしょう?」
――来た!
最後の一押しだ。
イーリスの目的は、最初からここにあったのだ。
いよいよマズいぞと、結太が固唾を呑んで見守っていると、龍生は片手で額を押さえ、深々とため息をついた。
「……わかった。不本意だが、降参だ。俺も面片会に入ろう」
(やっぱそー来るかーーーーーーーッ!!)
結太は『ブルータス、おまえもか』的気分で、龍生の陥落に、ガックリと肩を落とした。
イーリスは、当然満面の笑みで、
「フフフフフっ。もちろん歓迎するわよ、秋月くん。……で、結太はどうするの?」
くるりと結太に顔を向け、不敵に笑ってみせる。『残るはおまえだけだ』と、顔に書いてあった。
「うぇっ!…………オ、オレ?」
「そーよ。結太はどーするの? 面片会、入る? 入らない?……入らないなら……」
そこで一瞬、イーリスは桃花に視線を移してから、再び結太をじっと見つめた。
まるで、『アルバイトや合コン、やるかもよ? そうしたら、当然桃花にも参加してもらうけど……放って置いていいの?』とでも、言っているかのようだ。
結太は『う――っ』と詰まった後、しばらく目をつむって考え込んだ。
……が、いくら考えようとも、桃花のことがある限り、結太の取るべき道は、ひとつしかない。
龍生同様、大きなため息をつくと、
「あーもー、しゃーねーな。オレも入りゃいーんだろ? その、〝面片会〟とやらに……」
渋々ではあるが、結太はイーリスの誘いに乗った。
「やったぁ!! これでめでたく、五人揃って活動出来るわねっ」
体の前で、両手をパンと打ち鳴らし、イーリスは嬉しそうに微笑む。
まんまと彼女の策略にハマってしまった面々は、それぞれ顔を見合わせ、諦めの境地を意味するかのような、弱々しい苦笑を浮かべた。




