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第15話 イーリス、龍生の勧誘を開始する

「じゃあ、次は秋月くんね。恋人の咲耶が加入してくれたんだもの。もちろん、面片会に入ってくれるんでしょう?」


 期待を込めた瞳でじぃっと見つめ、イーリスは身を乗り出しながら訊ねる。

 龍生は僅かに顔をしかめながら、ゆっくりと腰を下ろすと、


「いや、僕は――」


 断ろうとしているかのような言葉を発したが、最後まで言わせまいとしたのか、龍生の言葉をさえぎるように、イーリスが早口で語り出した。


「面片会の活動のひとつとして、アルバイトも考えているの。前の学校ではバイト禁止だったから、やってみたくって堪らないのよね。この学校、許可願いさえ出せばバイトはOKなんでしょう?――ねえ、咲耶。咲耶はやってみたいと思わない?」


 訊ねられた咲耶は、まんざらでもない顔で、


「バイトか……。うむ。まあ、興味がないわけでもないが――」

「本当!? じゃあ、是非(ぜひ)やりましょうよ! 咲耶は美人だから、対面でのお仕事なんかいいんじゃないかしら? ファストフード店とか、カフェとか、なるべく可愛らしい――男性受けしそうな制服のところを選んだ方がいいわね。そうしたら、咲耶目当てで男性客が殺到して、お店にも喜ばれるに違いな――」


却下(きゃっか)!!」


 ひと際大きい声で、龍生が反対の意を表した。

 ギョッとする咲耶達に、龍生は厳しい顔つきでイーリスを見据える。


「何故咲耶が、不特定多数の男共の接客を、わざわざしなければいけないんだ? 金銭的に困っているわけでもないだろう? 必要性を全く感じない。俺は反対だ」



 一人称が、『僕』から『俺』になっている。

 龍生が己のことを『俺』と称するのは、ごく親しい者の前か、余裕のない時だけだ。

 つまり、今の龍生は余裕をなくしている――ということになる。



「あら。残念だけど、秋月くんには反対する権利なんてないのよ? だってこれは、面片会の活動についての話し合いだもの。面片会以外の人間が、何を言おうと無駄(むだ)なの。代表であるアタシが認めないから」

「な――っ!」


 勝ち誇ったように、満面の笑みを浮かべるイーリスを前に、龍生はしばし絶句(ぜっく)した。

 だが、すぐに気持ちを立て直し、


「サークルの代表が認めなければ、いかなる意見も受け入れないと言うのは、いささか横暴(おうぼう)だと思うが?――第一、メンバーでなくても、俺は咲耶の恋人だ。恋人が怪しいことを始めようとしている時に、黙っていられるはずがないだろう?」


 冷たい視線をイーリスに向けつつ、反論する。

 イーリスはそれにも(ひる)まず、余裕の笑みすら(たた)えて、


「『怪しいこと』って、もしかしてアルバイトのことかしら?……フフッ。嫌だわ、秋月くん。ファストフード店でもカフェでも、たくさんの高校生が働いているのよ? その場所でバイトすることを『怪しいこと』だなんて言ったら、一生懸命働いている高校生達に、失礼だと思わない?……まあ、富裕層(ふゆうそう)である秋月家のお坊ちゃまには、普通の高校生達が働く場所でも、みんな怪しく見えてしまうのかしら?」


 まるで、裕福な家庭に生まれた龍生を、皮肉(ひにく)るかのような言葉を吐いてみせた。

 これには、さすがの龍生もムッとしたらしい。僅かに眉を吊り上げてイーリスを見返す。


「誰も、一言もそんなことは言っていないだろう?――そもそも、俺が〝秋月家のお坊ちゃま〟なら、君は〝藤島家のお嬢様〟じゃないか。君の父親は、明治初期に複数の事業で財を()した、藤島一門の六代目に当たる人だったはずだ。だとすれば、君だって富裕層の人間だろう? だからこそ、〝普通の高校生〟らしく、アルバイトしてみたいなんて思ったんじゃないのか? アルバイトだって、〝お遊び〟のうちのひとつなんだろう? 君こそ、お金を稼ぐために働いている高校生達を、冷やかしているようなものだ。そうじゃないのか?」


 龍生の発言を、眉ひとつ動かさず聞いていたイーリスは、片手で髪を掻き上げてから、フッと笑った。


「確かに、アタシの義父(ちち)は藤島家の六代目よ。でも、アタシはあなたと違って、生まれた時からお金持ちだったわけじゃない。母が義父と再婚するまでは、オンボロな木造アパートに住む、どちらかと言えば、貧しい側の小学生だったの。だから、生まれついてのお金持ちであるあなたよりは、庶民的感覚は身につけているつもりよ。お金を稼ぐことの大変さも知ってる。早朝から夜遅くまで、フラフラになるまで働いていた、母の背中を見て育ったんだもの。アルバイトの高校生であろうと、働いている人達を冷やかす気持ちなんて、微塵(みじん)もないと誓えるわ」

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