第14話 結太ら、桃花の決断に思い止まるよう促す
桃花の『面片会に入る』宣言を聞き、他の三名は口々に、
「何を言ってるんだ桃花っ!? イーリスがしょげ返っているからって、気を遣ってやることなんかないんだぞ!? どーせこんなの、同情引くための演技に決まってるんだ! 嫌だったら嫌だって、ハッキリ断っていいんだからな!?」
「そうだよ、伊吹さん。無理に入ることはない。同じ団体に所属し、同じようなことを考え、同じような行動を取らなければ認めないとする友情など、真の友情たり得ないからね。どちらか、または双方共に無理をしなければ結べない関係性など、どうせ長くは続かないよ?」
「伊吹さんは優しーから、イーリスに合わせてやんなきゃ可哀想って思ってんのかもしんねーけど、嫌だったら嫌って言ってやんなきゃ! イーリスみてーに空気読めねータイプに、『言わなくても、そのうちわかってくれる』なんてことは、ぜってー通じねーんだから!」
などと、イーリスの神経を逆撫でするようなことを言い始める。
側で聞いていたイーリスは、こめかみに血管をピキピキと浮き上がらせ、
「フフフ……。さっきから黙って聞いてれば、あんまりなこと言ってくれるじゃない?――『同情引くための演技』? 『どちらか、または双方共に無理をしなければ結べない関係性』? 『空気読めないタイプ』?……まったく。好き勝手言ってくれちゃって。今の言葉で、みんながアタシのことどんな風に思ってるのか、だいたいわかっちゃったわよ?」
一応笑みを浮かべてはいるが、目は全く笑っていない。
結太は『ヤバッ』と、両手で口をふさいだが、咲耶と龍生は、いっこうに焦る気配もなく、平然とイーリスを見返していた。
桃花は、咲耶とイーリスを交互に見やると、思い切り首を横に振り、
「違うの、咲耶ちゃん! 同情とかじゃなくて、本当に面か――っ、……え、えと、イーリスさんのサークル?――に入りたいの! だからお願い。ケンカしないで?」
そう言って、咲耶の制服の袖を、ツンツンと引っ張る。
咲耶は目を丸くしてから、
「イーリスのサークルに入りたいって……本当に、それがおまえの本心なのか、桃花?」
桃花の言葉が本当か嘘かを見極めるため、彼女の瞳をじっと見返した。
桃花は大きくうなずくと、再び口を開く。
「わたし、少し前から、ずっと考えてたの。このまま何もせずに、高校生活を終えていいのかって。イーリスさんの言うように、高校生でいられる時期は、今しかないでしょう? それなのに、部活も何もせず、高校の三年間を終えたら……卒業式の日に、わたし、後悔しちゃうような気がするの」
「……桃花……」
「だから、わたしもイーリスさんのサークルに入らせてもらって、一緒に何かやってみたいの。イーリスさんが言ってたように、一人じゃ出来ないことでも、何人かが集まれば、いろいろ楽しいこと、出来るかもしれない。イーリスさんの話聞いてたら、本当にそんな気がして来て……だんだん、ワクワクして来ちゃったの。わたしがお仲間に加えさせてもらっても、サークルを盛り上げるとか、何かの役に立つとか、そーゆーことは出来ないかもしれないけど……でも、わたしでも協力出来ることがあるなら、イーリスさんと一緒にやってみたいの!」
桃花の瞳からそっと目をそらすと、咲耶は深々とため息をついた。
どうやら、桃花の言葉に嘘はないと、納得することが出来たらしい。
しばらくは唇を噛み、床をじっと睨みながら、何か考えているようだったが、ふいに顔を上げると、
「――ええい、儘よ! 桃花がイーリスのサークルに入ると言うのなら、私も入ってやろうじゃないか!」
大きくうなずいてから、キッパリと告げる。
すかさず龍生と結太が、
「えええッ!?」
と驚きの声を上げたが、イーリスは瞳を輝かせ、パンっと両手を打ち合わせると、
「よく言ってくれたわ、二人ともっ!――伊吹桃花、保科咲耶。あなた達を歓迎します! ようこそ、面片会へ!!」
両手を広げ、満足そうにニコッと笑った。
「ちょっ、ちょっと待ったぁああッ!!」
「本気なのか、咲耶!?」
ほとんど同時に、結太と龍生は両手で机を打ち、ガタッと大きな音を立てて立ち上がった。
咲耶は自分の席(正確に言えば、黒川くんという、このクラスの男子の机だが)に戻って着席し、再び箸を持つと、
「もちろん本気だ。何をやるかも決まっていないイーリスの怪しいサークルに、桃花を一人で加入させるわけには行かないからな。私も共に入り、よくよく見張っていなければ。桃花を預けて安心していられるほど、私はまだ、イーリスという人間を信用してはいない」
そう言ってから、厳しい目つきでイーリスを一瞥する。
イーリスはひょいと肩をすくめ、
「『信用していない』だなんて、咲耶ったらハッキリ言うのね。……でもまあ、仕方ないか。アタシ、まだここに来て間もないんだし、いきなり『信用してほしい』なんて願うのは、我儘なのかもしれないわね。……わかった。咲耶にも信用してもらえるように、これから頑張るわ。桃花だけじゃなく、咲耶とも、ちゃんと友達になりたいもの」
ニコリと笑うが、咲耶は表情を和らげることなく、再び弁当を食べ始めた。
桃花はハラハラした様子で、咲耶とイーリスを見比べている。
イーリスは、咲耶の素っ気ない態度に堪えた風もなく、ケロリとした顔で、今度は龍生に向き直った。