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第13話 一同、桃花の上げた大声に驚く

 桃花の大声に、咲耶もイーリスも、ギョッとなって肩をすくめた。

 イーリスはもちろんだが、特に咲耶は、桃花に大声でたしなめられるのは、初めての経験だったのだろう。口をポカンと開けたまま固まっている。


「あ…っ。あ、あの……ごめんなさいっ。……わたし、つい夢中で……」


 皆の視線が己に集中し、萎縮(いしゅく)してしまったのか、桃花はたちまち真っ赤になって、恥ずかしそうに身を(ちぢ)めた。

 とたん、ハッと我に返った咲耶は、ブンブンと首を振る。


「いやっ! 私こそすまなかった! ケンカなど、するつもりはなかったんだが……。興奮して、いつの間にか声を(あら)らげてしまっていたんだな。桃花を怖がらせて……心配させて、本当にすまなかった」


 慌てて謝る咲耶を、結太は呆れ顔で見つめ、



(『いつの間にか』、だって? 最初っから、大声出してたじゃねーか)



 思わず、心の内でツッコむ。

 すると、今度はイーリスがしおれた様子で。


「アタシもよ。咲耶と言い争いみたいになってしまって、ごめんなさい。……アタシ、前の学校では、友達らしい友達っていなかったから……転校したら、今度こそ友達を作って、一緒に、たくさん楽しいことしようって決めてたの。……桃花、病院で初めて会った時、アタシが『友達になってくれる?』って訊いたら、すぐにうなずいてくれたでしょう? あの時、すごく嬉しかったの。だから……」


「イーリスさん……」


 常に潤んでいて、(結太には)キラキラして見える桃花の瞳だが、イーリスの話を聞いているうちに、その輝きが、更に増した気がする。

 そんなことを考えながら、結太は頬杖をつき、桃花にボーっと見惚れていた。


 だが、そんな間にも、イーリスの話は続いていて――。


「この学校に転校するって決めたのはね、結太がいるなら、きっと楽しい毎日が送れるだろうなって、思ったからなの。でも、同じ学校に桃花もいるってわかって、アタシ、ますます舞い上がっちゃって……。だって、結太だけじゃなく、桃花も一緒なら、きっともっと、楽しくなるに違いないって思えたから。結太と桃花と、秋月くんと咲耶、そしてアタシ。五人もいれば、絶対、みんなで楽しいこと出来るはずだって、確信出来たから。ここに転校して来てからっていうもの、毎日毎日、『五人でどんなことしよう?』『五人なら、どんなことが出来るだろう?』って、ずっと考えてたわ。でも……」


 急に沈んだ声色になり、イーリスは暗い顔でうつむいた。


「でも、咲耶の言う通りね。脅すつもりはなかったけど、結果として、『友達』って言葉を利用したみたいになっちゃってたし……。桃花に面片会(おもかたかい)に入ってほしいからって、無理強いするなんて最低よね。せっかく友達になってくれた桃花に、本当に酷いことをしたわ。これじゃ、嫌われても仕方ないわね……」


 一気に元気がなくなってしまったイーリスを見て、桃花は慌てて、『そんなっ! わたし、嫌ってなんて……!』と否定したが、他の三名の関心は、『イーリスの中では、サークル(?)名は〝面片会〟で決定なんだな』というところにあった。

 彼女の〝面片会〟に入る気など毛頭(もうとう)ないのだが、もう少しマシな名前はないのかと、ツッコみたくてウズウズしていたのだ。


 しかし、そんな三名の思いには全く気付く様子もなく、桃花は一人で、イーリスの心配をしている。

 必死になって、『わたし、イーリスさんを嫌ってるわけじゃありません!』『お願いですから、そんなに落ち込まないでください』などと、声を掛けていた。


 イーリスはと言うと、力なく首を横に振り、


「ううん。いいのよ桃花、無理しなくても。あんな強引に勧誘されたら、誰だって嫌になるわ。アタシなんて、嫌われて当然なのよ……」


 まるで、この世の終わりを迎えたかのような顔で、桃花の席の横でうな垂れている。

 桃花はほとほと困り果て、じっとイーリスの横顔を見つめていた。


 しばらく経ち、思い定めたかのように唇を結んだ後、


「わかりました。わたし、え……と、おも……? お、おもかた――会に、入ります!」


 イーリスの方に体を向け、まっすぐに彼女の顔を見つめながら、真剣な口調で宣言する。

 二人の話を、咲耶はイーリスを警戒しながら、龍生は聞くともなしに聞きながら、結太は桃花に見惚れながら見守っていたが、桃花のこの宣言を耳にすると、


「ええッ!?」


 三人同時に、驚きの声を上げた。

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