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第11話 イーリス、唐突に〝ある提案〟をする

 イーリスは、目の前で繰り広げられている龍生と咲耶の〝イチャイチャ〟を、げんなりした表情で見つめていたが、ふいにハッと目を見開き、


「――って、違うのよ! アタシは、二人のイチャつくところが見たくて、部活の話をしたわけじゃないんだってば!」


 (おのれ)に言い聞かせるように、わざと大声で言い放った。

 両手を机に叩きつけるようにして置き、


「みんなが部活をやってないなら、ちょーどいーわ! 五人で新しいことを始めましょう!?」


 ぐるりと一同を見回して、瞳をキラキラ輝かせながら、唐突に、そんな提案をする。


 いきなり何を言い出すのかと、イーリス以外の四人は呆気に取られ、しばし沈黙が流れた。

 誰からも反応が返って来ないとみると、イーリスは可愛らしく小首をかしげ、不思議そうな顔で(まばた)きする。


「ん? どーしたのみんな? 何で黙ってるの? 賛成でも反対でもいいのよ? とにかく、このことについてどう思ってるのか、みんなの意見が聞きたいんだから」


 身を乗り出して訴えるイーリスに、咲耶は片手で頬杖(ほおづえ)をつきつつ、顔をしかめた。


「意見も何も、唐突過ぎて意味がわからん。『新しいことを始めましょう』だと? いったい、何なんだその、〝新しいこと〟というのは?」


 〝新しいこと〟になど、全く興味はなく、乗り気でもなかったが、一応訊ねてみる。

 イーリスは当然のことのように、 


「新しいことは新しいことよ。ここの五人で、新しい部活をスタートさせましょうって言ってるの」


 そう告げると、ニッコリと微笑んだ。

 彼女の発言に、四人はきょとんとしてから、やはり、意味がわからないと言った風に、それぞれが眉をひそめる。


 部活動など、するつもりはさらさらない――との咲耶の発言を、聞いていなかったのだろうか? それとも、聞いていたことは聞いていたが、理解出来なかったのだろうか?


 咲耶は更に顔をしかめ、皆の気持ちを代弁するかのように口を開く。


「はああ? 〝新しい部活〟だと?……イーリス、私達の話を聞いていなかったのか? 部活動など、やるつもりはこれっぽっちもないと、さっき言ったばかりだろう?」


 その発言を受け、イーリスはうんうんとうなずいた。『それはわかってるわよ』と、言っているかのようだ。


「部活動が嫌なら、何か、趣味のサークルみたいなものでもいいのよ。それなら、学校の許可だっていらないし、面倒じゃないでしょう? 気楽に始められるじゃない」


 どうやら彼女は、結太達が部活動をしていないのは、やりたい部活動が学校内にはなく、新しい部を作りたくても、手続きが面倒だから諦めている――とでも思っているらしい。


 咲耶は片手で前髪を()き上げてから、大きなため息をついた。

 そして、聞き分けの悪い子を相手にするかのごとく、ゆっくりと、一語一語、()んで(ふく)めるように語り掛ける。


「あのなあ、イーリス? べつに私達は、学校の許可がいるから、何の部活動もしていないわけではないんだぞ? 許可がいるとかいないとか、そんなものどうでもいいんだ。私達はただ、()()()()()()()()だけなんだよ」


 イーリスは、しばらくボーっと、咲耶の顔を見返していた。

 それから、周囲にはほとんど聞き取れない声で、


「『何もやりたくない』……だけ……?」


 ポツリとつぶやくと、カッと両目を見開き、勢いよく立ち上がった。


「そんなのダメッ!! 青春を無駄にしてるわッ!!」


 両拳(りょうこぶし)を握り、再び皆の顔をぐるりと見回すと、教室中に響き渡るほどの声で。


「高校時代は、たった三年しかないのよ? アタシ達は、今二年生でしょう? あと、たった一年と数ヶ月しか、高校生でいられないってことよ? 高校二年生というこの季節は、一生に、たった一度きりしかないの!! そんな貴重な時期に、何もやらず、ただダラダラと、過ぎて行く日々を見送っているだけだなんて……」


 イーリスは、そこで一度言葉を切り、すうっと息を吸い込んでから、


「もったいないッ!! もったいな過ぎるわッ!! それこそ青春の無駄遣(むだづか)いよッ!! 今いろいろやっておかないと、将来、絶対絶対、後悔することになるんだからッ!!――やるべきよ!! ムリヤリにでも、何かをやっておくべきだわッ!!」


 片手を胸に()え、もう片方の手を、大きく振りかざして主張する。

 まるで、熱の入った台詞を読み上げている時の、舞台役者のようなポーズだ。



(『青春の無駄遣い』だの、『将来絶対後悔する』だのって……。なんか、高校時代を無駄に過ごしたっつー自覚のある大人が、言って来そうな台詞だよな……)



 現役高校生の言うこととは、とても思えない。

 もしかしてイーリスは、未来からやって来た誰か(または自分)に、体だか意識だかを、乗っ取られているのか?


 一瞬、そんな思いが結太の胸をかすめたが、すぐさま、『まっさか。SF小説じゃあるめーし』と、苦笑しながら打ち消した。


 一方、完全に呆れた顔つきの咲耶は、頬杖をついていた手を、片手から両手に切り替え、イーリスに聞こえるようにため息をつく。


「絶対にやるべき、って言われてもな……。その『何か』ってのがわからないと、こちらとしても、判断しようがないんだがな。イーリスは私達に、いったい、何をやらせたいん――」

「〝何でも〟よッ!! 何でもいーから、ちょっとでも気になったことを、(かた)(ぱし)からやって行きましょう!?」


 咲耶が最後まで言い終わらないうちに、イーリスの興奮気味(こうふんぎみ)な声が(かぶ)さる。



(……『何でも』……?)



 さすがにそれは、大雑把(おおざっぱ)過ぎやしないだろうかと、誰しもが思っていると、


「……でも、そうね。この活動に、あえて名前を付けるとするなら……」


 周囲の反応などは全く無視して、イーリスは右拳を(あご)に当て、考え込むように目を閉じた。

 そしてしばらくの後、パチッと目を開け、両手をパンと打ち鳴らすと、


「『面白そうなこと、片っ端からやってみよう会』! 略して、『面片会(おもかたかい)』――なんてどうかしら!?」


 キラキラと瞳を輝かせ、皆の同意を求めた。

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