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両片想いでラブコメで!~想い人一筋なのに、隣人の金髪碧眼美少女がやたらとちょっかいかけてくるんだが?~  作者: 金谷羽菜
第6章

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第8話 桃花、国吉を連れて戻る

 桃花は、国吉を呼びに行ってから三~四分後に、彼を連れて戻って来た。

 国吉が現れたとたん、結太はドアの前を開け、場所を譲る。


 国吉は結太に軽く会釈すると、ドアの前に立ち、数回ドアをノックした。


「お嬢、国吉です!――いったい、どーしちまったんです? 泣きながら、部屋にこもっちまったそうじゃないですか。伊吹様から、事情をお聞きしましたが、自分は邪魔者だとか、死んでも誰も悲しまない――なんて言ってるんですって?」


 しばらく返事を待ったが、ダメだった。イーリスは何も言って来ない。

 このまま、だんまりを決め込むつもりなのだろうか?


 国吉はため息をつき、尚も続ける。


「ホントに、どーしちまったんですか? 皆さんと夏休みを共に過ごせるって、あんなに楽しみにしてたじゃないですか。それを、急に妙なことを言って、皆さんを驚かせて、困らせて……。いったい、何がしたいんです? このままでは、皆さんに嫌われてしまいますよ? それでもいいんですか?」


 ――やはり返事はない。


 国吉はお手上げといった風に肩をすくめると、隣で心配そうにしている結太と桃花を振り返った。


「申し訳ございません。一度こうなってしまいますと、手の付けようがないんですよ。今日はもう、諦めるしかないと思います」

「えっ? 諦めるって……放って置く、ってことですか?」


 桃花の問いに、国吉は苦笑してうなずく。


「はい。そうするよりほかにございません。――大丈夫ですよ。一日置けば、落ち着かれると思いますので。このまま、そっとしておきましょう」


 国吉の言葉に、結太と桃花は顔を見合わせ、困ったように眉根を寄せた。

 長年イーリスの側にいる国吉が言うのだから、従った方がいいのだろうが――。


 今日のイーリスからは、ただならぬ雰囲気が漂っていた。

 本当に、このまま放って置いても大丈夫なのだろうか?



 そもそも、国吉は、イーリスの病状を知っているのか?

 イーリスは、知っているのに隠している、と思っているようだったが……。


 だが、もし知っていたら、彼女が『死んでも誰も悲しまない』という言葉を発している時点で、不安になるのではないかと思うのだが……。



 結太も桃花も、国吉の本心がつかめず、どうしていいのかわからなくなっていた。

 しかし、国吉は、


「お二人とも、今日はお疲れになったでしょう? そろそろ、ご夕食の用意も整います。軽くシャワーを浴びて、お召し替えしましたら、ダイニングにいらしてください」


 ニッコリ笑って告げてから、さっさと階下へ行ってしまった。

 二人とも、イーリスのことは気掛かりだったが、国吉が声を掛けてもダメだったのだ。自分達がここで粘っていても、状況は好転しないだろうと判断し、国吉の指示に従うことにした。




 部屋でシャワーを浴びてから、普段着に着替え、結太がダイニングに入って行くと、まだ桃花は下りて来ていないようだった。


 正直なところ、桃花の部屋に迎えに行くかどうかで、しばらく迷ったのだが。

 男とは違い、女性はシャワーを浴びて着替えて終わり――という風には行かないのだろうし、待っていても気を遣わせてしまうだけだと思ったので、一人で下りて来たのだった。



「おっ、結太。やーっと下りて来たか。……っとぉ……けど、一人か。ちっとばかし前に、伊吹様が国吉さん呼びに来た時ゃー、何事かと思ったが……藤島様は、まだご機嫌直らねーのか?」


 テーブルの上の大皿に、数種類のパンをこんもりと積み上げていた東雲が、結太に気付いて声を掛けて来た。

 結太は眉をハの字にし、首を横に振った。


「わかんねーけど……たぶん、そーなんじゃねーの?」

「――って、なんだよ。ずいぶん冷てーなぁ。藤島様が心配じゃねーのか?」


 呆れたように腕組みされ、結太は、困ったように東雲から目を逸らす。


「心配だよ。心配だけど……。長年一緒にいて、イーリスのことよくわかってる国吉さんが、『そっとしておきましょう』ってんだから、どーしよーもねーじゃん。ヘタに刺激したら、ややこしいことになっちまうかもしんねーし……。オレだって伊吹さんだって、どーしていーかわかんねーんだよ」


 普段よりワントーンほど声を落とし、(うれ)い顔を見せる結太に、東雲は頭を()き、


「そっか。国吉さんがそう言ってんなら、そうした方がいいよな。……(わり)ぃな結太、冷てーなんて言っちまって」


 そう言って、結太の頭を、片手でクシャクシャと撫でた。

 そして再び腕を組み、


「しっかし、ホントにどーしちまったのかねぇ、藤島様は? さっきまで、あんなに楽しそーにしてらっしゃったのに。――なあ、結太。俺達がキッチンにいる間に、何かあったのか? そうでもなきゃ、いきなり、どーせ自分が死んだってどーたらこーたら……なんてこたぁ、言い始めるワケねーもんなぁ?」


 不可解そうに首を捻る東雲を前に、結太は気まずく沈黙する。



 東雲も、そして鵲も、イーリスの余命が幾ばくも無いなどとは、知る由もないのだ。

 いくら考えても、今の彼女の心情など、正確に理解することは難しいだろう。


 そして、それは結太も桃花も同じだった。

 死を直前にした人間の気持ちは、どんなにわかりたいと願っても、そう簡単に、推し量れるものではない。


 わかりたいとは思うが、どうにかしてやりたいとは思うが……。

 こればかりは打つ手がないというのが、今の結太らの、正直な気持ちだった。



 そうして、結太が思い悩んでいると。

 ワンピース姿の桃花が、やはり憂い顔で、ダイニングに入って来た。


「やったな、結太。伊吹お姫様のご登場だ。今夜は二人っきりの晩餐(ばんさん)だぞ。こういう時でもなけりゃ、二人きりになんかなれねーだろ? 藤島様には申し訳ねーが、今だけは楽しんどけよ。なっ?」


 沈んでいる結太を、少しでも慰めようと思ったのだろう。東雲はそう言って、結太の肩にポンと手を置いた。


 イーリスの事情を知らないのだ。東雲に悪気があったわけではない。

 だが、今ばかりは、



(あんな話を聞ーちまった後……しかも、イーリスの精神状態が不安定って時に、呑気に『伊吹さんと二人っきりの晩餐だ~』って浮かれてられるほど、オレはお気楽じゃねーんだよ。……っとに、トラさんは無責任でいられていーよなぁ……)



 東雲の言動にげんなりしつつ、結太は深々とため息をついた。

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