第7話 結太、イーリスに龍生と咲耶の居場所を告げる
そろそろ限界だろう。
もうすぐ日も沈む。これ以上、隠し続けることは不可能だ。
そう判断した結太は、イーリスに本当のことを告げた。
龍生と咲耶は、秋月家所有のもうひとつの島へ行っていること。
そして、三日間は戻って来ないことを。
事実を知らされたイーリスは、目をまん丸く見開き、口をパカッと開けて、しばらく固まっていたのだが。
フリーズ解除したとたん、
「ええええーーーーーッ!? 咲耶と秋月くん、三日も戻って来ないの!? しかも、もうひとつの島で、二人っきりで過ごすってゆーの!?……ええええええーーーーーーーッ!? 何よそれっ、何なのよそれっ!? 二人だけずっるーーーーーいッ!! アタシも、もうひとつの島に行ってみたかったぁああああ~~~~~っ」
拗ねたように口をとがらせ、体をクネクネと左右に揺する。
レースのカーディガンを羽織っただけの、水着姿のイーリスのたわわな胸が弾んで、結太は慌てて目を逸らした。
逸らしながら、
「しょ、しょーがねーだろっ。龍生と保科さんは恋人どーしだけど、オレ達と一緒にいたら、二人っきりになれる時がねーってんだから。それに、こーなったのは――イーリスのせい、ってとこもあるんだからな?」
そう告げた後、イーリスがやたらと〝二人の進展具合〟を知りたがっていたことに、龍生がウンザリしていたこと、そして、進展具合を賭けのネタにされ、少々腹を立てていたのだと説明した。
「だから、『賭けのネタにしたことを悪いと思ってるなら、協力してくれるよな?』って感じで言われて、断れなかったんだよ。……まあ、オレは……そんなことがなくても、龍生から『二人きりになりたいから、協力してくれ』って、素直に頼まれたら、いつでも協力する気でいたけどさ」
もともと、島に来るメンバーにイーリスが加わっていなければ、そういう約束だったのだ。結太としては、断る理由などない。
ただ、イーリスの面倒を見なければいけない分、自分の方は、桃花と二人きりになれる機会があまりなさそう……というのが、残念なところではあったが。
「え~っ? じゃあ、何? 全部アタシのせいだって言いたいの? アタシさえ、二人の進展具合を知ろうとしなければ、ずーっと面片会のメンバー五人で、行動出来てたワケ?」
イーリスは面白くなさそうに、結太をじとっと見つめる。
「えっ?……いや、それは……。その……何とも言えねー、けど……」
イーリスのことがなくても、龍生は咲耶と二人きりになろうとしただろう。
自分だって、桃花と二人きりになれるチャンスがあったなら、迷うことなくそちらを取るだろうことは、わかりきっている。
イーリスの望む、『ずーっと、面片会のメンバー五人で』行動出来ていた確率は、正直なところ、かなり低かったに違いない。
「やっぱり。……結局、アタシは邪魔者なのよね。アタシさえいなければ、秋月くんは、咲耶とずっと一緒にいられたろうし、結太は、桃花とずっと一緒にいられたのよね」
イーリスの言葉に、桃花は『えっ?』と驚き、結太は『おっ、おい!』と焦った。
しかし、二人の様子に全く気付くことなく、イーリスは一人で話し続ける。
「そーよ。最初っから、アタシは邪魔者でしかなかったのよ。アタシさえいなければ、秋月くんも結太もうまく行ってた。アタシが……アタシさえ、一緒に行きたいなんて思わなければ……言わなければ……」
イーリスの声が、徐々に震えて……目には、たっぷりと涙が浮んで来た。
結太と桃花が共にギョッとし、フォローの言葉を掛けようとした瞬間。堤防が決壊したかのように、イーリスの両目から、大粒の涙がポロポロポロポロ、次々にこぼれ落ちて来た。
「おっ、おい! べつに、邪魔者だなんて言ってねーだろ?」
「そっ、そーですよ! 邪魔だなんて思ってません! 思ってませんから……っ」
何とかなだめようと必死になるが、イーリスはふるふると首を振る。
「いーのよ。何も言わなくたって、二人が内心ではそー思ってるんだって、わかってるもの。ずっと感じてたもの。……しょせん、アタシは邪魔者なのよ。どーせ、誰からも必要となんかされてないんだわ。アタシなんて……アタシが死んだって、心から悲しんでくれる人なんかいない。アタシは……アタシは……っ、どーせ独りぼっちなんだからッ!!」
思いっきり叫ぶと、イーリスは、エントランス横の階段を駆け上がって行った。
「あっ、おい! イーリスっ!?」
「イーリスさんっ!」
二人もとっさに後を追い、階段を駆け上る。
そしてイーリスの部屋の前に着くと、閉じられたドアを何度も叩き、
「おいっ、イーリス! 勝手に思い込んでんじゃねーよッ! 誰もおまえのこと、邪魔だなんて思ってねーし、必要としてなくもねーって! だから――っ」
「嘘よッ!! 結太だって、ずっと邪魔だって思ってたクセに! 白々しい嘘つかないで! アタシが――っ、アタシさえいなければ、結太は好きな人とずっと一緒に行動出来てたんだもの! 邪魔だと思ってなかったなんて、嘘に決まってるじゃない! 適当なこと言わないでよッ!!」
「――っ!……だ、だからそれは――っ」
思わず、隣にいる桃花に視線を走らせる。
彼女は心配そうにドアの向こうを見つめていて、イーリスの『アタシさえいなければ、結太は好きな人とずっと一緒に行動出来てた』という部分を、気に留める余裕もなかったようだ。
ホッとしつつ、再び結太はドアを叩き、
「マジで邪魔だなんて思ってねーって!……確かに、おまえはいろいろ、困ったところのあるヤツだけど……たまに、ムカッとする時もあるけど。でも、なんだかんだ言って、一緒にいると楽しーしさ。騒々しーけど、面白ぇーヤツだって思ってるよ。だから、なあ――、いじけてないで出て来いって!」
必死に訴えるが、イーリスは、何の反応も示さなくなってしまった。
ほとほと困り果てていると、
「楠木くん。わたし、国吉さん呼んで来る。今は、キッチンにいるはずだよね?」
従者ら三名は、別荘に戻った早々、一階の大浴場で軽くシャワーを浴び、その後、夕食の支度をすると言っていた。
そのはずだと結太がうなずくと、桃花もうなずき返し、
「じゃあ、急いで呼んで来る!」
そう言い置いて、廊下をパタパタと駆けて行った。




