第4話 撮影を終えた一同、疲れ果ててへたり込む
国吉にお姫様抱っこされ、恥ずかしそうに写真に納まっているイーリスは、結太と桃花には、とても幸せそうに見えた。
これ自体は、ほんの小さな出来事かもしれない。
それでも、この小さな出来事が、彼女にとって、良い思い出になればいいなと、二人は心から願っていた。
その後も、結太と桃花であったり、結太と桃花とイーリスであったり、東雲と鵲であったり――様々な組み合わせで、たくさんの写真を撮った。
最後の一枚を取り終わり、国吉に、
「皆さん、お疲れ様でした! 撮影、すべて終了です!」
ニッコリ笑って声を掛けられた瞬間、結太らは一気に脱力し、ヘナヘナとその場にへたり込む。
「あ~、疲れたぁ~~~」
「いったい、どんだけ撮ったんだよ……。あんなに青かった空が、オレンジ色になっちまってんじゃねーか……」
鵲と東雲は、砂浜に両手両膝を突き、ぐったりしている。
男性二名へのリクエストは、〝ビーチフラッグス(浜辺でうつぶせになり、合図と共に、反対側に差してあるフラッグを奪い合うスポーツ)をしているところ〟や、〝クロールで競い合うところ〟など、特に体力を必要とするシーンの撮影が多かった。ヘトヘトになるのも当然だろう。
結太は、彼らほど体力を使うシーンはなかった。
しかし、〝泳げない少女に、少年が手を引いて、泳ぎを教えてあげているところ〟や、〝少女の背中に少年がサンオイル(または日焼け止め)を塗ってあげているところ〟など、嬉し恥ずかしのシーンがかなりあったので、精神的に疲れてしまっていた。
そしてそれは、桃花も同様だった。
一人、特に疲れた様子も見せず、ホクホク顔で立っていたのは、イーリスくらいだった。
被写体になることが少なかったせいもあるだろうが、それにしても元気だなと、結太と桃花は、やや呆れ顔で彼女を眺めていた。
(あれで、ホントに余命僅かだってーのか?……やっぱ、騙されてんじゃねーのかな、オレ達……?)
そんな疑惑すら浮かんで来てしまう結太だったが、そのたびに、『いや。いくらなんでも、そんな質の悪い嘘をつくはずがない』と、己に言い聞かせるのだった。
「それでは、別荘に戻りましょうか。――夕食はどうしましょうかね? 今からですと、凝った料理は出来そうにありませんが……」
「オレ……カップラーメンとかがあったら、そんなんでいーや……。なんか、あんま食えそーもねーし……」
国吉の問いに、結太は弱々しい声で答える。
東雲と鵲、そして桃花も、その意見に賛同した。
「今日は、軽いもので済ませる――ということでよろしいんですね? さすがに、カップラーメンでは適当過ぎますから、パンとサラダとスープ、こんな感じの御夕食でよろしいですか?」
再び国吉に訊ねられ、皆は『はーい』『いいでーす』と即答する。
そうして一行は、荷物があるものは荷物を持ち、別荘へと戻って行った。
――一方、秋月家所有のもうひとつの島にいる、龍生と咲耶はどうなっただろうか。
時間を少々巻き戻し、様子を探ってみよう。
龍生から、『〝大人のキス〟より先に進む覚悟があるなら、知らせに来てくれ』というようなことを言われてしまった咲耶は、ログハウスの前でうずくまり、十数分ほど動けずにいた。
なかなか、覚悟を決めることが出来なかったからだが――。
それからまた、数分経った頃。
咲耶はすっくと立ち上がり、ログハウスまで歩いて行くと、えいやっとドアを開けた。
左側に、緩くカーブを描いた階段が見えた。どうやら、ロフトへと続いているらしい。
ロフトまであるのかと思いながら、少し先に進むと、太い丸太を縦に切っただけのような、長くてガッシリとしたテーブルが置かれていた。そこに備え付けられた椅子に、龍生は、腕と足を組んで座っている。
咲耶はまっすぐ彼の前まで歩いて行くと、仁王立ちして言い放った。
「海だ! まずは海に行くぞ!」
返事をしに来てくれたのかと思っていた龍生は、その台詞を聞くと、『え……?』とつぶやき、呆然と咲耶を見返す。
咲耶は『とにかく海だ! 海で泳ぐんだ!』と重ねて言った後、
「水着に着替えて来る! おまえも用意しておけ!」
と告げ、キョロキョロと周囲を見回した。
そして、洗面所のドアらしきものを見つけると、そこへ駆け込んで行ってドアを閉めた。
(うぅ……。そんなにすぐ、答えなんか出せるかバカヤロウっ! あ、あんなきっ、キス……の先なんて、考えるのも恥ずかしいわッ!……とにかく、時間を稼がなくては。海で泳いで気を紛らわせて……こ、答えを出すのはそれからだッ!!)
そんなことを思いながら、今朝、イーリスが照れ臭そうに渡してくれた、水着の入った小箱を、ビーチバッグから取り出した。
(イーリスは、どんな水着を選んでくれたんだ? ビキニではないと言っていたが……)
ドキドキしながら小箱を開けると、黒色の水着が入っていた。『ふ~ん。黒のワンピースか』と、たたまれていた水着を広げたとたん、
「な――っ、……な、なんだこりゃぁああああーーーーーッ!?」
咲耶は大声を上げた後、絶句し――。
水着を持つ両手は、何故かワナワナと震えていた。




