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76:予知夢に秘められし謎

【登場人物】

在里 纏依(ありざとまとい)(二十二歳)……男装姿にシルバーアクセで身を包み、まるでビジュアルバンドの様なゴシックパンクファッションを着こなす、男言葉を操る勝気な女。普段は栗色に染めた長髪を後ろ一つに束ねて、顎までの前髪を右分けにしている。職業は業界では一目置かれる存在である、新生有名画家。イラストレーターの仕事も請け負っている。魔女扱いを受けた過去があり、胸には魔女の烙印として焼印が刻まれている。レグルスの共鳴者。


*レグルス・スレイグ(四十二歳)……魔王の異名を持つ無表情無愛想が常の寡黙な英国人。口を開いたかと思えば嫌味や皮肉の毒舌。全身黒ずくめの大男で肩まである漆黒の髪と目の容貌も手伝って、彼に畏怖を抱かない者はいない。歩けば誰もが道を開ける。職業は人文科学教授だが、国立図書館長も任されている。読心超能力者で纏依の婚約者。身長189cmの大柄でガッシリとした体型。纏依を救出後、彼の存在を恐れた者達から封印されてしまう。


星野(ほしの) あやめ(二十歳)……文化芸術を専攻する大学生にも関わらず、人文科学の授業にも参加している。高い学識を持っている筈なのに、天然おっちょこちょいの不思議ちゃん。纏依の良き親友にして後輩。ルーズな極ユルパーマの黒髪で前髪は眉毛の高さに切り揃えられたミディアムロング。ユリアンの共鳴者。身長154cmでバランス良いグラビア体型。


*ユリアン・ウェルズ(四十六歳)……過去に後輩だったレグルスへ犯した罪を、償う為に来日してきた英国人。予知夢能力者だが本来自分に関する予知は不可能。唯一自分の死だけが予知でき、死に掛けたところをレグルスに助けられた。天然ウェーブのミディアムロングに、前髪は顔に掛かるヘアスタイルの朱金髪に碧眼で、あやめの恋人。職業はソフトウエア開発者。身長180cmで細身の引き締まった体型。今ではレグルスの良き義兄的存在。




 ユリアンとあやめの夢の中で、レグルスは一次元世界から排出されると途端に全身が鉛の様に重くなった。この上ない極度の疲労感を覚え、それに逆らえぬまま彼は意識を失った。

 そしてフェードアウトするように視点はレグルスから遠ざかり、闇夜の空に満天の星々が瞬く中で獅子座が強調されるごとく中心に、そこからα(アルファ)星が一際明るく輝いていた。

挿絵(By みてみん)

 その星空の下にある地上では数人の人影が蠢いており、蝋燭が夜空に浮かぶ獅子座と同じ形に並べられ火が点されている。

 その内の一人が一枚の紙切れを手にしている。周囲から口々に聞こえてくる言葉。

『獅子王を称えよ……』

『全ての答えは獅子の心臓(レギュラス)の中に』

『探し物は“そこ”にある――』

 その言葉に誘われるように視点は再び人影の頭上にある夜空を仰ぐ。すると視野に入った獅子座のα星周辺の景色がグニャグニャと歪み始める。

 直後に纏依(まとい)の声が飛び込んでくる。

「レグルス!!」

 

 そこでユリアンとあやめは目を覚ましたのだった。

 そうした夢の内容をあやめは纏依に話して聞かせてから、コタツの中に足を突っ込んだまま考え込むように腕を組む。

「それで、スレイグ教授の居場所や状況は解かったんですけど、その後の光景が私にはどういう意味なのかさっぱり解かんなくて。ただ、スレイグ教授に関係している事は解かるんですけど一体どうすればいいのかは私より、ユーリの方が分析力に優れているから知っています」

「確かに話を聞いただけじゃあその数人の人影が何を行っているのかは解からないな。だが景色が歪んだシーンは多分、俺がこっちに帰る時通った次元の出入口だと思うんだ。そして最後に俺がレグの名を呼ぶ声からして、レグが帰って来た事を連想できる。で、何か解かったかユリっち?」

 纏依も一緒になって腕を組み思案しながら、コタツの上でノートパソコンとにらめっこしている斜向かいのユリアンに声を掛ける。

 彼に頼まれて纏依が作業場に使用している部屋から持ち出したパソコンで、ユリアンは予知夢に関連している単語を検索にかけているのだ。

「ああ。今のところ最も関連性の強い情報は、“黒魔術・召喚魔術・悪魔王降臨の儀式”だね」

 ユリアンは答えると小さく息を漏らすと共に苦笑いを浮かべた。それにあやめが口元を引き攣らせながら呟く。

「あ、悪魔王降臨って……」

「どこまでもレグルスは魔王的立場な扱いなんだな」

 纏依も半ば呆れるようにして薄っすらと苦笑いを浮かべる。

「とにかくパソコンだけでは役不足だ。ここで紹介されている文献などの資料を図書館で探して、更に詳しく調べてみる必要がありそうだ。行ってみよう」

 パソコンから顔を上げたユリアンの言葉に二人は首肯すると、一斉に立ち上がり玄関へと向かった。




 こうして三人はお馴染み国立図書館へやって来ると、ユリアンとあやめが夢で視た西洋呪術関連の文献などを探し回り、読み漁った。

「こんな時こそレグの意識侵入の能力が出来たら、話だけの漠然としたものでなく直にあやめの頭の中を覗いて更に詳しい夢の内容が得られるんだけどな」

 纏依はいまいち話だけでははっきりとしない理解に、今は側にいないレグルスの能力を望む。共鳴者としての超能力一時感染は本人から離れてしまうと二十四時間で消滅してしまう。

「確かにそれだと話すより説明が早いですもんね。でも仕方ないので話を理解した範囲内で極力近い文献内容を一緒に探して下さい☆」

 纏依の言葉に同感しながらあやめは、軽い口調で作業を促す。

 やがてそれぞれが出し合った文献や資料などの中で、二人が予知夢に視た西洋呪術と同じ形式が書かれている内容の本の種類は、主に中世時代の魔女についてが集まった。

 そこには、占星術が用いられていて十二宮――十二星座――それぞれと同じ容姿をした悪魔を呼び出す術を説いていた。

 予知夢で表現されていた星座は獅子座だ。

 その項目を読んでみると、獅子座が昇り始める頃合に獅子座と同じ星の並び通りに蝋燭を用意するのだが、獅子の心臓部に位置するレギュラス――英語読みで言うレグルス――であるα星となる蝋燭だけを、他の蝋燭よりも大きめの赤い物にする。力強く脈打つ心臓を象徴させる為だろう。

 そして全ての蝋燭に火を点けると、十二宮の一番初めである牡羊座から獅子座までのそれぞれに含まれていると言うキーワードを、呪文のように唱えていく。それらは次の通りだ。


 1:白羊宮アリエス『我あり』

 2:金牛宮タウルス『我は待つ』

 3:双児宮ゲミニ『我思う』

 4:巨蟹宮カンケル『我は感じる』

 そして最後に必要であり目的とする、5:獅子宮レオ『我は決意する』

 

 ここまでを言うと、その本命である獅子宮の魔王降臨最終呪文を唱えながら羊皮紙――今で言う紙でも良い――に描いた獅子座のシンボルマークを、α星に位置する赤い大きめの蝋燭の火で燃やす。

 そうすると目的とする悪魔王が魔女達の前へ召喚されるとある。

「恐らくとは思っていたけど、“魔女”がね。これまた皮肉な繋がりだな」

 嘗て魔女扱いを受けていただけに苦笑しながら呟く纏依へ、あやめが必死になって口走る。

「でもでも! 本当にこれと全く同じ事をやる予知夢を視たんですから、これで正解ですよ先輩!」

 小難しい日本語まではまだ読めないユリアンの代わりに、場所をわきまえそれを潜めた声で朗読して彼にも解かるよう聞かせたあやめ。

「だけど今時、まさかこんな古典的手法でレグルスを救出するなんて、本当どこまでも魔王と魔女扱いなんだな俺とレグは」

 正直呆れずにはいられないのが纏依だったが、ユリアンがそれに答える。

「確かにこの当時、それで魔女達が悪魔を召喚できたのかはともかくとして現に君やレグは異次元体験をし、そしてまた我々ような特別な力を持った存在がいるのだから今更何も不思議ではないはずだろう?」

「まぁ、そうなんだけどさ。単純に“魔王と魔女”の関わりに皮肉を感じちまっただけさ」

「それならばこの際私もあやめも同じ扱いだろう。もう何も気に病む事はないんだよ。我々がついている」

 ユリアンのさり気ない慰めに、纏依はふと笑顔を見せる。

「でも古典的手法ってのには私も付いていくだけでも結構精一杯なところがあるけど? だから纏依先輩の言いたい気持ちも分かるよ」

 あやめに指摘されて苦笑するユリアン。

「それでも君達は我々の共感者同士。なるべくならこうした非現実的な世界にも付いて来て欲しいね」

 こうして調査した結果からひとまず一番予知夢と内容が近い占星黒魔術に決定し、実行は今夜の二十一時以降に纏依の部屋で行われる事になった。

 その理由は二十一時から獅子座が東の空に昇り始める事と、封印を解く召喚主が纏依本人である為だ。

「あー! 早く夜になんねぇかな! この際何でもいいから一刻も早くレグに会いてぇよ……!」

 纏依は嘆息と共に言いながら、机の上に頭を突っ伏した。


 その様子を遠く離れた受付カウンターの中で窺い見ていた、お久し振り登場の国立図書館職員の面々。

「何か悩んでいる感じですね在里(ありざと)さん……」

「館長がいない今でも相変わらず騒々しさは健在だし」

「せっかく館長がいなくて長閑で平和な職場を快適に過ごせてるんだから、極力余計な騒ぎを引き起こして欲しくはないですよね……」

 そう呟きあう職員達だったが、よもや彼等にとって畏怖なる存在である国立図書館館長、レグルス・スレイグを帰還さすべく策を練っている最中だとは、職員達の誰も知る由もなく。

「さ、そんな事よりこの長閑で幸せな職務時間を満喫しましょう♪」

「あの足音を長らく聞かずにいられる安心感が、こんなに心地良いとは」

 などと言い合いながら、それぞれの持ち場に戻るのだった。


 一方その頃、こっそりと館長室に今がチャンスとばかりに忍び込んでいた副館長は。

 重厚な作りのデスクを前にして本来レグルスが鎮座している純革製の椅子に座り、その厳かさを堪能していた。

「いつかこの私がこの椅子にこうして座る日も近いかも知れんからな。このままあの外人館長め、外国に帰ればいいのに」

 そう呟きながらべっこう色のフレームをした眼鏡を指で押し上げつつ、薄くて生存率の低い数本の髪で中央を覆い隠しているけど地肌が露出しているハゲ頭を、怪しくも儚くキラリンと光らせるのだった。




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