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66:夢魔は眠りに来たりて夢を見す



 レグルスは、老人が入院している病院へ(おもむ)いた。

 もれなくユリアンとあやめも一緒だ。

 そして意識侵入を改めて行なってみる。そこでどうやら、老化による弱体化が原因で入院する事になった状況までは、把握できた。

 しかしその後の情報までは、得る事が出来なかった。老人は意識がないのだ。よって脳に残された記憶までしか、探る事は出来なかった。これでは纏依(まとい)の居場所を掴む事が出来ない。

 寝たきりになっている老人は、深い昏睡状態となり重度の医療機器による延命だけが、(ほどこ)されていた。

「彼は何者なんだ」

 ユリアンが改めて老人の顔を見詰めながら、レグルスに尋ねる。

(それがし)の恩人であり、そして――纏依には言わなかったが、彼女の恩人でもある」

 すると真っ先に反応したのは、あやめだった。

「!! だから私、どこかで見覚えがあるなって思ったんだ! このお爺さん、纏依先輩を十五歳後半から十八歳まで保護してくれていた、お寺の住職さんですよね!? 教授!」

然様(さよう)

 あやめは過去に一度、レグルスの力にて纏依自身の決意から意識侵入させてもらい、彼女の過去を()ている。ユリアンも視はしたが、途中の肉体に直接虐待するシーン――胸元に刻まれた魔女の焼印――の手前で、遠慮して一足先に抜けていたので以降の詳細を知ってはいなかった。

「凄い偶然だな。まさかこの人を通じて、その時からレグとミス在里(ありざと)の魂は、呼応していたとは」

 ユリアンは驚愕を露にしながら、そう口にする。そんな中レグルスは(しば)し黙考していたが、ふと思いついた様に視線をユリアンに向けた。

「貴兄。今宵このご老人の夢を窺視(きし)てくれまいか」

「……そうか。肉体が生きている以上、夢を見ている可能性はあるからな」

 レグルスは意識専門だが、夢とはまた違う部類になる為予知夢能力者である、ユリアンの担当になる。

 彼は他人の夢を覘き、侵入する能力を持つ。よって学生の頃、周囲の夢を操作し事実のものとして、レグルスの正体を皆に植え付け彼の孤立化に成功している、皮肉な経歴を持っているのだ。

all right(オーライ)。今夜早速実行してみよう」

()せ次第、即刻(それがし)に報告致せ」

 夢の中でなら必ず意識精神の居場所が掴める。きっとそこに纏依はいる。レグルスはそう確信しつつ、漆黒のロングコートを(ひるがえ)して颯爽と病室を後にする。

 その彼の後を追う様に、ユリアンとあやめも一緒に病室を出て行った。

 駐車場に辿り着くと、もうそれまでは用はないと言わんばかりに、早々とレグルスは二人と別れた。

「教授……以前に増して、素っ気無くなっちゃったね……」

「仕方ないさ。私でも君が突然いなくなれば、同じ事になるだろう。だから我々は、彼に出来る限りの協力をすればいい。私は本来、レグとの再会を求めて来日した理由の、目的でもあるのだから」

 駐車場の出口で左ウィンカーを出し、隙を見つけて素早く車道に入り走り去って行く漆黒のクラウンを見送りながら、ユリアンは少し落ち込み気味のあやめの肩を優しく抱き寄せた。そして軽く二回叩くと、自分の深赤茶のアテンザへ乗車を(うなが)すのだった。


 その日の夜、ユリアンのマンスリーマンションに泊まりに来たあやめは、睡眠促進剤を飲用しているユリアンを見て、不思議そうな顔をした。

「どうして薬を飲むの?」

「私の超能力は、単純に予知夢を見るだけじゃないのは、もう知っているだろう? 予知夢は普通に寝入って昨夜の君みたいに、偶然見る事は出来るが他にも私の能力は相手の夢に侵入したり予知夢に変更させたり、予知実行をさせたりと自分の経験と力の大きさでその種類も増えてゆく。だから目的を持って誰かの夢に侵入する場合は、こういう薬剤に頼らなければ返って意識しすぎて、ストレスになりなかなか寝付けなくなる事がほとんどなのさ」

 そう言いながら、手の中にある錠剤の入った小瓶をクルクルと(もてあそ)ぶ。その度に中身の錠剤がジャラジャラと音を立てた。そして手の動きを止めると、戸棚に小瓶を戻しながらあやめに話しかける。

「あやめ、君には必要ないから大丈夫だ。私と波形が同情し共鳴しあうから、主能力者である私が夢侵入を行なえば、自然と君も寝ながらにして私と共に同じ夢へ侵入できる」

「誰かの夢に侵入した場合、夢主と会話は出来るの?」

「ああ。可能だよ。(もっと)も夢主が目覚めた時に覚えているかは、本人次第。覚えていても、ただの夢だと思うだろう。あやめも私と共に夢侵入に来るのなら、何も意識せずにいつも通りに眠りなさい」

 あやめが腰掛けているラブソファーの隣に腰を下ろすと、ユリアンは優しく髪を撫でてから額にキスをした。

「みゅ~……。何だか返って意識しそうだよ」

「今夜は私と一緒なんだ。距離が近い分私の眠りに君の意識も同調して、自然と眠れるさ」

 不安げなあやめの頬に手を当てて、ユリアンは親指で優しく擦った。その後もあやめは頭を抱えて悩みながら一時間後。

 夜も二十三時半になろうとする頃には、三十分前に早々と寝入ってしまったユリアンに擦り寄っている内に、何の問題もないまますっかり心地良さそうな安らかなる眠りへと、簡単に落ちたあやめだった。




『すまなかったなぁ。あんたには何の恨みもないのに、命を奪ってしまって……』

 彼は独り言を漏らしながら、懸命に穴を掘っていた。

 遠くの方で銃声や爆音が轟いているが、ここまで及んでいないのが不思議なのは、それが彼の夢の世界だったからだろう。

 そうして彼――矢渡 靖(やわたりやすし)は人一人分の穴を掘り終えると、スコップを放り投げて傍らに倒れている米兵を抱き上げようと肩の下に片腕を差し入れ、上半身を起こす。と、背後から誰かが話しかけてきた。

『失礼。少々あなたに、お尋ねしたい事があるのですが』

 矢渡はギョッとして、自分が殺してしまった米兵の上半身を抱き起こしたままの格好で、背後を振り返る。

 そこには気品ある容姿をした、朱金色でセミロングのウェーブヘアをした、紳士が立っていた。

 ふと気付くと、若かりし頃に経験して未だにトラウマとなっている第二次世界戦争の戦場が消え、いつの間にか矢渡が少し前まで過ごしていた寺の仏間に変わっている。腕に抱き上げていた米兵の死体も、すっかり消えていた。

 夢の場面が突然切り替わる事はよくある事だ。なので矢渡も自然に受け入れて、その紳士に向き直った。すると横には、若い日本人の小柄な女性も一緒に並んで立っていた。二人とも全く矢渡にとって、見た事もない相手であった。

『私の先輩である、在里 纏依(ありざとまとい)さんが大変あなたのお世話になりました。覚えてますか?』

 先に口を開いたのは、まだ幼さを残した若い女の方だった。彼女がそう口にした瞬間、また周囲の風景がガラリと変わった。矢渡は思い出した様に、大きく深くゆっくりと首肯する。

 今ある風景――場所は、老人の精神意識の記憶が見せている、つまりあやめが予知夢で見た不気味な世界だった。

『あの、真っ黒くて大きい、球体が見えるじゃろう。ほれ、真下でワシの精神が守っている……。あの中にいる娘が、そうじゃな』

 夢の中で矢渡は、見知らぬ二人にこの場所のど真ん中の空に浮いているそれを、指差した。それに次に答えたのは紳士の方だった。

『実は、この場所がどこなのかを知りたいのです。あの女性は、私の大切な後輩の婚約者なのですが、突然姿を消してしまい助けようにも助けられずに、困っているのです。どうか協力して貰えませんか?』

 言うと彼は、パチンと指を鳴らした。するとレグルスのイメージ像が、矢渡の夢の中に現れた。それに瞠目する矢渡。

『――ぉお。この異国の者は、精神意識を行き来できるあのお若いのか。偶然じゃなぁ。まさかこの者の婚約者が、纏依だとは。やはり世界広しども世間は狭い』

 矢渡は嬉しそうに目を細めて、フォッフォと静かに笑った。そしてふと思い出した様に、周囲を見渡しながら(しゃが)れ声で言った。

『ここはなぁ。死にたくとも死に切れん、生きたくとも生きられん精神が集う場所。――一次元の世界じゃよ』

『一次元……!?』

 ユリアンとあやめは、思わず声を揃えた。

 一次元とは以前にも述べたように、無形的なものであり無素材、無質量な世界。可視出来ぬものが存在する、つまり“時間”を初めとする心、記憶、意識等の事だ。

 そこに何故、纏依は肉体ごと存在しているのか。それが真っ先に抱かざるを得ない疑問と謎だった。そしてまた、彼女を包み込む謎の暗黒球体。

『可哀想に纏依は、酷く傷付き、弱りきっている。あの球体を他の精神意識が突き破るのも、時間の問題かも知れん』

『お言葉を返しますが、もしここが一次元なのなら、あの球体は何なのでしょう?』

 ユリアンの最もな疑問に、矢渡は重々しい口調で答えた。

『あれは、纏依の“心の壁”じゃよ。あの子の傷付いた分だけの心が、あれだけの大きさになり黒色の球体として、自分自身がこれ以上傷付かないように守っている結界みたいなものじゃ』

『あの、こんな事を聞くのは凄く申し訳ないんですけど……。その、お爺さんの精神意識がここにいると言う事は、ひょっとして……』

 あやめが遠慮がちに、戸惑いながら矢渡に尋ねる。それに静かに微笑むと彼は首肯した。

『ああ。本当ならワシはもう死んでおる。だからこうしてここにいる。しかし、霊魂が留まる肉体側が病院の機械で生かされておるから、あの世にも旅立てん。ここはそういった精神意識の集う場所。あの世との繋がりはまだない、この世、つまり生の世界と繋がっている一次元世界なのじゃ。しかしここにいる纏依以外の精神意識は、肉体との繋がりは完全に絶たれている。じゃが肉体は生かされている。だからこそ、どうしてか肉体をこの世界に引き摺り込んだ纏依は、生に未練のある精神意識からの格好の的となって狙われておる。早くこの場所から肉体を救出せねば、他の精神意識から奪われ兼ねんのじゃ』

 ここまで話を聞かされて二人は、愕然とした。

 レグルスがしきりにこの世のどこかにいると、(かたく)なに信じ続けていた理由は彼の超能力の波動が、この世と繋がりがある一次元世界にまで、届いていたからであった……。




 精神意識と霊魂、そして一次元についての詳細は60話と62話を参考にしてください♪

いや、実はもう私の低劣な知識では何が何だか混乱中ww。

フヘへへへへ(狂w)。

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