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64:寂然たる魔王の憂鬱

【登場人物】

*レグルス・スレイグ(四十二歳)……無表情無愛想が常の寡黙な英国人。口を開いたかと思えば嫌味や皮肉の毒舌。全身黒ずくめの大男で肩まである漆黒の髪と目の容貌も手伝って、彼に畏怖を抱かない者はいない。歩けば誰もが道を開ける。職業は人文科学教授だが、国立図書館長も任されている。読心超能力者で纏依の婚約者。身長189cmの大柄でガッシリとした体型。


在里 纏依(ありざとまとい)(二十二歳)……男装姿にシルバーアクセで身を包み、まるでビジュアルバンドの様なゴシックパンクファッションを着こなす、男言葉を操る勝気な女。普段は栗色に染めた長髪を後ろ一つに束ねて、顎までの前髪を右分けにしている。職業は業界では一目置かれる存在である、新生有名画家。イラストレーターの仕事も請け負っている。レグルスの共鳴者。身長160cmのスリムな体型。


*ユリアン・ウェルズ(四十六歳)……過去に後輩だったレグルスへ犯した罪を、償う為に来日してきた英国人。予知夢能力者で自分の死が近い未来を見ているが、本来自分に関する予知は不可能な為に詳細までは分かっていない。天然ウェーブのミディアムロングに、前髪は顔に掛かるヘアスタイルの朱金髪に碧眼で、あやめの恋人。職業はソフトウエア開発者。身長180cmで細身の引き締まった体型。


星野(ほしの) あやめ(二十歳)……文化芸術を専攻する大学生にも関わらず、人文科学の授業にも参加している。高い学識を持っている筈なのに、天然おっちょこちょいの不思議ちゃん。纏依の親友にして後輩。ルーズな極ユルパーマの黒髪で前髪は眉毛の高さに切り揃えられたミディアムロング。ユリアンの共鳴者。身長154cmでバランス良いグラビア体型。


東城 空哉(とうじょうくうや)(二十五歳)……纏依の従兄でライタージャーナリストを職業にしている。サイコメトラー能力者で相手のオーラを読み取れる。茶髪にクリーム色のメッシュが入ったサラサラのショートヘア。実は纏依を嫌悪し、一生奴隷として地獄の人生を与えるべく企んでいる。細身の体で身長173cm。


*クラウディア・ラザーフォード(四十二歳)……学生時代のレグルスの同級生で、ユリアンの実妹。家庭持ちでありながら夫公認の好色を趣味とし、個人勝手で一方的な初恋相手のレグルスと、性行為を実現すべく纏依との仲にあれこれ罠を仕掛けてくる悪女。緩やかなロングウェーブの亜麻色の髪だが、普段はアップに纏めている。アイカラーはへーゼル。ナイスバディーの身長170cm。



 一体彼女はどこに行ってしまったのか。

 一体今彼女は、どこで何をしているのか。

 場所は分からずとも、一度能力全解放にて彼女の存在を掴んだレグルスは、感覚の探り方だけは可能だった。

 何気なく自分の中にある、混迷している気持ちを紛らわせようと図書館長室の窓から、庭園を眺めた。しかし、それは失敗だった。

 その窓から見える、一つの木造ベンチ。

 初めて彼女と出会った日の夜、同じ様にここから呑気にベンチで寝入っている、彼女の姿を見つけた。

 二人の距離が、近くなった日。

 当時は面倒さが先に来たが、今では恋しさが募る一方だった。

 その今にも溢れ出そうな、手の施しようのない焦燥感を払い除ける様にレグルスは、(かぶり)を振って素早く窓から離れると、デスクの椅子に身を沈めた。

 だが、室内に訪れるのは静寂と、秒針が時計を刻む音だけ。その中でどんなに視線を彷徨わせても、当然彼女はどこにもいはしない。

「――纏依(まとい)……」小さく口の中で呟く。

 纏依。そなたに逢いたい。こんなにも(それがし)を人恋しく思わせたのは、そなたが初めてだ纏依――。

 レグルスは瞑目(めいもく)すると、纏依の気配が感じた方向に向けて、能力を一点集中する。

 勿論それで、居場所を突き止めることは出来ないがそうする事で、彼女の気配や存在だけは、感じ取れる。それが共鳴者と言うものだ。

 しかし今の状況では、同調し合う事までは叶わない。何故なら纏依は今現在も心と自分自身の存在を消したがっているからだ。

 そんな彼女の心境を知り得ないレグルスは、どこかにいる纏依の心を探れない事に、侘しさを覚えずにはいられなかった。

 ……(それがし)をも拒むか纏依。裏切り者だと、誤解したまま――。

 レグルスは纏依の気配に尋ねてみるが、やはり返答は一切ない。それもその筈。纏依は彼ではなく、自分自身を拒んでいるのだから。自分の殻に、引き篭もってしまっている。

 レグルスが纏依と同調出来ない最大な理由は、そこに含まれていた……。



 静かに、時だけが無情にも過ぎ行く中でただでさえ、冷静沈着無愛想無表情のレグルスの寡黙さは、以前に増して更に二倍にも三倍にもなっていた。

 纏依がいなくなってしまった今、レグルスの生活はまさに纏依と出会う前に戻り、仕事を終えれば真っ直ぐに自宅に戻った。

 いや。正確には、纏依が住んでいたマンションの自宅だ。

 彼の自宅では、余りにも纏依と過ごした思い出が強すぎて、一人でいるのが辛かったからだ。思い出ではなく、存在を感じていたい。

 なので少しでも彼女の近くに在りたいと、纏依の賃貸マンションの部屋に居つく様になっていた。

 ここなら大した思い出はないし、それでいて纏依の私物に囲まれている事で彼女に少しでも、近付ける気がしたからだ。

 親友且つ義兄の様な関係でもあるユリアンとも、滅多に会おうとはしなくなった。

 つまり、レグルスはすっかり他に対しては、心を閉ざしきってしまっていた。纏依に出会う前の自分の様に。

 仮にユリアンと一緒にいても、纏依の救出手段と言う無意味な会話ばかりだ。レグルス自身が彼を訪ねる以外は、勝手ではあると知っていてもなるべく放っておいて貰いたかった。

 だが、そんな彼を放っておけないのが今現在の、ユリアンだ。後輩の彼と会わない内は、ユリアンも半ば引きこもって以前彼から渡された超心理学の本を相手に、懸命に能力向上の修行に励んだ。

 少しでも、義弟(レグルス)の力になる為に。



「Those two people! It doesn’t forgive!!(あの二人! 許せないわ!!)」

 ウィークリーマンションの一室で、女の金切り声が響き渡った。

「何だあんた。まだ日本にいたのか。(しばら)く会わなかったから、てっきり帰国したとばかり思ってたけど」

 そんなヒステリーを起こしながら訪ねて来た外国人女を、東城 空哉(とうじょうくうや)は半ば呆れながら中へと受け入れる。

「違うわよ! あのバカ兄貴とそのアホ彼女のせいで、アレルギー引き起こして外に出る事すら叶わなかったのよ! こうしてすっかり、完治するまでね!」

 喚き散らしながら付いてくる彼女、クラウディア・ラザーフォードを背後にしながら、東城は苦笑しつつベッドに腰を下ろした。

「あんたも何かされたのか。俺もだぜ。歯と肋骨を折られた。あんたのその、バカ兄貴とやらに」

 どうやらレグルスの操心能力の影響は、実際には纏依が骨折させた張本人である事をも歪曲されて、空哉は自分勝手にユリアンから殴られて歯を折られた際での骨折だと、思い込んでしまっていた。

 しかし、全ての記憶が歪曲されてしまった訳ではなく空哉は従妹の纏依に、そしてクラウディアは初恋の相手レグルスに会いに来た事は、覚えている。

 あくまでレグルスがこの二人にかけた操心能力は、レグルスと纏依に二度と関わるなという内容でしかなかった。忘れさせられている訳ではないものの、本来の目的が操心により歪曲させられてしまった二人は、その目的が果たせないのはユリアンが邪魔をしているせいだと、判断してしまっていた。

 実際、この二人はそのほとんどをユリアンと会う回数に、費やされていたからだ。

「何とか復讐してやりたいくらいに、兄の存在が許せないわ! 勿論、その彼女であるあの小娘もよ。ミスター・スレイグに会わせて貰えず、せっかくのお楽しみをも阻まれ挙句の果てには、アレルギーまで起こさせてまで邪魔立てするなんて!」

 実際、クラウディアは本来の目的は達成されてはいるものの、レグルスの操心能力で見事に忘却され会った事すら、記憶にない。

「俺もだ。あの憎き纏依の人生を狂わせる目的で、わざわざこの街に来たにも関わらず、親友の恋人だからと言う理由であんたの兄さんに邪魔ばかりされて、会えずじまいだ」

 屈辱気に愚痴を漏らしながら、骨折していた場所を軽く擦る。

「俺の目的は、纏依の画家としての失墜と人生の復讐だけど、これじゃあそれすら実行できないままだ。悪いがあんたの邪魔な兄さん、少しばかり黙らせてもいいか?」

 空哉は、自分で纏依にしっかり復讐を遂げている事すら知らずに、今の怒りの矛先は完全にユリアンへと向けられている。勿論、ユリアンが何らかの自分を上回る程脅威的な能力者である事は、覚えているのだが。

「何よ。何かいいアイデアでもあるの? クーヤ」

「ああ。サイコーのな。あの男を――つまりあんたの兄さんとやらに、あの世に(しばら)くの間、消えていてもらう。構わねぇか?」

「殺すの?」

「そんなつもりはない。暫くの間消えていて(・・・・・・・・・)もらうと、言っただろう。まぁだけど、あんたの兄貴の、生命力次第だな」

 そう語る空哉の、サイコメトラーの能力をクラウディアは、まだ知らないままだ。するとベッドに座る彼の隣に、しな垂れかかる様にクラウディアも座ると悪辣(あくらつ)な微笑を、口元に浮かべた。

「そう。まぁ、この際兄さんが生きようが死のうが、どうでもいいわ。前から私の素行(そこう)が悪いだの口煩くて、目障りではあったしね」

「そこまで言うか。実兄に死ねとは、恐ろしい妹だな。あんたも」

「了解クイーン。しかしあんまり激しくしないでくれよ。もう肋骨は繋がっていても、完治まではしていないから骨に響く」

「クスクス。優しく……ね。ウフフフ! ホント若いわね。ボーイ」

「からかわないでくれ。それにボーイじゃない。空哉だろ。ガキ扱いされるのは、嫌いなんだ」

 こうして二人は、障害物ユリアン排除計画を練る前にひとまず、お楽しみへと突入するのだった。








 暗い。暗い。どこまでも。

 まるで自分の心の中のようだ。

 辛くて、寂しくて、悲しくて、とても寒い。

 けどもう誰も、俺を受け入れてはくれない。

 誰にも必要とはされていない。

 両親からは勿論、親戚からも、そして、恋人だと信じていた男からも――。

 彼は悪くない。

 きっと全て、俺自身が悪いんだ。

 両親に俺が捨てられたのも。

 親戚に嫌悪され、従兄を傷付けてしまっていた事も。

 彼が俺の知らないところで、他の女を抱いていた事も。

 全部全部、俺が悪いからだ。


 さよなら。レグ。

 俺は本当に、あんたの事を心から……愛していたよ……。


 闇の中で丸く、小さく蹲った纏依の肉体は、昏睡状態になっている。その閉じられた目元からは、静かに涙が零れ落ちていた――。



 

……ようやくユリアンの、死亡フラグ立てるまで書けた……www。

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