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62:秘めたるリリスの発揮されし才能

【登場人物】

*レグルス・スレイグ(四十二歳)……無表情無愛想が常の寡黙な英国人。口を開いたかと思えば嫌味や皮肉の毒舌。全身黒ずくめの大男で肩まである漆黒の髪と目の容貌も手伝って、彼に畏怖を抱かない者はいない。歩けば誰もが道を開ける。職業は人文科学教授だが、国立図書館長も任されている。読心超能力者で纏依の婚約者。身長189cmの大柄でガッシリとした体型。


在里 纏依(ありざとまとい)(二十二歳)……男装姿にシルバーアクセで身を包み、まるでビジュアルバンドの様なゴシックパンクファッションを着こなす、男言葉を操る勝気な女。普段は栗色に染めた長髪を後ろ一つに束ねて、顎までの前髪を右分けにしている。職業は業界では一目置かれる存在である、新生有名画家。イラストレーターの仕事も請け負っている。レグルスの共鳴者。身長160cmのスリムな体型。


*ユリアン・ウェルズ(四十六歳)……過去に後輩だったレグルスへ犯した罪を、償う為に来日してきた英国人。予知夢能力者で自分の死が近い未来を見ているが、本来自分に関する予知は不可能な為に詳細までは分かっていない。天然ウェーブのミディアムロングに、前髪は顔に掛かるヘアスタイルの朱金髪に碧眼で、あやめの恋人。職業はソフトウエア開発者。身長180cmで細身の引き締まった体型。


星野(ほしの) あやめ(二十歳)……文化芸術を専攻する大学生にも関わらず、人文科学の授業にも参加している。高い学識を持っている筈なのに、天然おっちょこちょいの不思議ちゃん。纏依の親友にして後輩。ルーズな極ユルパーマの黒髪で前髪は眉毛の高さに切り揃えられたミディアムロング。ユリアンの共鳴者。身長154cmでバランス良いグラビア体型。


東城 空哉(とうじょうくうや)(二十五歳)……纏依の従兄でライタージャーナリストを職業にしている。サイコメトラー能力者で相手のオーラを読み取れる。茶髪にクリーム色のメッシュが入ったサラサラのショートヘア。実は纏依を嫌悪し、一生奴隷として地獄の人生を与えるべく企んでいる。細身の体で身長173cm。



「探索せよ。纏依(まとい)の痕跡を。一片残らず突き止めるのだ」

 ドアを開けるなり、突然目前に立ち塞がっている漆黒の大男の采配(さいはい)にて、考える(いとま)もないままにその心をいきなり操られてしまった空哉(くうや)は、痛む体に鞭打ちながら否応なく承服した。

 だがその命令を裏切ってしまうかも知れないと、空哉は操心されている事に気付く事もなく素直に今ある自分の状況を、服従主に訴える。

「その前に、痛みが酷くてメトルの力がアンバランスなんだ……」

「ならばその間、痛みは愚か傷の事も忘れよ」

「あ、ああ……」

 一切の抑揚なき冷酷なまでの拘束的な言葉に、空哉は逆らう事も出来ないまま聞き入れる。レグルスの言葉通り、不思議と痛みが嘘の様に消えた。だが追随して骨折してる事や顔を殴打している記憶も、空哉本人が気付かないままに失われてしまった。

「あんたは確か、纏依の――」

「駄弁不要。此方の詮索は一切せず、ただひたすら纏依の痕跡のみを捜索せよ」

 何を伝えようとしたくても、全てはレグルスの手中にあった。空哉は彼への探りを強制的にやめさせられるや、ただ今は纏依の手掛かりだけに専念する意識に、()って変えられていた。


 まずは彼女の中身が消えた場所である、纏依のマンションへと出向く。

 空哉は操り人形の様に、彼女の横たわっていたベッドに手を当てる。そして渋面しながら、何度も目を凝らしていたが溜息と共に、首を振った。

「信じられない事だけど、突然纏依の意識はここで途絶えている。ただ分かるのは、衰弱している纏依の意識を、現実では在り得ない亜空間みたいなものが現れて、呑み込んだ。つまりこの世ではないどこかに、連れて行かれてしまった事だけだ。その亜空間が何なのかまでは、分からない。だけど死後の世界とかそんなものとはまるで違う空間だ。何て言うかその、そう。まるで一次元的な……肉体が最後に残っていた場所へ連れてってくれ」

 一次元――。

 空哉の言葉に、レグルスとユリアンの脳裏には非現実的な推測が去来する。能力者ゆえに覚える一種の葛藤とも言える。現実認めたくはないが、そうすると能力者である自分達をも否定する事になる。だから、例え普通の人なら在り得ないと思う様な事でも、彼ら能力者の場合は憶測するしかないのである。

 基本、この世界で言われている一次元の世界とはひとまず原点は持っているが、線分的な形でしか存在しない世界をそう呼んでいる。つまり、無形的なもの。無素材、無質量な世界。一番身近にある分かり易い例で言うなれば、“時間”が一次元に含まれる。

 無形な意識レベルもその内に含まれる。時間は無形であり、そうでありながらもそこに存在する意識だ。だが一次元な存在の為に、何者にも屈する事無くただひたすら己の存在意義に従っている。それが“時間”世界の中の一次元。

 そして他に例えるなら、メモリーの領域だ。

 コンピュータやチップによるメモリーは、この世界で言うところの意識、神経に属するが形態は全くない。と、言う事は人間の“心”も一次元の世界に属する。そう。記憶も。意識も。

 コンピュータ等は人の手で創られて起動開始した時点が“原点”となるように、人間の場合は当然この世に産まれ落ち生を受けた時点から、心、記憶、意識等の一次元世界の“原点”が開始される。こうしたものが、我々の世界で呼ばれている“一次元”の世界である。


 こうして一行は、纏依が治療の為一時入院されていた病院へと向かう。

 すると丁度そこの病室から廊下へ出てきていた、女の看護士が怪訝な顔をして訊ねてきた。

「患者さんはどちらですか? 勝手に連れて行かれては困ります。まだ満足に、治療も終了していないのに――」

 そんな看護士を一切無視したまま素通りすると、真っ直ぐベッドへと向かうレグルスと空哉に代わって、ユリアンがそれに答えた。

「こちら側も、彼女を捜索中なのです」

「は? それはつまり……」

「行方不明になっちゃったんです」

 続いて答えたあやめの言葉に、看護士は目を丸くすると二人に急いで一礼して、慌てるようにその場から小走りで離れて行った。

 そんな看護士を他所に、引き続きベッドに手を当て目を凝らしながら、纏依の残留エネルギーを調べ始める空哉。そして(しばら)くしてから、顔を顰めた。

「これは……これは一体、何だ」

 その彼の呟きに、レグルスは無表情のままその様子を伺う。

「……纏依? 纏依だ。あいつの思念体が、一瞬だけ現れてる」

如何様事(いかようこと)か、簡潔に述べよ」

 宙を睨む空哉の言葉に、思わず焦燥感を覚えるとレグルスは彼の襟首を、ベッド越しから鷲掴みにする。

「わ、分かったから放してくれ。これじゃあ話しにくい」

 威圧的なレグルスの行動に、空哉は剣呑さを覚えつつ何とかそう訴える。それにレグルスは、半ば突き放す様にして解放する。そんな彼に警戒しながら、空哉は襟元を正し咽喉元を擦りながら咳払いすると、改めて口を開いた。

「まず、結果から先に言うと、あいつの肉体が消滅した原因は纏依の意思だ」

「……?」

 その空哉の言葉に、無言のままレグルスは眉宇を寄せる。

「つまり、纏依の意識が肉体を求めた。理由までは分からない。そして、その意識に応える様にして肉体も纏依の意識がある、同じ亜空間へと吸収された。さっき、一瞬だけあいつの思念体が現れたとは言ったけど、纏依自身の完全な思念体じゃあない。あくまで、その一部だ。つまり触手――肉体との繋がりを示す“帯”みたいなものだけだ」

「つまり肉体と精神を繋ぐ、生命線みたいなものの事か?」

 空哉が一旦言葉を切ったところを見計らって、ユリアンが途中で口を挟む。それに首肯してから、更に空哉は話を続ける。

「肉体が消える時に光輝いたのは、その影響による発光だ。本来、メトラーである俺にしか見えないはずのエネルギーカラーが、肉体を亜空間に吸収すべく強烈な力を発した為にメトラーでもないあんた達にまで、その色が光となって視えたんだ。纏依の肉体を包み込むように光ったものが、あいつの肉体との繋がりを示す思念体の帯だ。纏依自身そのものである全体を示す思念体ではないせいで、あいつ自身も肉体の傍にあんたらが一緒にいた事すら気付いてもいない。……――以上だ」

「――以上? ()れで殿(しんが)りか?」

 聞き終わるや、レグルスは不満気な声色で威圧的に静かに訊ねた。そんな彼に空哉は呆気なく頷く。

「ああ、そうだ。何せここで思念体は愚か、肉体自身も消滅してるんだからな。これ以上何がある」

 途端、滅多に感情表現を見せないレグルスは激昂するや、間にあるベッドを迂回しながら空哉に恫喝気味に詰め寄った。

(それがし)が追求しているのは、経過報告でなければ理由でもない! 纏依の居場所だ! 纏依は今、何処にいる! 其処に繋がる端緒(たんしょ)を述べよ!!」

「しっ、知らねぇよ! いくら俺でも、異次元に行っちまったもんまで視得ようがない!!」

 そのレグルスの慄然的な詰問に、空哉は畏怖を感じて必死に壁へと後退る。

「然れど纏依は、現世(うつしよ)何処(いずこ)かにいるのだ! (それがし)が得た悟性(ごせい)に相違ない!」

 すっかり壁にまで追い詰められた空哉を、レグルスは容赦なくその逞しい片腕一本を横にした形で、彼の胸元を押さえつける。壁とその腕の両挟みにされた空哉は、戦慄しながらも必死で応酬する。

「じゃあこの世と繋がりのある異次元かもな! とにかく死んじゃあいねぇんだから、生きてどこかに存在している事は間違いねぇだろうけど、この世にはいない! 俺達が存在している、この空間にはな! あんたの力がどんな能力かまでは知らねぇけど、それでもあいつを感じたっつーんなら理由はただ一つ。この世と繋がりのある異次元ってこったろうよ! その繋がりを通してあんたは、あいつの存在を感じた事になる!! その異次元の正体までは、この俺の今のレベルは愚かメトラー能力じゃ探求不可能だよ!!」

「……!」

 彼の言い分に怒りを覚えながらも、威圧感を放ったままの漆黒の双眸(そうぼう)に驚愕の色を見せながらその目を見開くと、(もっと)もな事を言われて何も言えなくなった。

 そしてレグルスは眉宇を寄せて、言葉を詰まらせながら渾身の力で尚も空哉を壁に押し付けると、少しずつその腕の膂力(りょりょく)をゆっくりと解いて、そのまま突き飛ばす様にして空哉から離れた。その勢いに気圧されて、空哉はズルズルと壁に凭れ掛かったまま崩れ落ちる。

 だが直後、思い出したかのような激痛が彼の体内で復活し、短い悲鳴を上げて苦悶しながら床へと倒れ込んだ。レグルスが痛みと重傷の忘却心を解いたのだ。そしてレグルスは、自分の足元で苦しげに蠕動(ぜんどう)している空哉を冷ややかに視線だけで侮蔑すると、半ば落胆にも近い声で吐き棄てた。

此度(こたび)の件、全て忘れよ。()って(それがし)と纏依にも、金輪際(こんりんざい)関わるな」

 改めて空哉を自らの範囲から離反させると、そうして新たな操心命令を下すやまるで廃物のようにその場へ彼を置き去りにして、レグルスは足早に病室を後にした。


「待てってレグルス! ……――待てと言ってるだろう! 落ち着け! とりあえず少し休みながら、他の可能性を一緒に考えるんだ」

 颯爽とした足取りで、先へ先へと足早に前進歩行するレグルスに(ようや)く追い着いたユリアンは、彼の肩を掴んで捕まえるや彼を引き止めその前方へと回り込むと改めて両腕を掴みながら、真摯な表情で後輩――義弟とも呼べるレグルスを説得した。

 それまでずっと、先程までの行動が全て徒労に終わってしまった顛末(てんまつ)に鬱積し、表情を怫然とさせながらも悲愴的な眼差しでそんな真剣なユリアンを見下ろすと、嘆息と共にレグルスは無言のまま渋々、嘗て懐いた親近感を持ち懇意にしていた先輩(ユリアン)の言葉に許諾した。

 そして院内にある、正面玄関脇の一区画を貸店舗に営業されている一般者用喫茶店に、三人は入った。

 席に着いても相変わらず、一切無口になってしまったレグルスの肩に手を置いて彼の真意を忖度(そんたく)しつつ、ユリアンもその辛さを分け合う様にしてその肩を擦ったり揉んだりと、同じく何も言わずに慰めている。

 そんな沈黙の中、陰鬱な面持ちでいる二人の異国人中年男を他所に、それまで黙って一緒にいたあやめがボソリと小さく呟いた。

「この世のどこか。この世と繋がりのある異次元……。普通に考えるならまずは、過去と未来が真っ先に、この世との繋がりに思いつくけど……」

 彼女の言葉に、ふと二人揃って注目する。

 しかし、そんな二人の視線にまるで気付かない様子であやめは、俯き加減に顎へ手を当てたまま独り言のようにブツブツと己の思考を、呟いている。

「過去と未来。それ以外、他にもこの世と繋がる異次元って、時間のズレ――この世での選択肢で分岐した時に生じる、並行して存在する別世界のこの世くらいしか今のところ、思いつかない……。でもこんな短絡的な一般理論はあくまで、先入観や概念に基づいてたりするからそれを取り除いて考えるとしたら、何がこの世と他に繋がりがあるだろう……。返って選択肢が、余計に増えちゃうだけかな。ひとまず一旦、この過去と未来と別世界――別名、時間分岐変換現世タイムブランチトランスパラドックスの三つから先に思案していくっきゃ、ないかなぁ」

 相対的未来(タイムパラドックス)――!

 これに思わず二人はハッとした顔をすると、目を合わせるレグルスとユリアン。

 天然ドジっ子女学生、星野あやめ。誰もが不思議に思っていた事だった。

 高い学識があるはずなのに、どうしてこんな天ドジになれるのか。普段は常時スイッチがオフ化されている彼女。その為に、知性よりも感覚意識が先走りする傾向がある為、天然になってしまう。本来、性格はドジっ子なのである。

 しかし、あやめは勉学など本気で自分の理知識へと没頭し始めたその時こそ、初めてその本領を発揮するらしい事がこうして、発覚したのだった。




 最早恋愛要素ゼロ…ww。

\(;゜∇゜)/ヒヤアセモン☆

自分でももがきたくなるほどのファンタジー方向へと移行しつつありますが、今後とも変わらずどうか宜しなにww。

キャラ達の恋愛シーンが恋しくなってきたら、今はとりあえず番外編の『甘き愛』でw。

ただし、R18ですけど…。エッチ描写も過激なので気を付けて下さいww。

(*´σー`)エヘヘ

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