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20:狂える魔性の愛は痛みも超える

 今やすっかり纏依(まとい)は、レグルスと半同棲に等しい生活をしていた。

 と言うよりレグルスの方が半ば強制的に、纏依を自宅に連れて帰ってしまうからだ。

 場所が山中だけに俄か軟禁にも思えるが、恐ろしく感情を表現するのが下手な彼の正当なやり方だった。

 お蔭で彼女のマンションの部屋は、今では仕事用アトリエ状態と化している。なので、個展前や依頼されたイラストレーターの仕事を昼間、時々戻って来ては手を付けていた。




 そんなある日の夜、入浴を終えたレグルスがその肩までの長さの黒髪をしっとりと湿らせた姿で、リビングのソファーで横になって何やら夢中になっている、纏依の様子を見て顔を顰めた。

「……何だそれは」

 騒々しい曲と共に、何やらド派手な音響が大音量でリビング内を響き渡っている。

「あ、レグルス。もう上がったのか? 悪い。今ちょっち手が放せなくて……」

「だから、その耳障りな騒音は一体何なのだ」

「あ、ごめん。うるさかった? ボリューム下げるよ。これはPSPだ。だってここ娯楽的な物ってないだろ。だからうちから持ってきて……。だあぁぁっ!! MP全吸収された! ヤバ! 回復出来ない!」

「??? つまり玩具か」

「オモチャじゃない! ゲーム……、あー! あと少しだったのに……ゲームオーバーかぁ! だいたいレグルスがゴチャゴチャ話しかけるから……って、アレ? レグ?」

 纏依が顔を上げた時には、もう既にそこには彼の姿はなかった。

「チェ。二階で読書ですかー! ……ホント、まるで趣味も世代も国まで違うのに、どうしてくっ付いたんだか……」

 改めて自分達の関係を不思議に思いながらも、それでもレグルスのあの不気味な真っ黒の大きな容貌に、無表情で寡黙な彼のミステリアスさを思い起こすと、胸がときめく。

 う〜ん。思い出したら胸キュンしちゃう。今まで自分の男の好みなんて、考えた事なかったけど、今はとにかくレグの事が一番魅力的で格好いい……。

 むぅ。確信したら甘えたくなってきた。レグのところに行こっと。

 これぞ年下彼女が年の差で大人のおじ様彼氏を持つと、幼心に戻って無邪気に甘えてしまいたくなる心理効果でもあった。いわば特権とも言える。

 そして勢い良くソファーから身を起こした時、丁度携帯電話にメールが届いた。

「……あやめか」

 今ではすっかり誤解も解け、良き友情を育む仲となっている。

〈 纏依先輩、もう寝ましたか?☆zzz… 良かったら今から写メ送るんで、あたしの絵チェックして貰えませんか?(>ω<) 〉

 このメールに対して、纏依は賺さず素早く返信した。

〈 寝た 〉

 すると、すぐに返事が戻ってくる。

〈 起きてるじゃないですかー!! 先輩のイジワルー!!(>Д<) 〉

〈 また明日な 〉

〈 いいですよっだ! 今夜相手してくれなかった分、明日しっかりとり憑いてやりますから! おやすみなさい☆zzz… 〉

 やれやれ……。また明日ガキのお守りか……。

 友達を作ったまではいいが、人付き合いに慣れていない纏依は、嘆息吐いて携帯を閉じると、二階に上がった。


「明日星野のお守りが入った」

 溜め息雑じりで言いながら、デスクルームに入る纏依。

 レグルスは、デスクの椅子に身を委ねて片手に本を開いていた。

「問題あるまい。行ってきたまえ」

 レグルスは本から視線を逸らす事無く、静かに言葉を返す。

「ああ。まぁな。けど今まで友人なんていなかったから、思いの他自分の時間が狂わされるものだと思ってさ」

「それもまた、そなたの人生。時間が狂う訳ではなく、そうして本来時を過ごすのだ」

 それを聞きながら纏依は、バルコニーの外を室内から目をやりながら更に答える。

「ん〜……。でもそれをさも当然に、レグから聞くとは思わなかったな」

「……嘗て理想はあったのでな」

 静かにレグルスは低い声で呟く。

「……だよ、な。ごめん。気分悪くした?」

 纏依は肩を竦めると、普段のハスキーボイスのトーンを女性らしさに上げてから、背後から彼の首に腕を回す。

「いや。今更だ。そんな小さい過ぎた事までに、いちいち気は病まぬ。今はそなたの喜びが、(それがし)の喜び」

 レグルスは静かに言うと、本を読みながら彼女が回してきた腕を撫でる。

「そんなの、俺も一緒だよ……」

 そう耳元で色っぽく囁いた纏依は、レグルスの肩まで長い黒髪に鼻を埋める。

「ふ……。やれやれ。これでは読書にも集中出来ませんな」

 レグルスは手にしていた本をポンとデスクに放ると、代わりに背後の纏依を捕まえて、自分の膝の上に横抱っこする。

「レグにも個人的な喜びが来て欲しいな」

 無邪気な瞳でレグルスを見詰める。

「それはもう既存済みだ。纏依。そなたがそれだ」

「うん……」

 そうして二人は当たり前の様に、ゆっくりとキスを交し合う。

「私もそうだけど、それ以外にも。私に友人が出来たように……」

「そんな者、不要だ」

 レグルスは静かに呟くと、纏依の舌をむさぼった。

「あ……ちょっと待って……んん……レグ……」

「待てぬ」

 そうレグルスはセクシーボイスで一言だけであしらい、纏依の口唇を奪いに掛かる。

「ヤ……ァン……ずるい……レグ……ん、あん……」

 レグルスがパジャマの中から背中に這わせる指先に、思わず纏依は軽く仰け反る。

「そなたから今宵は誘ってきたではないか……。今更なしなどと言うならば、そなたにこそ非があるぞ……」

 そう静かに囁くレグルスの低いセクシーボイスは、湿り気を帯びて余計に纏依をゾクゾクさせる。

 纏依は彼の膝の上で上半身を起こして、チョコンと乗っかってからレグルスの首に腕を回すと、目を潤ませながら恥ずかしそうに見詰める。

「だって……その、まだ……受け入れた時、痛むんだもん……」

「だが初回よりかは、和らいできたであろう?」

 再度静かに耳元で囁きながら、レグルスは片手を背中に回したまま、もう片方を纏依のパジャマのボタンに手を掛ける。

「ん……まぁ、少しずつだけど……」

「ならば今度は更に和らぎますぞ。そなたを必ず(それがし)が天国へと(いざな)おう……」

 そうして纏依の胸元の中央部にある、焼印の交わる所を舌先でそっと()らす様に撫で上げる。

 その感覚にピクリと反応すると、纏依は声を湿らせて(なま)めかしく切願した。

「は……あぁ……お願い連れてって……私もレグと一緒の天国に……」

「纏依……!」

 レグルスは堪らず彼女を抱き上げると、寝室へと姿を消した……。

 



 今や纏依は少しずつではあるが、女が処女を喪失する時に伴う殺人的激痛を味わいながらも、再度それでもまた行為を繰り返してしまうその気持ちが、理解出来るようになってきた。

 それは、それだけその相手の事が愛しいからだ。

 激痛をも超える感情がそこにあるからだ。

 だからまた、求めてしまう。自ずと、自然に。

 そしてそこから発生する欲望による催淫効果の心地良さに、多幸感が存在するからだ。それ故に、相手の肉体を求めてしまう。

 束の間でも、いざ味わう痛みの事を忘れていられる。

 そして再び得る痛みも少しずつ馴染んでくれば、いつしか愛の力で耐え抜けられる。

 やがてまだ知る事のない、痛みがすっかり消えた頃に漸く与えられる、過程の中での快楽が今以上の素晴らしさを、きっと教えてくれるだろう。

 だから例え今はまだ完全には拭い去れぬ痛みがあろうとも、彼に、レグルスに抱かれずにはいられない。

 その痛みも含めて、レグルスを愛しているから。


 今まで得られなかったものを、この年上の彼は与えてくれる。

 今まで欲しかったものを、この黒き男は捧げてくれる。

 今まで知らなかったことを、この異国の相手は教えてくれる。

 今までポッカリ開いていた心の穴を、この寡黙な人は埋めてくれる。

 今まで寂しくて堪らなかったひねくれ者の私を、レグルスだけがその大きな体で包み込み、受け入れてくれた……。




「ねぇレグ……。もし私を失う事になったら貴方は、どうする?」 

 彼に腕枕をされながら、纏依はレグルスの広くて厚い胸板に手を回す。

「狂うだろう」

 そう静かに答えてレグルスは、彼女のその手を握る。

「私もだよレグ……。だってもう既に、私は貴方に夢中だもの……。狂える程に」

「ならば(それがし)も狂っているのであろうな。纏依。そなたの持つ、魔性に……」

 お互い全裸の姿でベッドに横になって、静かに語り合う二人。

「そんなの、お互い様でしょう。レグの意地悪」

「ですかな……? (それがし)は纏依に会ってからはずっと、何もかも狂わされている気がするが。それこそペースまでもな」

「貴方が悪いのよ。私の前に現れたりするから……」

 纏依は色っぽく囁いて、目前にある彼の耳朶(みみたぶ)を口唇で挟むと、舌先で軽く舐めた。

「そなたが初日、庭園などで寝ているからだ……」

「クスクス……。だって気持ち良かったんだもん。秋風に吹かれて香る紅葉に包まれて……。凄く、気持ち良くて……ん……凄くよ……ああ、レグ……」

 そうして纏依は、再び上に覆い被さり愛撫してくるレグルスの、広くて大きな背中を抱き締めた……。








  書いててマンネリ化してきたww。いい加減またアクションかけんとな〜。ラブラブ真っ盛りで超能力の存在消えかけてるぞ。妃宮ww。

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