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「使えない魔法使い」の話

店番のいる薬屋と使えない魔法使い

作者: 霞合 りの

 その街はカネルと言って、賑わってはいるが、ごくごく小さな商業都市だった。その片隅にある小さな薬屋『ベル』の表扉には、『閉店』の札がかかっていた。


「開いていないみたいだよ」


ロジェが私を振り向いた。私は首を傾げた。


「本当に?」


私が背を伸ばしてロジェの脇から扉を見ると、確かにその札がかかっている。この店が休むことは滅多にないはずなのに。


「明かりがついてるわ」

「在庫整理でもしてるんじゃないかな。閉店と書いてあるんだから、また明日にしよう。な、エレン」


でも私は信じられず、眉をひそめた。


「いいえ。明日まで待っていても、開くかどうかわからないわ。知り合いなんだから、大丈夫よ」


言いながら、私はドアノブに手をかけた。


「ほら、開いてるじゃない」

「でもエレン、今のその姿じゃ」


ロジェが言いかけるより早く、私はその扉を開けていた。


「いらっしゃいま……なんですか、閉店中ですよ」


カウンターの奥で、男性が一人、こちらを睨んだ。すらっとした立ち姿の、赤毛の男だ。目を引く容姿な上にガタイがよく、佇まいだけでも威厳がある。


「ほら、言わんこっちゃない。君は今、十歳の姿なんだよ、エレン。明日また……」

「エレン? って……エレアノール? エレアノール・トレハロース?」


途端に、彼の顔がパァッと笑顔になった。バタバタと駆け寄ってくる。


「本当だ……エレンだ! エレンじゃないか! これは一体……え、何? どうしたの? 逆行魔法でもかけた? すごい大変な魔法じゃないか? 何か大変なことでも? あ、君は?」


言いながら彼はふいっと、ロジェを見上げた。ロジェはといえば、彼の見た目とのギャップに目を白黒させている。


「エレンに何が? 君は誰?」


警戒する仕草をした彼に、ロジェはピシリと背筋を伸ばし、礼儀正しく頭を下げた。


「竜騎士、ロジェ・モネリンと申します。今回は、休暇中でして、トレハロース様の旅の付き添いでやってまいりました」

「私はベルナール。薬屋の店番だ」


彼は言って、考え深げに私を見た。


「旅……わざわざ、こんなところまで? 君は……だって辺境の森にいるんじゃなかった?」

「ベルナデットは」

「エレン、ベルナデットは最近、姿を見せてないんだ」


言いかけた私に、ベルナールは申し訳なさそうに返事をした。私は驚いて目を見開いた。


「まぁ、そうなの……どのくらい?」

「数ヶ月かな」


私は明らかにがっかりしてしまい、ベルナールは苦笑した。


「私しかいなくてすまないね」

「いいえ……私こそごめんなさい」


そこへロジェが口を挟んだ。


「失礼ですが、ベルナールさんは薬の魔法使いではないのですか?」

「私は店番さ。薬師の資格を持っていて、薬を作れるのはベルナデット。私が使える魔法は、攻撃魔法だけなんだ」

「それで店番を?」

「あぁ、物騒だからね」

「では、ベルナデットさんは……お出かけですか? ベルナールさんはご兄弟で?」


次々と聞くロジェに、ベルナールは眉をひそめた。


「君は……以外と不躾に聞いてくるね」

「ベルナール、怒らないで。ロジェは私の心配をしてくれてるのよ。こんな姿でここまで旅するのを手伝ってくれたんだから」


私が助け舟を出すと、ベルナールは肩をすくめて話題を変えた。


「それなら、そんな姿でここまで来たのはどうしてなのか、質問させてもらおう。竜騎士と一緒なんて……ずいぶんな大ごと? 身を隠す必要があるとか?」


言いながら、ベルナールは店のカーテンを全てきっちりと閉めてまわり、私に椅子を勧めた。ロジェにも勧めたが、ロジェは座らなかった。


そんなに警戒しなくても。


私はロジェをちらりと見て、首を横に振った。


「ロジェは……その……成り行きで付き合ってくれてるだけなの」

「成り行き? 王都住まいと辺境の森住まいが、一体いつ知り合うっていうんだ?」

「俺が……」

「私がロジェにお願いしたの」


ロジェの言葉を遮って、私は主張した。あまりにも私が頼りないことがバレバレになるのは、いくら友達でもなんだか悔しい。


「最初に、助けてもらったから」

「なんで竜騎士に助けてもらうようなことに? だいたい、竜なら、エレンは騎士竜より、野生竜の方が得意だろう?」

「もちろん、騎士竜なんて初めて見たわ。でも、ロジェのアロイスはとても可愛いわよ! ……じゃなくて、私ね、その……手違いで眠り薬と魔法無効化の薬を飲まされてしまったの。そうしたら、見ての通り、体が小さくなってしまって……竜たちが怒ってしまったのよ。特に仲良くしてくれた子達がカンカンに怒ってしまって、領主にいたずらをしに行って。そのせいで、衛兵たちがうちに来て、竜が騒ぐからって竜騎士が出動して……彼が来てくれたのよ」


ベルナールが納得したようにうんうんと頷いた。


「なるほど。逆行魔法じゃなく……あの土地の領主に言い寄られて、侘びの品だと言われたケーキか何かに、薬が仕込まれていたってわけか」

「ワインよ」


訂正しながら、私は彼の勘の良さにうんざりした。いつだってそうだ。ほんと嫌。説明しなくて済んで、ありがたい時はあるけれど。


ベルナールはにっこりと微笑んだ。


「へぇ? それで、ロジェ君は、いい男だから、旅のいいお供にって?」


面白がるようなベルナールを、私は睨みつけた。


「違うわよ! 言ったでしょ? 聞いてなかったの? あなたに相談したいから、ここへ来るつもりで……その話をしたら、ロジェは竜で来た方が早いでしょうって提案してくれたの。竜なら、あの森から二日で来られるからって。休暇中なのに!」

「なるほど? 確かに歩いてくれば十日はかかるし、馬車を乗り継いでも一週間はかかる……でも、竜騎士の竜を使うなんて……さては、ロジェ君、エレンの元の姿を知っているな? 惚れた?」


ベルナールは視線をちらりとロジェに戻した。見えない私からでもロジェの殺気が伝わってくる。斬りかからないか心配になり、私はベルナールの腕を掴んだ。


「ベルナール! くだらないことは言わないで。もちろん、ロジェは知ってるわ。でも、そんなことは関係なく、接してくれてる。まぁ……最初は敬語が抜けなかったけど。でも、竜騎士が十歳の子供に敬語を使うなんて、どこのお嬢様だろうって注目を浴びてしまうから、直してもらうしかないでしょう」

「へぇー」

「何が相談かは、みれば分かるはずよね?」


私が言うと、ベルナールは私をじっと見て、小さく息を吐いた。


「そういうことか。小さい姿で、頑張って懐かしい顔を見に来たわけじゃないんだね。……君は魔法が使えない」


私はホッとして、思わず微笑んだ。


「そこはベルナデットと変わらないのね」

「そうだね。相手の魔力を感じることはできる。それがベルナデットの薬作りの基本だからね。まぁ、でも、できたところで、私では役に立たないし。無駄足になってしまったね」


ベルナールが顎に手を当てて悩むように唸った。


「役に立たないなんて、そんなことを言わないでよ。無駄じゃないわ」

「でも、君が飲んだ薬の中和薬を作って欲しいんだろう? おそらく、ベルナデットもできないよ」

「どうして?」


私の言葉に、しばらく何も言わず、ベルナールは私とロジェを交互に見た。そして言った。


「まだ話してないことがあるね。眠り薬、魔法無効化、幼女化、それだけじゃ、どうしたらいいか判断できない。まだあるだろう?」

「……今から言おうと思っていたのよ。姿だけなら、元に戻れる時があるわ」

「どんな時?」


私は渋々返事をした。


「……キスをされた時」

「おや」

「最初は猫でわかったの。おでこでも、手でも、どこでもよ。関係なく、唇が肌に触れたら、みたい。髪はダメだったわ」

「へぇー ロジェ君は、それを全て試したわけだ」

「全てじゃないけど……腕とか手とか……足と……おでこと……頬?」


足については、アロイスから降りる時に、私がロジェの顔面を蹴ってしまった事故だったが、そのことについて話すつもりはない。


「唇は?」

「もちろん、してないわ」


すると、ベルナールは驚いた顔をした。


「どうして? 試してみないことには」

「さすがに、ロジェの尊厳に関わるでしょ」

「何が?」

「十歳の子供の唇にキスなんて、さすがにかわいそうよ」

「私は平気だよ?」


にっこりと笑い、ベルナールは私に顔を近づけた。私が慌てて避ける前に、ロジェがサッと間に入った。


「おやめください」

「ロジェ」

「さすが竜騎士、姫をお守り申すってね」


私はため息をついた。


「違うわ。私が頼んでるの。私に誰もキスできないようにって」

「そうなんだ……頬にも?」

「ええ、手にも」


その瞬間、素早くベルナールが私の手にキスをした。途端に私の姿が大人に戻る。二十五歳の成人女性に。


「わお」


彼が感嘆の声を上げてすぐ、私はまた十歳の姿に戻った。ロジェが慌てたように動いたが、それも一瞬だった。


「なるほどね」


ベルナールは意味ありげに頷き、ロジェは嫌そうな顔をした。


「何か分かった?」

「いや……うん……魔力が眠っているだけだね、君の中で」

「やっぱりそう思う?」

「ああ。無効化で一瞬にして膨大な魔力が秘められて、眠り薬でそのまま寝込んでいるってことだと思う」

「ロジェ! やっぱり当たっていたわ!」


私は喜んで振り向いたが、ロジェは浮かない顔だ。


「どうしたの?」

「いえ、俺は……何も役に立たないのだなと」

「えぇ?! 何てことを言うの?」


私が驚くと、ベルナールが笑った。


「君は大いに役立ってるよ。それに、原因がわかったところで、私にできることはない」

「しかし」


言い募ろうとするロジェを遮るように、ベルナールは私に向いた。


「ここでは治すことはできない。分かるだろう、エレン。隣の国に、混合魔法の研究者がいたはずだ。そこへ行ったほうがいい」

「ベルナデットも同じ意見かしら」

「多分」

「わかったわ。ねぇ、ベルナデットには会えないの? 薬とは関係なく、会いたいのよ」

「あぁ、帰るつもりはあるんだが……帰ってこられないんだ」

「まぁ……何てこと。それじゃ、このお店を開店休業にしておくのも当たり前ね……」


ロジェが不思議そうな顔で口を開く前に、ベルナールが急に言った。


「ロジェ君。ちょっと実験をしたいんだけど、どうかな?」

「実験ですか?」

「あぁ。エレンの手にキスをしてほしい」

「しかし」


ロジェの反論を、ベルナールは笑顔で止めた。


「いいかい、それで、し続けてほしい。ずっとだ」


不意に理解したようで、ロジェは頷いた。


「……なるほど。どのくらいですか」

「私がいいというまで」

「わかりました」


言うと、ロジェは傅いて私の手を取った。


「エレン……大丈夫ですか?」

「ええ、信頼してるから」


私が言うと、一瞬口を開きかけたが、何も言わず、ロジェは恐る恐る手にキスをした。


私はパッと大人に戻った。


そして、ロジェが私の手にずっとキスしているのを、元の姿のまま、ドキドキしながら見ていた。


キスは二日かけてここへ来る間、何度か試したのだけど、なかなか慣れない。それに、ロジェはどんどん丁寧に優しくなっている。今も壊れ物のように優しい。


「やっぱり。キスしたままだと、姿は保たれるのか……」


ベルナールが呟いた。


「本当だわ。そうみたい、だけど……」

「さすがに、相変わらず綺麗だね、エレンは」


言いながら、ベルナールは私に近づき、頬を両手で覆った。


「ベルナール?」

「久しぶりに会うと、成長した姿はとても嬉しいものだね。こうしてキスしたくなるじゃないか」

「ベルナールったら! 冗談はよして!」

「おやめください! エレンは」


私とロジェが叫ぶのと、ベルナールが吹き飛ぶのが同時だった。


「あれ?」


瞬間的に、私の姿が小さくなる。


カウンターに吹き飛ばされたベルナールが、笑いながら立ち上がった。


「ほら。眠ってるだけだって証明されたね。元の姿に戻れば、魔法は使える。まだ試してなかったろ?」

「本当だ……」


私は自分の手を眺めた。魔法効果の光の瞬きがキラキラと落ちてくる。私は思いっきりロジェに抱きついた。


「ロジェ! すごいわ! 魔法が消えてしまったわけじゃないのよ! 元の姿に戻るだけでいいのかもしれない!」


ロジェは十歳の私を軽々と抱き上げ、複雑そうな顔で私を見た。


「そうですか……」

「それに……そうね、何かあった時には、ロジェにキスしていて貰えばいいのね! わかったわ!」

「手に?」

「あ……あぁ、そうね、両手が使えないと不便だわ……でもそれ以外のところなんて……頬? 額? でも、前が見えないと問題だし……」


私は考え、ハッと思いついた。


「あ! 首筋? ほら、後ろ側から、後ろの……」

「無理です」

「どうして? ヴァンパイアはよくやってるじゃない?」

「俺はヴァンパイアじゃないんで」

「でも」

「無理なもんは無理です!」


言うと、ロジェは私を放り投げるようにして、床に下ろした。そして、文字通り上から目線で私を怒鳴りつけた。


「子供の後ろから首筋にキスも頭おかしいのに、大人に戻ったあなたにし続けるなんて、それだけなんて、無理ってことです!」


本当に嫌そう。すごい顔で怒ってる。一度鏡で見てみればいいのに。私は渋々頷いた。


「……わかったわよ。それじゃ、片手でできる魔法をなるたけ思い出しておかなくちゃ」

「は?」

「手にはキスしていてくれるでしょ?」

「そんな勝手に」

「まぁ、その時が来ない方がいいんだけど……でもわからないし。ここへ来る時にも、物騒な人はいたでしょ。私の魔法があれば、あなたが剣を出さなくても、一掃できるかもしれないし」


私が言うと、ロジェは驚いて私の肩を掴んだ。


「ちょっとまって、俺はあなたの護衛だろ?」

「違うわ。親切な休暇中の竜騎士よ。力はいざという時に残しておいて。それに、休暇中、ずっと私に付き合わせるわけにはいかないわ」

「……俺としては、そのつもりだったんだけど」

「まぁ。さすがにそこまでしてもらおうなんて思ってないわよ?」

「俺がしたいだけだよ。休暇は始まったばかりだし、それにあなたは危なっかしすぎて」


言い合いになったロジェと私の間に、ベルナールが割って入った。


「まぁまぁ、言い争いはここまでにして。竜騎士の竜をタクシー代わりに使うなんて、優雅でいいじゃないか? でも、竜騎士は目立ちすぎるな……その鎧は脱いで、平服で過ごすといい。特にここは、王都から離れているからね。休暇中ならなおさらだ」

「あ……そうですね。でも、俺、服はこれしかなくて」

「それじゃ、私の服をあげよう。体格がさほど違うわけじゃないだろ」


言うと、ベルナールはすぐに奥から手近な服をとって戻ってきた。


「でも、それでは」

「恩を着せるつもりなんてないよ。ただ、私では解決できないから、その罪滅ぼしだ」

「ですが……いいえ、遠慮なく、いただきます」


言いかけて、断る方がよくないとロジェは気付いたようだった。確かに、平服を買う手間が省けるなら、それはありがたいことだった。


「着替えておいで」

「はい」


ロジェが扉の無効に消えていく。私は扉が閉まったのを確認し、ベルナールに小さな声で声をかけた。


「ベルナール……いいえ、ベルナデット」


私が彼……彼女と言った方がいいのだろうか? 見た目は男だから、私はいつも人にはそう紹介しているけれど、でも彼は、正真正銘、私の友人、女性の魔法使い、ベルナデットなのだった。


「もしかして、元に戻れないの?」


私が言うと、ベルナールは肩をすくめた。


「残念ながら。今のところは」

「一体、どうしちゃったの?」

「いろいろあって……魔法をかけられちゃったのよ」

「ひどい魔法ね……あぁ、ベルナデット……私に何かできることがあれば」


私の言葉に、ベルナールは首を否定的に振った。


「それより、あなたの方が大変じゃない? しがない薬屋なんてどうってことないわ。でも、大魔法使いトレハロースが魔法を使えないなんて、前代未聞だから。早く取り戻すのよ」

「ありがとう。でもね、どうってことないなんて、嘘を言わないで。ベルナデットに会えなくて寂しいわ」


すると、ベルナールは照れ臭そうに笑った。


「相変わらず、ベルナールの前でベルナデットに会いたいって言ってくれるのは、エレンだけね。親友のために、ぜひ元に戻りたいものだけど」


親友なんてくすぐったい言葉。私は少し微笑んで、真面目な声で言った。


「ねぇ、ベルナデット。私なら、あなたにかけられた魔法を解除できると思うわ。大体の魔法は知ってるもの。だから、さっきみたいに元に戻って……」

「ダメ。それはできないわ。この魔法はとても複雑なの。おそらく、解除までに一時間以上かかる。それに、あなたの両手が必要よ。その間、ロジェ君にずっとキスしてろって? 首筋に? 無理でしょ」

「でも……」

「大丈夫。こっちだって解除できないことはないから。時間をかければね」

「本当に? 信じていいのね」

「大丈夫。しぃ、エレン。もうこの話は終わり。ロジェ君が戻ってきてる。似合ってるって褒めてあげなきゃ」


振り返ると、ロジェがその場に突っ立っていた。


「あら、ロジェ。そんなところで突っ立って、どうしたの?」

「いや……何でも……」

「やぁ、似合ってるなぁ。私よりも似合うんじゃないか?」


ベルナールが呑気にロジェに声をかける。ロジェが不承不承ながら、礼を言う。照れくさそうなロジェが可愛い。


「今日はもう遅い。竜騎士というからには、竜の泊まれる宿屋だろう? ここからは遠い。早く行ったほうがいいよ」

「ありがとうございます」


それでもチラチラと何か言いたげにベルナールを見るロジェに、ベルナールは首を傾げた。


「どうしたんだい?」

「いいえ、あの……お親しいんだな、と思って……」

「君ほどじゃないよ、ロジェ。私は単なる魔法使い仲間だ。エレンのことは信用しているが、時に、信頼できる同業者を見つけるのは、生きることより難しいからね。必要以上に親しく見えるかもしれないが、関係ない」

「そうなんですか……」

「後で、ベルナデットの話を聞くといい」


私は驚いてベルナールを見た。あまり秘密を明かすのが好きではない人なのに。


「ロジェに教えてもいいの?」

「もちろん。警戒心の強い君が一緒にここへ来るくらい、信頼してるんだから。私も信用しなくてどうする?」

「嬉しいわ、ベルナール!」


私は彼に抱きついた。


早くベルナデットに戻れるといいのに! そうしたら、たくさんお酒を飲んで食べて語るんだから! おっと、その前に私も元に戻らなくちゃならないけど。


「早く行こう、エレン」


浸っている暇もなく、私はベリベリとベルナールから引き剥がされた。


「ええ、え?」

「宿が閉まってしまう」

「大丈夫よ」

「アロイスが寂しがる」

「言い聞かせてきたでしょう?」

「何でもいいから。早く帰りましょうって言ってるんです!」

「え……あ……はい……」


ベルナールがクスクスと笑った。


「そうだね、確かに、”十歳の子供”は早く帰らなくちゃ」

「二十五歳でもです」

「だよね」


まだクスクス笑うベルナールに見送られ、私たちは薬屋を出た。


依然、ロジェは怒ったままだ。敬語が戻ってる。


「どうしたの、ロジェ」

「なんでもないです」

「でも怒ってるでしょう?」

「別に……俺はまだ、あなたに会って三日しか経ってないんだと、肝に銘じているだけ」

「銘じてどうするの?」

「俺だけだと勘違いしないためです」

「何が?」

「それは」


と、突然、店の間から、人影が飛び出してきた。


「誰だ?!」


ロジェの言葉に呼応するように、まばらな人影が、いち、に、さん、し……え、八人? 何?


「お前……ベルナールだな」

「店から出るなと言っただろう」

「我が令嬢がお怒りだ」

「ご主人の命を受けている。店に戻るのだ」


次から次へと言われ、ロジェは一瞬キョトンとした。


「え? いや俺は」


そこで気がついた。竜騎士の鎧は袋の中。着ているのはまぎれもないベルナールの服。暗がりだから、人違いに気づかないのだ。


その瞬間、バシュッと音がして、青白い光が走った。


「魔法……」


一瞬で路地に放り出された私は、それを見ながら呟いた。


あれは戦闘魔法を封印する魔法だ。かなり高度。だが、彼はロジェで、ベルナールじゃない。戦闘に魔法は使っても、全てじゃない。むしろ、きっと接近戦も得意。


「ロジェ、殺さないで!」

「わかってる」


言いながらロジェが寸止めにし、次々と気絶させていく。


「鮮やか……」


早い。しかも正確。これが竜騎士なんだ。それも、期待の新人……


最後の一人を気絶させて、ロジェはまるで軽く運動しただけのように私に振り返った。


「エレン、怪我はない?」

「ないわ。あなたこそ」

「見てなかったの? あいつら、俺にかすりもしなかった。元から封印魔法を使うしかできなかったみたいだ。戦闘に弱いなんて……あのベルナールさんが?」


私は頷いた。


「ベルナールは戦闘魔法は使えるけど、接近戦はからきしなのよ」

「あんなにガタイがいいのに?」

「でも、薬屋の受付してるくらいなのよ?」

「まぁ、そうだけど……俺だったら喜んで剣の練習するのにな。羨ましいよ」

「そんなに強いのに?」

「あれだけガタイが良ければ、もっと強くなれる。俺は、竜騎士にしては弱い方だから、どうしたって限界がある」

「期待の新人なのに?」

「運が良かっただけ。自分でフカしてるだけなんだ」


照れくさそうにロジェが言う。


もう。こんなにいい子なのに。純真な気持ちを騙したみたいで、本当に申し訳ない。


「戻りましょ」

「でも」

「あの子、わかってたのよ、きっと。こうなること。ロジェが強いってわかってたから、わざとそうしたんだわ」

「そんな」

「前はそんな子じゃなかったのに!」


見た目、十歳の女子が、三十歳近い妙齢の男性について言うようなセリフじゃない。事情を知っているロジェでさえ、悩ましく眉をひそめている。


「いくわよ!」


私はロジェの手を引くと、急いで薬屋に引き返した。


「ベルナデット!」


私が店の扉を開けると、彼はにっこりと笑った。


「やっぱりダメだったか」

「やっぱりって? やっぱりって何? ベルナデット! あなた、ここに軟禁されてるのね? 何をしたの? おかげでロジェが大変な目に遭ったわ!」

「……ベルナデット?」


ロジェが首を傾げた。私は頷いた。


「そう。この人はベルナデット。今はベルナールと名乗っているけど、元は女性よ。聞いたことはない? ロジェ。一定の期間ごとに、性別が変わる種族の話」

「あります。勉強しましたから。隣国ではそう珍しくはないようですが……。大事な人にしか教えないそうですね」


ベルナールは頷いた。


「弱点になり得るからね。私の場合は、薬屋として、人に不安を与えたくなくて、普段は黙っているんだ」

「でも……二十五歳を越える頃には、元の性に戻ると聞きました。どうしても変えたい時は申請して、特別な儀式が必要だとか」

「よく知ってるね、良かった。私はもともとベルナデットで、変異が始まる七歳まで女の子だった。だから、女性で固定化するはずなんだ」

「そう……なんですか……」


呆然と呟くロジェに、ベルナールはぼやいた。


「本当に、特異体質って言ってもさ、使える魔法も変化しなくたっていいと思わないかい? ”ベルナデット”は薬を扱う魔法使い、”ベルナール”は薬を扱えない。言った通り、攻撃魔法しかできない。おかげで、この姿に固定させられてから、店を続けられていない。”ベルナデット”がいなくて同情はしてもらえるけど、薬がないことにはね。ほんと、死活問題だよ」

「一体何があったの? さっき聞けなかったから、教えて」

「……安眠できないようになってるんだ。だから、体内時計がうまく機能しない。それに、この魔法は解除が難しいんだ。解析して、組み立てて、仕掛け直して解除……ここまでに、かなり時間がかかる。安眠できないだけなのに。多分、わざと複雑にしたんだと思う」


私は計算し、そしてベルナールの言葉から、推測した。


「街にいる普通の魔法使いじゃ、連続して魔法を使えるのは、せいぜい三十分くらいよね。魔法院の魔法使いなら、一時間でも二時間でもできる人はいるけれど……でも王宮には頼めない、なぜなら」

「そう。王宮の魔法院の魔法使いがやってくれたことだから」


頷いたベルナールに、ロジェは驚いて声を上げた。


「嘘でしょう?」

「嘘じゃないよ。”ベルナール”……この姿の方で会った女性がね、魔法院の魔法使いだったんだ。それで、いつしかこの変異も終わって、男性にはならなくなると聞いたらさ……」

「自業自得じゃない。付き合ってたんでしょ?」


私が呆れて言うと、ベルナールは少し傷ついたようにムッとした。


「まさか! だってもう固定に戻る時期だし、戻りたかったし。そうじゃなくて、つまり、儀式を受けてベルナールになれば、付き合えるでしょって言われてしまったんだよ。だから、そうだとしても君を選ばないと言ったら、選ぶまでは家にいろと」


私はロジェと顔を見合わせた。


「うーん……それは……」

「正直すぎますね……」

「そう? だとしても、無理だから。でも困るんだよね。彼女ほどの魔法使いは、そこらにいないから、解除も難しいし、魔法院の魔法使いに、誰が逆らえる? みんなの憧れだよ?」


すると、ロジェが軽く提案をしてきた。ごく自然に。


「それなら……エレンは? エレンなら、できるんでしょう?」

「そうだけど。でも、今は魔法が使えないんだから」

「でも……俺が……キスをすれば……」

「無理だよ。両手を使うんだから。エレンの首筋にしないとならないよ?」


う、と言葉を詰まらせ、ロジェは下を向いてしばらく考え込んだ。そりゃ無理だよね、さっきあんなに怒ってたんだもの……


と思っていたが、ロジェは顔を上げた。


「……やります」

「えぇ?! いいの?」

「はい。苦しんでる人をおいてはおけません。それに、確か、……命の危険があると聞いたことがあります。儀式の敷居が高いのも、寿命が短くなる可能性を少なくするためだと。そうなんですよね?」

「まさか」


私は軽く笑い飛ばそうとした”ベルナール”を睨んだ。


「知らなかったわ。そうなのね?」

「う……」

「ベルナデット……嘘はつかないで?」

「確かに……そうだけど……」

「それなら、やるしかないわね!」


陥落したベルナールの気が変わる前にと、私たちは急いで準備をした。


と言っても、難しいことはなかった。ベルナールをカウンター前に立たせて、私は充分に距離をとって、直線上に立つだけ。


ぶかぶかの長いワンピースにローブを引っ掛けて、まるで魔法使いみたい。魔法使いなんだけど。でも、魔法が使えなくなってからこの姿は久しぶりで、少しワクワクした。


意気込んでいる私に一度笑いかけると、ロジェが後ろに立った。私が髪をアップにすると、ロジェはぐ、と詰まった声を出した。


「大丈夫?」

「大丈夫です」

「辞めるなら今だよ、ロジェ君。今解けなくても、いつかは自分で解くから」


”ベルナール”のヤジに、ロジェはムッとしたように不機嫌に答えた。


「それはいつですか? すぐならいいですけど、そうじゃないですよね? 利己的な魔法は嫌いです。あなたは何もしていないのに。……そう、何もしていない。俺だって、何もしない。うん、何かするわけじゃない……これから手助けするだけ……」


後半、何を言ってるのかわからなかったけど、ベルナールが笑っているから、呪いの呪文ではないのはわかった。


そう、ロジェは正義感が強いんだわ。そうでなければ騎士なんて目指さないわね。それも、嘘や偽りを嫌う竜を扱う、あんなデリケートな竜騎士になんか。


「何をぶつぶつ言ってるの? 場所を変える? ちょっと大変だけど、頬でも大丈夫よ?」

「いいえ。こちらで結構です」


するとすぐに、ロジェの唇がふわりと首筋に触った。と同時に、私の姿は元に戻る。姿が維持できると思うと、とたんに元気が湧いた。そして、手に以前の感覚が甦るのを感じた。


私、魔法が使えるんだ!


「それじゃ、張り切って! さぁ、ベルナデット、いくわよ!」


私は両手で丸を作りながら、呪文を呟き、その両手を前に押し出した。キラキラとした光がベルナールに伸びていき、彼を包もうとする。その光を阻むように、青紫の細い線が様々な形を描いている。


「あれね」


強固な魔法の縛りだ。私は一つ一つ解いていき、その複雑さに驚いた。あくまでベルナールに負担がないように、疲れないように、……このままでいたくなるように設計されている。その人、ベルナールのことが、本当に、とても好きなんだわ。


「一体ベルナールのどこがよかったのかしら」


私が思わず呟くと、後ろでロジェがフゴフゴとなにか言いかけた。


「くすぐったいわ、ロジェ! 気が散っちゃう!」


すると、ロジェは慌てて口を閉ざした。それで私は思い出した。


「そうね、あなた、羨ましいって言ってたもの。きっと素敵なんでしょう。私にとって、ベルナールはベルナデットで……うーん、つまり……あくまでベルナデットなのよね」


肩までの赤毛の、颯爽とした美人。いつも自信があって、薬の扱いは天才的で、明るくて、冗談が好き。それが私の知っているベルナデットで、私は彼女に戻ってきてほしい。ベルナールだって嫌いではないけど、でも彼はベルナデットの中にいる。そして、大切な友人は、ベルナデットなのだ。


気がつくと、じわりと汗をかいていた。


久しぶりに長いこと魔法を使っているので、消耗が激しい。


早いところ終わらせなきゃ。


解析の後は、解除する魔法の組み立てと、仕掛け直しだ。これも相当丁寧にやらないと、ベルナデットが戻らない。魔法が使えないベルナデットなんて、本人が悲しむに決まってる。


ちゃんと、しないと。


間違えないように、一字一句、正しい位置に。


手が震えそうだ。すると、ロジェが私の背中に、何かを指でなぞるようにした。


「何?」


それは文字だった。


「ロジェ……?」


『お・ち・つ・い・て』


そして、私の肩をしっかりと掴んだ。何となく、言いたいことはわかった。


そっか。私は焦ってるんだ。できるはずなのに、友達だから、久しぶりだからと、見失っていた。私にはできる。だから、ベルナデットだって信頼して任せてくれたのに。


私は気持ちを落ち着かせ、深く深呼吸をした。


そして、冷静になると、驚くほどすんなりと、魔法の仕掛け直しは終わった。あとは発動させるだけ。


「ベルナデット、感謝しなさいよ」


私は笑顔になると、最後の魔法を発動させた。


パァッと光が弾け、目がくらんだそのあと、一人の女性が立っていた。


はっきりとした顔立ちに、自信のある笑顔が目を引く。豊かな赤い髪が、ウェーブを重ねながら腰まで流れていた。威厳のある佇まいは変わらない。


「ベルナデット!」


私が駆け寄ると、ベルナデットは笑った。


「可愛いエレンちゃん、ありがとうね」


まぁ。私の姿は小さくなっていた。当たり前だ。振り向くと、ロジェが呆然と椅子に座っていた。


「ありがとう、ロジェ!」


私がかけ戻ると、ロジェは憔悴仕切ったように目をつぶり、頭を横に振った。


「エレンのしたことに比べたら……俺は煩悩の塊にすぎない……」

「ロジェ、最後、肩を掴んでくれたでしょ。すごく励みになったわ」


すると、ロジェは片目だけ開けて私を見た。


「俺が言いたいこと、わかりました?」

「もちろん、わかったわよ! 『俺の努力を無駄にするな』でしょう? おかげで、思い出したのよ! あなたが信頼してくれたこと。一時間もキスしてるなんて、すごく大変だったでしょう?」

「……まぁ、そうですね。でも、あんな間近ですごい魔法が見れて、楽しかったですよ」


本気とも冗談とも取れる言い草で、ロジェはクスリと笑った。


「あなたと会ってからは本当に、驚いてばかりだ。竜の次に面白い」

「もちろん、アロイスは最高! 早く戻ってあげたいわね」


私が満面の笑みで言うと、ベルナデットがロジェの肩をがしりと掴んだ。


「『大丈夫、俺がついてる』。私だったらそう聞き取るわ。それで? 汗の味はしょっぱかったかしら? それとも、甘かった? ロジェ君」


ロジェが引きつりながらベルナデットに振り向いた。


「味わう暇はなかったですよ。気を取られていましたのでね」

「まぁ、魔法に? それとも魔性のエレアノールに?」

「そっ! べ! ちが」

「教えてくれる? それとも、自白の薬でも出そうかしら?」

「やめてください! しょっぱかったです、はいはい、味わいました。これで満足ですか」


珍しい。ベルナデットの綺麗な顔が間近にあるのに、ロジェは赤面一つしない。ロジェ本人の顔が綺麗だからかしら? それともさっきまでベルナールだったのを見ていたからかしら? 美人は専門外?


「自白の薬といえば、ベルナデット、やっぱり、私にかかってる魔法は解けない?」

「え? 味わっててもいいんだ? そうね、私の力では無理。というのもね、魔法無効化の薬、どこかで聞いたことがあるの。違法で、かなり強力なものがあるって。一時無効化と言う触れ込みだけど、二度と使えなくなるかもしれないって、知り合いの魔法使いがとても怖がっていたわ。その領主、あなたを恨んでいたかどうしても手に入れたかったのね」

「二度と使えなくなる?」

「でも、エレン、あなたは、使えたには使えたわよね。だから、当てはまらないけど……眠り薬といい、街の薬屋じゃ、手に負えないわ。例え技術的にはできるとしても、材料がないだろうし、時間もかかる。私は今まで営業できなかった分、取り戻さなきゃならなくて……やっぱり、隣国の混合魔法の研究者のところへ行くといいと思うの。今回は、助けてもらったから、推薦状を書いてあげる」

「推薦状? 悪いわ」


驚いて目を見開いた私に、ロジェは首を傾げた。


「書いてもらうのに躊躇するものなんですか?」

「ええ。条件によるけど、とっても魔力を使うの。責任も伴うし、もともと、魔法使いってお互いを信用しないものだから、推薦状なんてほとんど書かないし」

「そうなんですか」

「いいえ。書かせて」


きっぱりとそう言って、ベルナデットは無理に書き、なぜかその推薦状を、ロジェにもたせた。


「エレンに渡すとなくしそうだから、あなたが持ってて」

「え? は、はい」


ひどい。私は恨めしくベルナデットを見たが、彼女はどこ吹く風で、ロジェに優しく笑いかけていた。ロジェも嬉しそうにしちゃって。やっぱり美人が好きなんじゃないの。


「混合魔法の研究をしているのはイレール・ラルビ、隣国のロマランという街にいるわ。ひとまず国境のシャンタ村へ向かうといいでしょうね。宿は取れそう?」

「シャンタ村? それなら、近くに竜騎士の駐屯地があります。頼めば休暇中でも大丈夫だと思います。アロイスの休憩にもいいですし。魔物が出る森が近くて危ないですから、エレンが良ければ、そこが一番安全です」

「私なら、大丈夫よ。顔を見られなければいいわけだし」


そもそも、部外者は無理なら、宿をとってもいい。アロイスにはお世話になっているから、ゆっくり休んでほしい。あの日から三日、ずっと私を乗せて飛んでくれたのだから。


「エレンを会わせるの?」

「……そうなりますね」

「どうやって説明するつもり?」

「考えていたのは、『引っ込み思案で俺の後ろに隠れてばかりいるけど、魔法使い見習いで、魔法院に行きたがって、俺の休暇につきまとっている』って設定ですが……」

「なるほど……」


ベルナデットが少し険しい顔をして考え込み、顔を上げた。


「魔法院に行きたがっているより、トレハロースを探しに行く、のほうがいいと思うわ」

「私を探しに?」

「そう。十歳のトレハロースが二十五歳のトレハロースを探しに行くの」

「まぁ哲学的ね」

「冗談で言ってるんじゃないわ。書類で報告はしたのでしょうけど、ロジェ君は大魔法使いトレハロースを助けに行ったんでしょ。当然、トレハロースはどこだということになるじゃない。なのに、いないでしょ? 行方不明って報告してるんじゃないの? どう説明するの? 幼女に付きまとわれてる場合じゃないのよ」

「じゃ、どうすれば?」

「うーん……『引っ込み思案でロジェ君の後ろに隠れてばかりいるけど、魔法使い見習いで、師匠のトレハロースを探しに旅をするところで、ロジェ君は休暇中に手伝っている』ってことにすれば?」

「なるほど……」

「大体、魔法院なんて行きたがるとこじゃないわ。男も女も変な奴ばっかり」


ロジェがふと疑問に思ったように首を傾げた。


「その……忘れていましたけど……魔法院の女性は……?」

「後で締め上げるわ。この姿に戻れたのはもうわかってるはずだし、諦めると思うし」

「それなら良かったです」

「そう? ライバルが減って良かった?」

「あのですねぇ、エレンの友達が元に戻って良かったって思っちゃダメなんですか?」

「いいえ。ありがとう。きっとそうね」


ベルナデットは微笑んだ。そして、小さな声で何事かをロジェに囁いた。驚いた顔をしたロジェの肩を、ポンと叩く。


「私の大事な友人を守ってね。信じてるわよ、ロジェ君」

「……はい! わかりました!」


感激したように、ロジェはベルナデットを見た。


「それじゃ、……またね」

「ベルナデット……その……会えて嬉しかったわ」

「会いに来てはくれないと思った」

「そんなはずないわ! また来る。元に戻ったら、また絶対に会いに来るわ!」


私は言うと、薬屋を後にした。ロジェは先ほどと打って変わってニコニコとしている。道には妙な人影もなく、安全に歩けていた。


「何を話していたの?」

「俺だけだって。ベルナデットさんが信用してあなたを預けられるのは。あなたが信用してるのは」


そんなこと?


「なんだ。ベルナデットに褒められたのかと思った」

「ある意味、褒められたよ。一時間も何もしなかったのはすごいって」

「ほら、やっぱりすごいんじゃない。ベルナデットが人を褒めるなんて、あんまりないのよ」

「そうかな」

「そうよ。だから、何もしてないなんて思わないで」

「そんなこと、言ったっけ?」

「言ったわ。でもね、ロジェは一人だけよ。アロイスの相棒で、休暇中で、私を助けてくれて、私の正体をすぐに見破ったのは、ロジェだけだもの。自信を持って! 頼んだわよ、私の竜騎士さん!」

「それはいい響きだな」


ロジェはそう言うと、嬉しそうに私を抱えた。


「ちょ、下ろして!」

「もう一度言ってくれるかな」

「おろし」

「そっちじゃない」

「”自信を持って”?」

「違う」

「”私の竜騎士”?」


その言葉に、ロジェは首を傾げた。


「……なんか違うなぁ」

「えー! 私の竜騎士さん、でしょ? おろしてよー!」

「夜遅いからダメ」


暴れる私を無視して、ロジェは笑いながら、どんどんと先に歩いて行った。彼の相棒の竜、アロイスが待つ宿屋を目指して。






性懲りもなく、続きそうな終わり方ですみません(汗)

また短編等で、続きをかけたらいいなと思います。




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