#97 ある不変を呪う反逆者の物語14
※亀更新で申し訳ありません。
何卒広い心でお待ち下さい。
こんなご時世ですが、読んで下さる皆様がどうか健やかであります様にと願っております。
どうにかこの辛い時期を乗りきりましょう。
◆◇◆◇◆
「······当たり。ようやく見付けたわよ、地下に続く階段!」
「こんな場所に隠していたのか······。急ごう、マリーちゃんとミィルちゃんが心配だ」
一階を隈なく探索していたリード達は、ようやくと貯蔵庫の内にて不自然に隠蔽されていた扉を発見し、それが地下へと続いている事を確認した。
マリー達が囚われているであろう薄暗い地下室へと続く階段を前にして、深い溜め息を落とすのだった。
「全く、随分と分かりづらい所に作ったものね。露骨に知られたくないですって言ってる様なものじゃない」
「それはそうだろうさ。簡単に見付かるなら最初から隠してないよきっと」
「そこまでです。急ぎますよ、マリーさんが心配です」
「ええ、私が先頭で道を照らしながら進むわ。リードは一番後ろ、宜しくね」
言うが早いか、エミリーは必要な事を告げると自身の掌に炎を灯し、さっさと先行して階段を下ってゆく。リエメルがそれに続くと、リードは少しの間隔を空けてから最後尾にて階段を下ってゆく。
階段の幅は大人が二人並んで歩ける程で、天井は余裕のある高さを維持していて少し急な勾配がついた作りとなっていた。
壁には小さな照明石が埋め込まれており、薄暗い地下へと続く階段を申し訳程度に照らしている。全体的に見てもしっかりとした作りになっており、どうやら最低限の設備は整っている様だ。
その階段を、炎を灯した手を掲げて気配を殺し、油断無く下っていたエミリーの動きがぴたりと止まる。どうやら視線の先に階段の終着点を見付けたらしい。
エミリーは掲げていた炎を握り潰し、後方に続く二人に無言のままに手を使い合図を送る。それを正確に読み取ったリードとリエメルは、深く了解の頷きを返しそれぞれ行動に移る。
息を殺し、足音や気配すら消して慎重に階段を下るエミリー。その歩みが再び止まり、今度は後手で指を三本立てて後方にいる二人へと合図を送る。
そして、地下の通路へと続いている階段をひと息に飛び降りて、その身を通路に投げ出した。
すると、それを待ち構えていたかの様に、同じ容姿をした《人工生命体》三体が死角からエミリーへと殺到する。
それぞれが手に持つ鈍く輝く剣、赤錆が付着した鈍器、鋭利な斧が次々と侵入者であるエミリーへと振り下ろされる。
が、エミリーはそれらを難無く捌き、人工生命体一体の頭と胸部に炎を纒った強烈な拳撃を叩き込み爆散させてみせる。
「バレバレだってば!」
襲い掛かる人工生命体三体の内の一体の上半身を吹き飛ばし、続いて残り二体へとその視線を向けるも······。
「······っと、もう終わってんじゃない」
「当然です。この様な傀儡相手に、私が苦戦する訳がないでしょう」
エミリーの前には、氷漬けにされた二体の人工生命体の氷柱が出来上がっており、杖を携えたリエメルが悠然と立っていたのであった。
エミリーの合図を正しく読み取り、エミリーが行動に移すと同時に二人も素早く動いていた。エミリーが一体の人工生命体を倒している間に、リエメルは既に二体の人工生命体を氷の魔法で行動不能にしていたのだ。
そして、リードが後方を警戒しながら階段を下る頃には全てが終わった後だった。
二人と合流したリードは、氷漬けになっている人工生命体を見るや、自身の持つ剣で軽く氷柱を小突いてみせる。すると、氷柱は一気に砕けて通路へと細かな氷塊を撒き散らす。その様に一瞥もくれず、周囲を冷静に見渡して溜め息を落とす。
「随分と手の込んだ作りになっているね。これだけの規模の地下空間を作るとなると、相当時間が掛かっただろうに」
リードは大人四人は軽く並べる程の幅の通路と、所々にある扉を眺めて肩を落とす。幾つ扉があるのだろうか······と、目頭を押さえ頭を振るのだった。
「なに呑気なこと言ってるのよ。ほら、さっさとマリーちゃんを探すわよ」
「真面目に答えるならば、恐らくは人海戦術というものでしょうね。何せ、不眠不休の作業要員は沢山いる様ですからね」
「真面目に答えなくていいわよ。全く、二人して馬鹿な事言ってないでさっさと探す!」
エミリーに尻を蹴られるリードを横目に、リエメルは静かに杖を地面へと打ちつける。そして、静かに息を落として二人へと告げる。
「······残念ながら、マリーさんはこの階にはいない様ですね」
「はぁ!? だって地下って言ったじゃない! 何でいないのよ!」
「落ち着きなさい、どうやら更に下がある様です。······本当に、随分と手間を掛けさせてくれますね」
「作りもそうだけど、どうやらこっちもまだまだ手間が掛かりそうだよ」
リードの見つめる通路の先には、またしても同じ容姿で武装した人工生命体達が此方へと群を成して近付いてきているのが見えた。その姿を確認したエミリーは自身の右手をごきごきと鳴らし、心底嫌そうに表情を歪める。
「本っ当に······いい加減にしなさいってのよね。ここの馬鹿家主は、一体どれだけの人達を犠牲にしてんのよ」
「全くだ、これはここ数年単位の数じゃない。少なくとも十数年······いや、数十年か。どうしてここまで放っておいたんだ」
「今はそれを考えている暇はありません。迅速に蹴散らし、早急にマリーさんを救出しましょう。何せ······」
一旦言葉を区切り、手に持つ杖を前方へと構えたリエメルが厳しい表情で口を開く。
「マリーさんは元々囚われていた場所から移動を開始している様です。最早猶予はありません、急ぎますよ」
◆◇◆◇◆
「ミィちゃん、私から離れないで下さいね」
「うん、絶対にマリーお姉ちゃんから離れない」
囚われていた牢を出て、恐る恐ると薄暗い通路を寄り添いながらゆっくりと進むマリーとミィル。その冷たく無機質な薄暗い通路は、マリー達が囚われていた牢と同じ作りの牢が幾つも並び、錆びた堅牢な鉄格子がずらりと通路の左右に並んでいた。
雫が床へと落ちる音が通路に響くだけの静寂、微かな照明石のみの通路、それら全てがより一層その場の空気の不気味さを増し、二人は怯えながも周囲を頻りに警戒しながら慎重に歩いてゆく。
途中、冷ややかな静寂を壊し、どこからとも無く何らかの破壊音が通路の壁を反響し二人の耳にも聞こえ届く。その度に、ミィルとマリーは身体をびくりと大きく跳ね上げ、互いの身体を強く抱き締め合い恐怖を押し殺す。
「ひっ!? ······な、何の音かな?」
「大丈夫、大丈夫ですよ。私がついて······ひゃっ!? つ、ついてますからっ」
「ねぇ、本当にこの音の聞こえる方に行けばいいの? 本当に大丈夫?」
「はい、あの音を辿れば······恐らくは逃げ道が見つかる筈です。何があるか分からないので、慎重に進んでいきましょうね」
「うん······、頑張ってみる」
小さく震えながらも、マリーにがっしりとしがみつき恐る恐る歩くミィル。
猫獣人であるミィルのその特徴的な耳と尻尾は、へたりと力無く畳まれていながらも小刻みに動き、周囲の音を敏感に聞き取っていた。
それ故に、マリーには聞こえない微かな物音にすらも敏感に反応し、頻繁に周囲を見渡しては怯え、叫び声を上げない様にと強く口を結んで歩いてゆく。
そんな時、ミィルの畳まれていた耳が元気を取り戻したかの如く跳ね上がり、縮こまりつつも歩みを進めていた足がその動きを不意に止めた。
「······っと。どうしたのですか、ミィちゃん? 何かありましたか?」
「待って、マリーお姉ちゃん。今ね······あ、やっぱり! ねぇ、この先にさっきのお姉ちゃんもいるみたい! 声が聞こえるの」
「ベルディアさん······」
やはりそういう事なのだろうと、マリーは心の内で落胆する。
牢の檻を軽々と破壊し、迷いなく出ていったあの《ベルディア・ラッドストー》と名乗った得体のしれない不思議な少女。恐らくその少女がこの破壊音の原因の一端なのだろうと納得してしまっていた。
ベルディアとは親しい仲とは決して呼べはしないし、知らない事の方が多い間柄だ。交わした言葉も多くはなく、不透明な点が多すぎる。それでも、あの牢に囚われていた不安の中を共にし、発せられた少ない言葉からは確かに他人を気に掛ける優しさをも感じられた。
現に、ミィルと自身の安全を保証するとも言っていた。
しかし、その言質は二人が牢を出ないという事が前提の話。次にベルディアと会った時は、恐らくは······。
「ねぇ、行こうよマリーお姉ちゃん。きっとあのお姉ちゃんも私達を待っててくれてるんだよ! ね、そうしよ?」
と、頭の中で様々な考えを巡らせている途中でミィルに腕を引かれ現実へと引き戻される。マリーを見上げるミィルの瞳には恐怖や不安の色よりも、寧ろ安堵や希望の色が伺える。
しかし、事はそう簡単には運ばないと確信めいたものを直感しているマリーは、素直に喜ぶ事は出来ずに先を急かすミィルを慌てて引き止めるのだった。
「あ、ちょ、待って下さい! ······えぇと、この先は何があるか分かりません。だから、私達はゆっくり進みましょう? 途中でまた捕まってしまうかもしれませんよ? そうしたら、今度はもう逃げられはしないでしょう」
「うぅ、それは嫌だよ······。分かった、ゆっくり行こう? きっとあのお姉ちゃんも待っててくれるよね?」
「······えぇ、大丈夫。きっと待っててくれます。私達はゆっくり慎重に辿り着く事を考えましょうね。何かあっても、ミィちゃんだけは必ず守ってみせますから。だから安心して下さいね」
不安そうに見上げる小さな瞳には既に安堵や希望の面影はなく、溢れ落ちそうな雫を辛うじて堪えていた。
そんなミィルの不安を少しでも紛らわせようと、マリーは精一杯の強がりをして優しくミィルの頭を撫でてやる。
本心は、この道の先にて繰り広げられているであろう光景を想像し、マリーですら気が付けない程に小さく身体が震えていた。
《魔神》と出会ったあの時に、マリーの心の奥底に刻まれた本当の《恐怖》がベルディアとのやり取りの中で目覚めて以来、そのか細い心を強く握り締めて離さなかった。
本当ならば、あの牢の中でリード達が救出に来るのを待っていたい。リード達ならば、きっと何があっても助けに来てくれるに違いないから······。
しかし、そんな思いを必死に押さえつけ、今はマリーなりに精一杯強がっている。どうしても守りたい小さな少女を安心させる為に。
ミィルはといえば、撫でるマリーの小さな手のひらが微かに震えているのをしっかりと感じ取っていた。きっとマリーも怖いのだろうと······。
だからこそ笑う。
笑ってみせる。
本当は怖くて仕方がない。しかし、それ以上にマリーを支えてあげたいと、幼いながらも強く思うから。
こんな何処とも知れぬ場所まで助けにきてくれたマリーと、どうにかこの窮地を切り抜けたいと強く願うから。
瞳に溜まっていた雫を乱暴に拭い、精一杯の笑顔でマリーに微笑んでみせる。
「マリーお姉ちゃん······。じゃあ、ミィルはマリーお姉ちゃんを守ってあげる! 一緒に頑張ろう? そして、ここから一緒に逃げようねっ」
「······はい、ありがとうございます。必ず、必ず一緒に逃げましょう。大丈夫、こう見えて私実は強いのですよ?」
「ミィルも本当はとっても強いの! ほら、爪だってこんなに鋭いんだよ! だから、マリーお姉ちゃんをちゃんと守ってあげられるの」
「ふふっ、それはとても心強いです。もしもの時はお願いしますね? けど、私から絶対に離れないで下さいね。一緒に慎重に歩いて行きましょう」
「うんっ、行こうよマリーお姉ちゃん!」
そうして、幼い二人は寄り添いながらもゆっくりと、薄暗くて冷たい通路を一歩づつ確実に歩いてゆく。この先に待っているであろう希望の光を目指し、その奈落へと続く絶望の淵をゆっくりと確実に歩いてゆく。
今はただ互いの温もりを支えにし、拙い勇気と不安と恐怖を引き連れて、ゆっくりと確実に歩いてゆくのだった······。
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