#88 ある不変を呪う反逆者の物語5
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「んーっ、今日もいい天気ねぇ。絶好の観光日和だわ。今日は沢山マリーちゃんの行きたい場所に行きましょうね」
「はいっ、今からとても楽しみですっ! どんな食べ物があるのかなぁ······」
「さぁ、今日も綺麗にして出掛けましょう。髪を整えますので動かないで下さいね」
一夜空け、《工業都市アルバトーレス》滞在二日目となる今日、マリーの待ちに待った自由行動の日がやって来たのであった。天候は晴天に恵まれ、まだ陽が昇って然程経っていないというのに街からは既に賑やかな声が響き聞こえてきた。
寝間着姿のままに宿の部屋の窓を開け放ったエミリーは、その青い空を眩しそうに目を細め気持ち良さげに大きく伸びをする。リエメルは未だベッドの上で今日一日の予定に想いを廻らせるマリーの髪を優しく櫛で整えていた。
そんな中、エミリーはふと昨日の出来事を思い出しリエメルへと問い掛ける。
「そういえば、結局昨日はあの美人エルフに何を聞きたかった訳?」
「今更ですか······。まぁいいでしょう、昨日は帰ってくるなり直ぐ様眠ってしまいましたからね。それに、これは私達にも関係があるかもしれない事です。特にマリーさん、貴女が一番気を付けなければならない話です」
「え? 私、ですか?」
「はい、どうやらこの街では今《ある事件》が多発している様なのです」
「事件ねぇ······。だから昨日のエルフ達は完全武装で見回りをしていた訳ね。それにエルフ達だけじゃない、どう見てもハンターらしい連中もちらほら周囲を警戒しながら移動していた様に見えたし」
「えっ、そ、そうなんですか? 全く気が付きませんでした」
「いいのですよマリーさんは。周囲を警戒するのは私達の役目ですから。まぁ、それが少々気になりあのエルフに話を聞きたかった訳です。詳しくはリードちゃんが情報を仕入れてきている筈です。恐らくそろそろ······」
リエメルがそこまで言うと、部屋の扉を軽く叩く音が部屋に響き聞こえてきた。その音に続きリードの声が聞こえ、リエメルはマリーへと軽く片目を閉じて笑みを浮かべる。
マリーがリエメルへと称賛の眼差しを向ける中、エミリーがリードを部屋に招き入れエルフから昨日聞いた話とリードが新たに仕入れてきた話を整理する。
「では、全員揃った様なので改めてこの街で起きている事件について話していきましょう。事件というのは、どうやら最近この街で《行方不明事件》が多発している様なのです。それも子供ばかりが相次いでいなくなるという話です」
「子供が······それで私にも関係があるという事ですね?」
「はい。ですが、マリーさんの場合私達が一緒にいる限りは何が起きても安全だと言えますがね。と言っても、どうやらそう簡単な話でもなさそうなのです。リードちゃん?」
「うん。じゃあ、昨日皆が宿に戻った後に仕入れてきた情報を話そうか。先ず、行方不明になるのは決まって子供だけだという事。特に女の子。生死も行方も不明、種族問わずマリーちゃんくらいの年の女の子ばかりが次々といなくなっているらしい」
「そんなに次々といなくなって何の目撃情報も手掛かりもない訳? どう考えてもおかしいでしょそれ」
「うん、しかも昼夜問わずだ。始まりはほんの数月前かららしいんだけど、それは定かではないらしい。と言うのも、元々違法な人身売買目的の誘拐が多発していたらしい。それがここ数月で急に女の子ばかりがいなくなるという事件に変わり、異常性が目立つ様になってきたらしい」
「それは······。もしかしたら、あの《貿易都市ラングラン》の件が関係しているのでは」
マリーが恐る恐るといった感じでリードへと問い掛ける。思い返すのは当然の様に人が売買されていた貿易都市ラングランでの出来事。あの時見た光景は、未だにマリーの心に消えない傷痕として深く刻まれている。
そんなマリーの問い掛けに深く頷きを返すリードは続けて重々しく口を開く。
「うん、間違い無いだろうね。以前は無差別に様々な種族の人達が誘拐されていたらしいけど、ここにきて小さな女の子のみが行方不明になるという事件に変化した。それは需要、つまり売る場所が無くなったからに他ならないだろう。ラングランが事実上消滅したから今まで目立たなかった事件が明るみに出てきた形だね」
「本当に腐ってるわね。ぶっ潰して正解だわあんな街。今回だけはメルを褒めてあげる、よく吹っ飛ばしたわ!」
「私のせいではないと言っているでしょうに。あれは魔神のせいであって不可抗力で街が滅んだに過ぎません。断じて私の責任ではありませんので」
「あくまで認めない気ね。とどめを刺したのは間違い無くあんたの馬鹿げた威力の魔法のせいよ。いい加減認めなさい」
「あー、まぁ、それは取り合えず置いといて。一先ず今回の事件で既に何十人もの子供達が行方不明になっている。そのお陰で急にハンターズギルドにも自治体からの依頼が貼り出される程だ、相当だよ。だから、僕らもマリーちゃんを守る為に最大限の警戒をしなければならない。何が起こるか分からない以上、迂闊に動き回るのは危険だと思う。んだけど······」
と言いつつ、リードはちらりとマリーへと視線を向ける。すると、マリーは何とも言えない複雑そうな顔で口元をあわあわとさせて動揺していた。
「まぁ······非常に言い辛いんだけど、さ。今回のところは安全を第一に考えて自重しないかなーと」
「今のマリーちゃんの様子を見てよくも言い切ったわねリード。あんた、マリーちゃんがどれだけ今日という日を楽しみにしていたか分かって言ってるの?」
「その通りです。今朝も私達に起こされるよりも早く目覚め、何処に行こうかと色々と考えていたのですよ? その時の表情ときたら本当に愛らしくて正に天が使わした」
「分かってる、分かってるとも! 凄く言い辛かったのに言ったんだ、仕方ないじゃないか! 僕だって心苦しいよ、けどどうしようもないだろう? 原因が分からない以上マリーちゃんも被害にあう可能性だって考えられる。昨日も言った筈だよ、最悪を想定して動くのは当然の事だ」
「心配し過ぎよ。私達が周囲を囲むのよ? 誰にも何もさせないわ、そう簡単にやらせる訳ないじゃない。その前に僕が守るくらい言いなさいよ」
「うっ、前にもそんな事を言われた気が······けどだ、そんな危険だと分かっている場合にみすみす行く事は無いだろう? 買い物なら僕らが行けばいい訳だし」
「分かってないわね。自分の足で歩いて、自分の目で見て手にとってから買いたいものなのよ! 女の子は皆がそういうものなの。分かる?」
「じゃあ何かが起きたらどう責任を取るんだ。如何にエミリーでも、これ程の規模の街で行方不明になったら探しきれないだろう?」
リードとエミリーが騒がしく言い合う中、明らかにがっかりとした雰囲気を纏うマリーをリエメルがそっと抱き寄せる。そして呆れた様に溜め息を落とし、未だ言い争う二人へと静かに語りかける。
「全く、少し冷静になりなさい二人共。先ず過保護なリードちゃんの不安を取り除きましょうか」
「過保護······昨日も言われたけど?」
「マリーさんに位置特定と追跡の魔方陣を施します。それがあれば、仮に行方不明になったとしても追跡、場所を把握することが出来ます」
「その魔方陣は何処に施す気だい? まさかマリーちゃんの身体に直接刻むとか言わないよね? 衣服や装飾品は論外だよ? 途中で全て剥ぎ取られてから拐われる場合だってあるんだ、そう簡単な話ではないよ」
「え、直接······? 身体に、ですか?」
「馬鹿な。マリーさんの美しい肌に傷を付ける訳がないでしょう? 安心して下さい、衣服の魔方陣は偽装の為に仕込みます。そして保険として下着にも仕込みます。ですが、それら全てが囮で本命は《これ》です」
「《これ》って······なによこれ? 石じゃない。この石ころをどうするのよ?」
何処からか取り出したリエメルの手のひらに収まる《これ》というのは、小さな石の様にも見える。白く濁った乳白色の小さな石。そんなものを一体どうしようというのかと、一同は顔を見合わせ首を傾げるのであった。
「これは石ではありません。《氷菓子》というれっきとした砂糖菓子です。昨日の買い物の際、途中で露店で見かけたのでマリーさんに渡そうと買っておいたものです」
「菓子、これがですか? 食べられるのですか、これ? 見た目が完全に小さな魔法石なのですが······」
「試しにお一つどうぞ。甘くて美味しいですよ? はい、あーん」
「ふむっ······!? んむ、むぐ? おいひい······、甘いれす!」
「ふーん、私にも一つ頂戴」
どうぞ。と、差し出された氷菓子を口に放り込み、ころころと口の中で転がしている内に訝し気な表情が驚愕へと変わり、軈てマリーと同じく笑顔を見せるエミリー。どうやら二人は、笑顔のまま無言で頷きあい喜びを共有しているらしいのが見てとれる。そんな二人を見て、リードは素朴な疑問をリエメルへと投げ掛ける。
「で、これは恐らく溶けてなくなるものなのだろう? どうする気だい?」
「これに追跡と位置特定の魔方陣を施し、更に外側に状態保全の魔方を施します。効果は三日、それまで体内に溶けずに残り最後は消化物と共に」
「分かった分かった。つまり安全なんだね? そこまで聞けたら納得するよ」
「そういう事です。恐らく何かがあればろくな食事などはとれないでしょう。それを見越して三日です。勿論、何事もなく普通に食事をしたならばもっと早くに」
「そこまで。分かったよ、信用するよ。余りマリーちゃんを苛めないでやってくれるかな?」
「············」
「これは失敬。悪意は全くなかったと弁解させて下さい。別に他意はありません、ありませんとも」
「あんた、それ以上言うと本気でマリーちゃんに嫌われるわよ?」
顔を真っ赤に紅潮させ、俯いたままのマリーを見てリエメルは頭を下げる。恥ずかしいのだろうが、それでも無言で口の中の氷菓をころころと転がしている辺りマリーらしいと思ってしまったリードは静かに口を紡ぐ。
そして、やや暫くして保険を掛けに掛けた三重の対策を纏ったマリーが宿の扉を開け放ち陽の元へと飛び出してゆく。そして満面の笑顔で一行へと手招きをし、念願の買い食らい······もとい、探索へと向かうのであった。
「納得いきません。非常に納得いきませんが妥協してあげましょう。あれも有りと言えば有りですね」
「全くね。いつの間にあんなものを買ってきていたのよ。あんなの出されたらマリーちゃんが食い付くに決まってるじゃない」
「はははっ、まぁマリーちゃん本人が選んだんだから仕方ないよね。うん、仕方ない。良く似合ってるよマリーちゃん」
「そうですかっ? これはとても動き易くて良いですねっ! それに涼しいです」
リエメルとエミリーに挟まれる形で手を繋ぎ、笑顔で歩くマリーの姿はリードが選んで買ってきていた膝丈までのハーフパンツ姿にフード付きの薄手の白いローブを纏っている。そのローブには様々な動物達の足跡が刺繍されていて、何とも見た目が可愛らしい出来のものだった。
出掛ける前にリエメルとエミリーが選んだ自慢の衣服を判定させる為にリードへと差し出したのだが、何処からかリードも衣服を取り出しベッドへと並べたのであった。そして、結果的にマリー本人が選んだ衣服を着ていくという事に落ち着き今に至る。
どこか得意気なリードが先頭を歩き、その後ろを離れない様にマリー達が続いて賑わう街の中を歩いてゆく。
「わぁぁ、既に香ばしいいい臭いがしますぅ。朝食は何にしましょう?」
「勿論マリーちゃんの食べたいものでいいよ。今日はマリーちゃんの自由な日なんだからね?」
「ええ、好きなものを食べて好きなものを買いましょう。立ち塞がる障害は全て私が排除致しますのでご安心を」
「街ごとは止めてよね。マリーちゃん、肩車してあげよっか?」
「駄目です。それでは私が手を繋げないでしょう? しかし、確かにマリーさんの視点でこの人混みは少々邪魔でしょうね。分かりました、蹴散らしましょう」
「止めてくれ。昨日の様に目立つ行動は控えてくれ。もう少し危機感というものをだね」
「あっ!? あの露店で大きなお肉が焼かれてますよっ!? 見て下さいリードさんっ!」
「よっし、朝食決定ー! 突撃するわよマリーちゃん!」
こうして騒がしくも始まった一日がまたもやマリー達にとって忘れられない出来事の始まりになろうとは、この時はまだ誰も知る由もなかった······。
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