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#78 ある盲目少女と森の主の物語5





◇◆◇◆◇◆◇





 夜の帳が下りた森の中は正に闇の住人達の世界だった。梟が静かに笑うかの如くその声を響かせ、虫達が静かな世界で合唱する。


 そんな森の中に居て、静かに《獲物達》へと闇すら見透す双眼を向ける魔物が一匹。息を殺し闇に紛れる様にその身を潜ませる《魔犬(バーゲスト)》が物音を立てずに森を歩く《獲物達》の隙を伺う。


 その《獲物達》の中で一番襲いやすそうな、小さな《獲物》へと狙いを定め身を屈め静かに機を伺い行動に移す。細心の注意を払い、草藪を掻き分けて距離を詰めてゆく。《獲物達》に気取られぬ様に静かに静かに近付いて......。


 ふと、風が吹き抜ける音が耳に届く。


 突然視界が突然ぐるぐると回りだした事に慌てて回避に移ろうとするが、身体を動かす間も無く今度は視界が徐々に暗転してゆく。そうして、初めて自身の生が終わりを告げた事を悟ったのだった。

 身体から音も無くするりと落ち、地面を転がる首から生の気配は消え失せ、軈て血を吹き出す身体も静かにその場に崩れ落ちて静かに動きを止めた。そして、その一連の行動を起こした人物が心底うんざりしたかの如く溜め息混じりに言葉を吐き出す。



「鬱陶しいですね、魔物如きがマリーさんに近付くとは......。さぁマリーさん、夜の森は正に危険が伴います。なので私と手を繋いで歩きましょう」


「何を言ってんのよ何を。いいからあんたは周囲を警戒、ちゃっちゃと魔物を排除しなさいよ。マリーちゃんは私と一緒なんだから大丈夫よ。ね、マリーちゃん?」


「あ、ありがとうございますエミリーさん。それに、リエメルさんが森に潜む魔物を倒してくれているので安全に進む事が出来ている訳で......。ありがとうございます、リエメルさん」


「いいえ、マリーさんのお役に立てる事こそ私の悦び。何の心配も問題もありませんよ、マリーさん」


「まぁ、それがこの森を進む条件な訳だからね。しっかりマリーちゃんを守ってあげてよ二人共。僕は道を作るので忙しいんだからさ。ところで、道はこのまま真っ直ぐでいいのかな?」


「はい、間違いありません。僅かですが、この先に異質な力の存在を感じます」


「成る程。しかし、何と言うか......言いづらいんだけど、似合ってると思うよ?」


「うっ......し、仕方ないじゃないですかっ! 私にもどうする事も出来ないんですからっ」



 恥ずかしそうに俯き、顔を赤らめるマリーの頭の上には尖った耳がぴくぴくと動き、左右にゆらゆらと揺れる輝く白銀色の尻尾と共に小刻みに動いていた。



「害が無いのであれば宜しいかと。お耳と尻尾がとても可愛らしくていいと思います」


「うん、とっても可愛いわよマリーちゃん。尻尾触ってみてもいいかしら?」


「ううっ、何となく恥ずかしい様な......。あっ、エミリーさん!? だ、駄目です、尻尾を触らないで下さいっ!?」



 何故マリーに獣人族の《それ》が生えているのか。それは暫し前に遡る......。


 夜の森を進む一行はある場合へと向かいその歩みを進めていた。それは一人の少女の願いを聞いてしまった為に他ならない。既にその人生を終えてしまった獣人の少女、エルゥの願いを聞く為に静寂が支配する暗い森の中を切り開き進んでゆく。


 あの石で出来た墓碑の前でエルゥが歌を歌った後、全員が同じ光景を見ていたと言う。それは家族と幸せな時間を過ごしていた正にその時、突然同族達に襲撃され無惨にも殺されてしまった少女の記憶。少女がその余りにも早過ぎる一生を終えた最後の記憶。

 その一部始終を見終えた後、一行はまるで白昼夢を見せられていたかの様にその場に立ち竦んでいたのだった。そうして、寂しげに笑顔を浮かべるエルゥはマリー達一行にある願いを告げる。



「突然申し訳ありません天使様、そして同行する皆さま方。どうしてもお話しを聞いて欲しくて、この様な手段を取ってしまった事をお詫びします......。今の私にはこうするしか手段が無かったんです」


「お話を聞かせて頂けませんか? 私達に出来る事なら喜んで協力します。だから、そんな悲しそうな顔で笑わないで下さい。それ以上自身を責めないで下さい」


「ありがとうございます天使様。やっぱり、貴女はお優しいのですね。あの丘でお会いした時よりそう感じていました。......私は生まれた時よりとても《力》が強いらしいのです。死して尚、こうして皆さんの前に現れ、話す事も出来る程に。なので、生まれた時に目を焼かれ、ずっと村を守るという《役目》の為だけに生かされてきました。しかし、目が見えなくても私には色々なものが見えるんですよ? 今もしっかり皆さんの事が見えているんです。凄いですよね、皆さんとっても綺麗に輝いて、とっても暖かい光を放っています」



 自身の沈んだ気持ちを隠す様に、墓碑の周囲をくるくると踊る様に跳び跳ねて(おど)けてみせるエルゥ。そんな気持ちを察してか、マリー達一行は誰も二の句を継げる事が出来ずにいた。



「私、村の皆さんから《依り代》って呼ばれてずっと一人だったんです。神様とお話ししたりお願いしたりするのが役目だって言われて、それ以外の事をしてはいけないと言われ続け生きてきました。けど寂しくはありませんでした。神様が色々とお話ししてくれましたから」


「神様......? まさか、その神様というのは魔神様......の事ですか?」


「魔神様? いいえ、違います。守り神様といいます。ずっと私達一族を守ってくれていた御先祖様らしいですよ」


「マリーさん、どうやらあの魔神とは別物かと。獣人の中には、それぞれ独自の神を祀る種族がいると聞きます。恐らくその部類でしょう」



 神と聞き、マリーはあの一件で遭遇した破壊と増悪の塊の様な神を思い出して警戒心を抱いていた。無理もない、それ程にマリーの心に深く刻まれた出来事だったのだから。それとは知らず、エルゥは小首を傾げて様子を伺う様にマリーの顔を覗き込む。



「あ、いえ。大丈夫です、続けて下さい」


「? はい。私が《依り代》として村に居た時は、生まれて直ぐにお父さまとお母さまとは離されて別々に暮らしていたのです。食事を運んでくる人や身の回りのお世話をしてくれる人、後は神様にお願いをしにくる人。そんな人達に囲まれて暮らしていたのです。必要な事は全て神様が教えてくれるからと言われて」


「そんな......。幾ら何でもそれは」


「でも、私もそれが普通だと思っていたのです。それが当然だとも思っていた。だって、お父さまとお母さまは死んだと教えられていたから。けど違ったんです、神様が教えてくれました。二人はしっかりと生きていて、私を心から想ってくれていると。だから、私は鳥さんにお父さまとお母さまに会いたいってお願いしたのです。思えばそれが間違いの始まりだったのかも知れない......」



 寂し気に俯き自身の墓碑に寄り掛かるエルゥを前に、掛ける言葉を失うマリー。親に会いたいと願った事が間違いだったのかも、という少女の人生を思い何ともやりきれない気持ちに胸を締め付けられる。

 そんなマリーに気を使ったのか、エルゥは寂し気な雰囲気を隠す様に笑い戯けてみせる。



「あ、すいません、変な事を言って。少しだけ昔を思い出してしまいました。改めて、綺麗な光を放つ皆さんにお願いがあるのです。その前に、天使様」


「あ、え? 私、ですか?」


「はい。天使様じゃないと駄目なのです」



 微笑みながら告げるエルゥに、マリーは迷う事なく頷きを返してみせた。その瞳に確たる決意を込めてしっかりとエルゥを見詰め返す。



「ありがとうございます。実は、今のままでは私はここから余り離れる事が出来ないのです。なので、私を連れて共に行って欲しい場所があるのです。天使様と共に」


「え、共に? それは一体......」



 その後、眩しい程の笑顔で微笑むエルゥが示した提案は一行を大いに困惑させた。しかし、危険や害は無いと言い切るエルゥを信じたマリーは、その提案を不安ながらも受け入れ一行を更に困惑させるのであった......。





 


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 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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