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#73 ある神々の思惑1





◆◇◆◇◆





 鍾乳石が垂れ下がり、尖った岩肌が直下立った静寂の支配する場所。その最奥に《ソレ》はいた。

 暗闇に覆われ、一縷の光さえも届かぬ暗黒に覆われたその空間には、獣が唸るかの如く聞こえる風の音と鍾乳石を伝い落ちる滴の音のみが響いて消える。


 そんな空間が揺らぎを起こし、地響きの様な振動を伴う轟音が轟き消える。その後に、愉快そうにけたけたと笑う声が響き渡り空気を揺らす。その声の発生源はやはり《闇》で、姿形もまるで見えない《ソレ》が愉快そうに嘲笑する。



「ヒハハハハ、良いねぇ良いねぇ。ありゃあ良い、最高の玩具候補じゃねぇのよ。どう育つかなぁ、途中で潰れたりしねぇかなぁ。楽しみだなぁ、楽しみで仕方がねぇなぁ」



 闇が何かを想いせせら笑うその空間。闇は蠢き這いずり廻り、悶える様にせせら笑うその空間に、突然別の《何か》の声が響き渡る。



「ねぇ〜、困るよぉ。余り派手に動かれるとぉ、私が皆に怒られるんだよぉ? もう少〜し大人し〜くやってくれないとぉ、もう完全に閉じちゃうよぉ?」



 間延びした何処か浮遊感のある女性の声が闇の中で木霊する。その声に悪怯れる様子もなく闇は再びくつくつと笑い出す。



「ヒハハ、悪ぃ悪ぃ。そう言うなよ、ついつい楽しくてよ? ま、調子に乗ったのは事実だ。悪かったなぁおい?」


「もう、本当に勘弁してよぉ。皆怒ると怖いんだよぉ? 君も知ってるでしょう、そんなにされちゃってるんだからぁ。それよか、まだ私も許してはないんだけどぉ?」


「悪かったって。けどよ、あの糞みてぇな退屈な日々よかまだいいだろ?」


「そんな事言ってぇ、私の可愛い子供達をたーっくさん殺しちゃったのは許してませーんよーだぁ! それにぃ、私の器まで破壊されてぇ本当に不便なんだからねぇ?」



 闇の中で声だけが響き渡るその空間。男性と思わしき声の主は愉快気に、女性と思われる声の主は不機嫌そうに会話をしていた。そうして、愉快そうにせせら笑う声の主は雰囲気を一変、声色を変えて真面目に語り出す。



「······悪かったな。あの時はそうするしかなかったんだ。こんなどうしようもねぇ俺様に、手を差し出してくれんのぁお前だけだ。本当に感謝してるぜ、ありがとうな」


「もぅ、いつもそうやってぇ。まぁ、別にいいけどぉ。でもでも、完全には許してあげないからねぇ? もう暴れちゃめっ、よぉ?」


「······ヒハハ、お前本当にちょろいなぁ? 俺様が言うのも何だが、大丈夫かお前? 直ぐに変なのに騙されねぇかよ」


「大丈夫ですぅ〜、私こう見えても意外としっかりしてるしぃ。まぁ、惚れた弱みって事で許してあげるよぉ。けど、余りに目に余る時はぁ······分かってるよね?」



 女性の声が放った一言で、一瞬にしてその空間は凍りついた。質が全く変わったその空間は、まるで地の底というよりももっと深い別の異質な空間へと変わり果てる。

 深海の底の様に冷たく、深く、重く。全てを押し潰さんとするその威圧感の前には、先程まで蠢き嘲笑していた闇でさえその鳴りを潜めている。



「······ヒハハ、良いじゃねぇの。ゾクゾクするねぇ、その底冷えがする様な威圧感はよぉ。だからお前は良いんだよなぁ。今の俺様なんざ、いつでも殺せますってその感じ。やっぱお前は最高だ」


「······えへ、えへへ。やっぱりぃ? ね、言ったでしょ? しっかりしてるってぇ。もっと褒めていいよぉ?」


「おいおい、折角良い感じだったのによぉ。突然緩くなるんじゃねぇよ、おい。まぁいいや、それよりよぉ」


「邪魔スルゾ」



 再度、突然響き渡るその威厳の塊の様な声が緩い場の空間を張り詰めたそれへと変える。《ソレ》がその場に現れた瞬間、今まで聞こえていた女性の声の主が小さく悲鳴をあげた。



「ひぁっ!? ち、違うよ、私何も知らないし何もしてないよぉ!? きちんと見張りをしてただけだよぉ!」


「······フム、貴様ハ後ダ。今ハ貴様ヨ。用件ハ理解シテイルナ?」


「ヒハハハハ。おいおい、てめぇが此処に来るとはなぁ。それ程にあのマリーってチビ助が大事かよ、ええ? 《死神》よぉ?」


「少シ釘ヲ刺シニナ。······アノ幼子ニ手ヲ出ス事ハ我ガ許サン。アレハ正シク到レシ者。ソノ芽ヲ摘モウト言ウナラバ、今直グニ貴様ノ存在自体ヲ滅シヨウト思ッテナ」


「ちょっ、待って、ダメだよぉ!? 少〜しだけ燥いじゃっただだけなの! ね、止めよ? ね、ねっ?」


「ヒハハハハ、安心しろよ。あんなに面白ぇ玩具、簡単にぶっ壊す訳ぁねぇだろうよ? それによ、俺様ぁ言ったぜ? あのマリーに此処に来いってよぉ? てめぇだけじゃねぇ、俺様も期待してんだよ。あのチビ助が《何者》になるのかをよ」


「······フン。ソノ言葉、違エバ即座ニ貴様ヲ滅ス。心セヨ《魔神》」


「ああ、言われる迄もねぇ。あのチビ助にゃあしっかりと育って貰わなきゃよ。······ああ、本当に楽しみだなぁ。そうは思わねぇかよ、ええ?」


「······話ハ以上ダ。再ビコノ場ニ留マリ大人シクシテイルガ良イ。······サテ、貴様ダ。来ルガ良イ、少シ灸ヲ据エテヤロウ」


「ひぁっ!? ちょっ、違う、私は何もしてないよぉ!? やだぁ、離してぇ! 目が怖いよぉ! いやぁぁぁぁ!?」


「······今はまだ時期じゃねぇ。マリーにゃ確りと育って貰わなきゃ困んだよ。俺様に啖呵を切った《何者》でもねぇチビ助が、世界を知って《何者》になるのかを確りと見届けてやらなきゃあよ。けどよ、少しくれぇ手ぇ出しても問題はねぇよなぁ? ヒハハハハ、楽しみだなぁ、楽しみだなぁ」



 死神と女性の声が完全に消え失せた後、静寂の戻ったその空間に魔神の声だけが響き渡る。


 いつかこの場所に到るだろう少女を想い、闇が静かに緩やかに蠢いていた······。







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 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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