#7 ある不器用な騎士の物語2
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魔力の発生について今一よく分からない。と、疑問に思ったマリーは主神にその事の真相を聞いてみる事にした。
それは図らずも、人々が決して知りえる事の出来ない真理にすらも触れる事になるとも知らぬままに······。
······最早気の遠くなる程の遥かな大昔。今とは違う独自の文明を築き上げ発展していた平和な時代があった。しかし、そんな平和な時代はある時唐突に終わりを迎える事になる。
神々が《ある切っ掛け》を発端にこの世界を舞台に争いを始めてしまったのだ。
神々は自身の怒りをそのままに、神たる力を行使して様々な現象を引き起こした。
大地すら蒸発する程の灼熱の炎、天を突き貫かんばかりの巨大な氷柱、閃光と轟音を纏う破壊の雷、荒れ狂い全てを吹き飛ばす暴風、圧倒的な質量でありとあらゆるものを飲み込む津波······。
この世の終わりの凡そ全てを体現したかの現象は有りと有らゆる破壊の限りを尽くし、やがて終わりを告げた。
その後の世界はというと。
世界に生きるその尽くが死に絶え、海は干上がり、大地は既に原形を留めてはおらず、本当の意味で何もなくなってしまっていたらしい。
そんな時代があったという······。
本当に大雑把にだがのーー。
と付け加え、何処か後悔の入り交じる視線を俯かせ苦々しく語る主神の姿。
それらの出来事の後に、死に絶えた世界を再び生命溢れる場所にする為神々は再び世界の創造を行った。
しかし、大地や海を創造した所で世界に蔓延した神々の怒りを孕んだ歪みきった神力は神々の力を持ってしても全てを浄化する事は出来ず、その後も生命の定着を大いに拒み続けたのだと言う。
やがて、ようやく魂が適応力を見せ始めちらほらと独自の変化をした生物達が現れ始める。それら始まりの魂達は、大地に残る決して消えない《力》を己の内に取り込む事で生き抜く事を可能にしていたのだ。
それが今の世を生きる全ての命の祖。
それが《魔力》と呼ばれる《力》の発生の起源。
主神の口から語られる説明を、固唾を呑んで食い入るように話に聞き入っていたマリーはたった今語られた真実をこの先記憶が残る限り忘れる事は無いのだろう······。
マリーはその後、自身の魂に宿る神力の使い方をしっかりと主神から教わり自分は絶対に扱いを違えぬ様にとその心にしっかりと刻み込むのであった。
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主神は、神力が扱えるといっても世間を知らぬマリーに一人旅は無理がある。と、与えた《名も無き英霊達の書》から適切な人材を選びマリー自らに初めて神力を行使させたのであった。
その呼び声に応える様に現れた英霊に、諸々の事情を説明して旅の共として同行する事を頼み説得の助力をしてくれたのだった。それが地上にてマリーの変わりに馬車の手綱を握る青年その人である。
そして、主神がマリーに頼んだ最も重要な事とは《名も無き英霊達の書》に記される筈の偉人候補達を陰ながら導き、その慈愛の心を以て導いてやって欲しい。との事だった。
過去の教訓に基づき現世に介入する事は本意ではない。と言いつつも、やはり救えるものならば救ってやりたいと思っていた様だ。
しかし、主神の住まう天の国に到る程の神の代行者とも言える適任者が見付からず、ただ見守る事しか出来ない歯痒い時をひたすらに耐えていたそんな折。
マリーが現れた。
まだまだ幼ない少女だが、主神の住まうその場所に到る事の出来た資格と、事を為し遂げる資質を秘めた適任者として主神自らによって選ばれたのだった。
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こうして、主神の代行者として再び現世に戻る事になったマリーは主神より与えられた使命への重圧感とこれから始まる夢にまで見た世界への期待を胸に秘め、気持ち良さげに目を閉じて馬車の揺れに再び身を委ねているのであった。
そんな時、不意に耳障りの良い声がマリーを呼ぶ。
「マリーちゃん。城門が近付いててきたよ。そろそろ起きて欲しいかな」
「えっ? ち、違います! 起きてます! いえ、起きてました!」
「そう? 気持ち良さそうに目を閉じていびきをかいていたものだからてっきり寝ているものかとばかり......」
「いびっ!? そんな事はありませんーっ! 少し考え事をしていただけですー! もう······!」
ぷんすこと頬を膨らませて怒るマリーは、こうして見れば年相応の反応なのだろう。
そんなマリーを横目に、軽く謝罪をした青年は主神から聞き及んだその少女の壮絶な生前を思い本当に良かったと笑みを溢す。
「ところで、久しぶりにこの地に戻ってきた感想等を聞いてもよろしいですか《英雄》様?」
「あ、あはは。それは仕返しのつもりかなマリーちゃん? 勘弁してよ本当に。けどそうだな······、本当に大きくなったものだよ。僕の生きた時代では考えも付かない程に栄えてくれているね」
マリーの意地悪にばつが悪そうに苦笑いを溢しつつ、在りし日を過ごした自身の故郷を懐かしみ慈しむ様に目を細める青年。
「ふふっ、はい。其も此も、きっと皆さんが命を掛けて守り抜いた結果なのでしょうね。素晴らしい事だと思います」
「うん。誰か一人でも欠けていたならば、きっとこの平和を築く事は出来なかっただろうね。それ程に目の前に映る景色は僕にとって誇らしく尊いものだよ」
「さすが英雄様です。謙遜しつつ他の皆さんも立てるなんて」
「ち、ちょっと、本当に勘弁してよ。分かった、悪かったよ。本当にごめん、だから機嫌を直してよマリーちゃん」
いよいよ困った青年を見て本当に楽しそうに笑うマリー。空の青さに映る大きく堅牢な門、今まで見たこともない景色を前に少し燥いでいる様だ。
「ふふふっ、べーだ! そう簡単には許してあげませんよーだ。許して欲しいなら王都で美味しい食べ物を買って下さい。じゃないと許しませーん」
ぺろりと小さく舌を出しいたずらっ子の様に笑うマリー。そして、急かす様に青年に熱い視線を送る。
「覚悟しておいて下さいね! さぁ、行きましょう! 《勇者リード・カレンス》様!」
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