#69 ある名もない旅人達の物語7
「······あ。《死神》様、ですか?」
「正解。正直、私も本物を見るまでは眉唾物だと思って全く信じてはいなかった訳だけど。······まぁ、本人を見せられちゃあ信じる他ないわよねぇ」
「ええ。私も正直、伝説や伝承にのみ存在する御方かと思っておりました。長生きはしてみるものですね。今更になってこの世界の一端に触れる事になろうとは」
「ま、その伝説や伝承によると、生前悪事や悪行に身を染めた救いようのない馬鹿者達が死んだ後、《死神》様が統治する死の国でその生前の行いを悔い改めさせるって話な訳。きっとマリーちゃんも聞いた事あるでしょ?」
「あ、はい。確かに書物で読んだ覚えがありますけど」
「じゃ、その通りなんでしょきっと。だって、現に本人がああして存在してる訳だし、きっと死の国ってのも存在してるんでしょうね。······ってな訳で、マリーちゃんがこいつらを救う必要はありませーん」
「それに、それ相応の危険も伴います。如何に私達が居ようとも、万が一にもマリーさんに危害が及ばないという保証は何処にもありはしないのです。なので、この場合はさっさと殺して《死神》様に判断を委ねるのが賢明かと」
二人の話を聞いて尚、マリーはやはり何処か不満がある様でうんうんと唸り自身の考えをその心の中で整理し始める。
すると、捕縛して馬車に繋がれた野党がぽかんとした顔で話し掛けてきた。
「な、なぁ。あんたら、さっきから本気で言ってんのか? 《死神》ぃ? あんたら、本当にそいつに会ったって言ってんのかよ?」
「ん? 何よ、文句あんの? 言っておくけど、私達だって会うまで信じてなかったからね? けど仕方ないじゃない、会っちゃったんだから」
「そうですね。いえ、確かに神という存在は昔から存在している事は存じていましたが、それは極近しいあの神のみかと思っていましたので。もしや、全ての柱の神々は、実は人知れずこの世に存在している可能性も」
「はいはい、メルも考え込まない様にね。考えても分からない事だらけなんだから」
「ち、ちょっ!? 本気で、本気で言ってんのかよ!? ······だっはははは! 会った、会っただって!? 《死神》に会ったってか! こりゃあ傑作だ、だっははは!」
突然笑いだした野党に明らかに不機嫌になるリエメルとエミリー。そして、エミリーは無言でリエメルへと視線で合図を送り、リエメルは小さく頷き返す。
すると、笑いながらふらふらと歩く野党の足元から土の腕が一本伸びて、その拳を野党の腹へと食い込ませる。瞬間、蛙の潰れた様な声を肺に溜まった空気と共に吐き出した野党は、その場に崩れ落ち馬車にそのままずるずると引き摺られるはめになった。
「別にあんたの意見なんか求めてないわよ。無駄に調子に乗ると、あんたの身体の中身を全て破壊するわよ? ぐちゃぐちゃにしてあげるから遠慮しないで言って頂戴ね?」
「······う、げはっ! ちょ、容赦、ねぇ」
「当然です。貴方が未だ生きているのは、全てこのマリーさんのお陰だという事をお忘れなく。私達は今直ぐにでも貴方を殺して、その辺に転がしておいても何ら心は痛まないのですがね。もしも貴方が死の国に召された時、《死神》様に直接聞いてご覧なさい。《マリー》という御使いを御存知か、と。それで全ては解決します」
「酷ぇ、何だってお前等はそんなに殺す事に馴れてんだよ。······ま、まさか、お前等実は《賞金稼ぎ》か《暗殺者》か何かなのか!?」
「そんな面倒な事する訳ないでしょ。ま、死にたいならいつでも言いなさい? 撲殺して、あ、げ、る」
「わ、分かった! 悪かったよ!?」
「それよりも、あんたはしっかり《塒》に案内しなさいよね。嘘ついたら分かってるわね?」
小さく悲鳴を上げてその身を震わせる野党に冷酷な視線を浴びせるエミリーとリエメル。その瞳は確実に命を刈り取る殺意を含み、野党に拒否権を一切与えぬ雰囲気を醸し出していた。
そうして、野党は一人震えながら心中で思いを巡らせる。こんな悪魔みたいな女達から、あの天使の様に心優しい少女が産まれる訳がない、と。
しかし、それを決して口に出してはならないという事は、無言のままにしっかりと理解していたのであった。
◆◇◆◇◆
「よぅ、ここからは馬車じゃあ行けねぇぜ。歩いて行くしかねぇけど、どうするよ?」
「勿論行きますっ! 拐われた皆さんを助けなければ!」
「じゃあ馬車を人目の付かない場合に隠そうか。あ、メル、あの認識阻害魔法頼めるかな?」
「仕方ありませんね。これもマリーさんの為······いえ、我が愛し子の為とあらばどうと言う事は」
「何しれっと嘘ついてんのよ。厚かましいわね本当に」
「貴女に言われたくはありませんが? 何を未ださらっと母親面をしているのですか?」
「あーはいはい、頼んだよメル。じゃ、行こうかマリーちゃん。足元気を付けてね? それと、一応君も妙な真似をしない様にね」
「しねぇよ、お前らみたいな恐ろしい奴ら相手にやるものかよ。······まぁ何だ、あんたにゃ少し同情するぜ? よく一緒に居られるもんだ」
「心遣い感謝するよ。けどね、あれで意外と可愛い部分もあるんだよ。君も違う出会い方をしていたら、もしかしたら見られたのかもね?」
リードがマリーの手を引いて先行する野党と会話をしている頃、後ろの二人は未だ喧しく口喧嘩を繰り広げていた。
軈て不毛な争いを止めて合流した二人は、今度は空いているマリーのもう片方の手を賭けて再び争いを始めるのだが、それをリードは軽く手を上げて制する。
先行していた野党を縛る綱を強く引き絞め、無言のままに立ち止まる様に促す。
「おいおい、何だってんだよ? まだ少し距離があるぜ?」
「ああ、分かってる。ひょっとして、あの煙が上がっている場所なんじゃないかと思ってね」
「ん? んんん······? うおっ、おいおい本当だっ! 何だって煙が上がってんだよっ!? 確かにあの辺りだ! っかー、今日は本当に厄日だぜっ」
「今までの行いを棚に上げて良く言うわね本当に。寧ろ自業自得でしょうに」
「あの場所には拐われた人達が捕らえられているらしいし、少し急ごうか。メルは周囲に警戒を。エミリーは先行して様子見を頼めないかな?」
「仕方ないわね。もし危険があれば独断で行動するわよ?」
「構わない。頼んだよエミリー」
「じゃ、行きますかねっと。マリーちゃん、気を付けてゆっくり来てね? お母さんに任せときなさいっ!」
「あ、ええっと······、お願いし」
「戯言をほざいてないでさっさと行きなさい。精々、先にマリーさんの障害を取り除いておきなさい」
エミリーはリエメルの憎まれ口など何処吹く風とばかりに盛大にマリーへと大手を振り、一人森の奥へと走り去る。
その背を見送るマリーは、何処か言い知れぬ不安を抱くが直ぐにその気持ちを振り払うかの如く頭を振る。
そして、エミリーを除く一行は盗賊達の《塒》へと警戒をしながらゆっくりと歩を進めて行くのであった······。
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