表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/99

#59 ある全てを捧げた魔法師の物語16


※pv1000hit.ua340hitありがとうございます。これからも地道に投稿を続けて行きますので、応援とお付き合いの程をお願い致します。では、休日の追加投稿をお楽しみ下さい。






◆◇◆◇◆





 《貿易都市ラングラン》を覆っていた底無しの闇は、突然天へと立ち昇る炎の柱によって上空の一部に大穴を空けた。

 そして続く爆風により、街の至る物を巻き込みはしたが見事に闇を払ってみせた。


 その光景を最初に見たのは誰だったのか。自らの住居の屋根を吹き飛ばされた富裕層の住居か、将又(はたまた)路地裏で小さく震え蹲る貧困層の住居か。


 この世の終わりの様な光景を見せられ続け、住み慣れたその変わり果てた街を我先にと薄暗い大地へと駆けてゆく。

 如何に夜の帳が降りたその大地が危険だと知っていても、この変わり果てた場所よりは生き永らえる事が出来るだろうという打算的な考えで逃げ惑う。


 その中に於いても尚、その変わり果てた街に残る者達が少数ながら確かに存在した。怪我をして動けない者にはその手を差し伸べ、震える身体を支えて共に寄り添う者達が確かに存在していた。

 その者達は少数であろうと等しく《貿易都市ラングラン》に深い情を持っており、かの《最後の良心》と謳われる《ガルガン・モーガン》に感銘を受けた者達だった。瓦礫の下敷きになった者達を協力して助け出し、怪我人達を手当てする様は他の生き残った者達の心を大きく揺さぶった。


 その光景を嘲笑い、更には罵り走り去る輩達は我先にと街の外へと薄暗い闇に紛れて消えてゆく。その後に待ち受ける闇の住人達による更なる地獄を知らぬままに。


 未だ戦闘による様々な爆発音が鳴り響くこの《貿易都市ラングラン》。それはまるで、汚れ果てたこの街を天よりの使者達が粛清しているかの様に感じ、未だ残る住人達の胸に深く突き刺さる。そして、自身達が犯した過ちを悔いて闇を照らす閃光と爆音の発生源へと懺悔する。


 せめて、最後だけは清く在ろうと······。





◆◇◆◇◆





「おおおおおおおっ!」


「ヒハハハハハ! 楽しいなぁ、楽しいなぁおい! その調子だ、どんどん来いやぁ!」


「この変態野郎っ! それ以上言葉を発するなっ! 本気で腹立つわっ、さっさと死ねっ!」


「ヒハハ、口が悪ぃのは昔のままかい! 折角の美人が台無しだ、よく言われねぇかい?」


「生憎、僕の妻はそれでいいんだよ。君には理解も賛同も求めはしないっ!」


「つれねぇなぁ、ヒハハハハハ!」



 その身に纏う闇を様々な形状に変化させ、斬り、突き、叩き、吹き飛ばす。焼け爛れ朽ち果てる肉体を物ともせずに縦横無尽に駆け跳ね廻る《魔王》と名乗る者。


 それを追撃するのは、美しい光の軌跡を引く剣で斬り払うリード。炎を纏い爆発と熱量を以て跳ね除けるエミリー。様々な属性の魔法を駆使して援護するリエメル。


 それぞれ一撃でも受けたならば、確実に命に届く程の三人の凄まじい猛攻を嬉々として真正面から受けて立つその様は、まるで無邪気に遊ぶ子供の如くその状況を心から楽しみ全身から悦びを醸し出していた。

 砂塵を巻き上げ破壊を振り撒くその絶対の暴力の塊の様な闇を操る嘗てのクレイグ・ノーツの身体は、光に斬られ、炎に焼かれ、凡そ全ての属性の魔法を浴びても尚、その顔に狂気の笑みを貼り付ける。



「いいねぇ、楽し過ぎてどうにかなっちまいそうだ。流石は一度世界を救っただけはある。そんなお前等にご褒美だ、少しだけ俺様の力ってもんを見せてやろうかね。······備えろよ、簡単にくたばるなよ?」



 今までの剣呑な雰囲気を一辺させ、その身に纏う気配がより一層の狂気を孕む。

 未だ笑みを崩さぬままに、その口は破滅の言葉を紡ぎ出す。



「闇よ······踊れ、歌え、跳ね廻れ。全てを貪り喰らい尽くせ」


「っ、不味いっ、エミリー‼」


「分かってる! やらせるかってーの!」


「マリーさん、フェイエルさん、備えて下さい! 《詠う者共》よ、合わせなさいっ!」



 全身が粟立つ程の悪寒に面々はそれぞれ弾ける様に動き出す。リードは全力を以てその根本の闇を絶ち斬りに掛かるが、周囲に充満するより一層深い闇が行く手を遮る。エミリーはその渾身の拳を炎と共に突き出すも、出来た一筋の道も直ぐ様闇により閉ざされてしまう。


 リエメルはマリーを守る事を最優先として防御の障壁に全力を注ぐも、未だに拭えぬ不快な感覚は消え去る事は無かった。そして、その闇は嘗てない歓喜の叫びを上げる。



「ヒハハハハハ! 遅ぇ遅ぇ、そぅら行くぞ、くたばるんじゃねぇぞ! ······刮目せよ! 闇よ、来たりて全てを虚無と成せ!」


「いけないっ、エミリーっ!? 光よっ、我が身に纏えっ!」


「くうっ、まずっ!?」


「急ぎなさいリードっ! ······っ展開せよ、絶対なる防壁よっ‼」



 リードがエミリーの身体を強引に担ぎ上げ、リエメルの展開する防壁へと滑り込む。間一髪で転げ込んだ先で見えたのは、《魔王》と名乗る者の身体から一斉に雪崩れ出る闇。

 その闇は地中から無数に這い出る骸の集合体であった。それらは(ひし)めき這いずり迫り寄り、歓喜と狂喜の雄叫びを上げて次々とその防壁へとぶち当たる。その万は居ようかという大質量に加えて闇を纏っている骸達は、徐々に確かに防壁を喰い破り耳障りな奇声を発して一行へと迫る。


 自身の杖に数百年単位で溜め込んできた魔力を惜し気も無く注ぐリエメル。しかし、闇の進行を食い止めるだけで完全に防ぐには至らない。それでも決して抜かれまいと歯を食い縛るその背には、どうしても守りたい者達が居るのだ。一度は現世に別れを告げ旅立った嘗ての親友達。そして、恐らくはこの後の世界の数多くの者達に救済を与えるであろう小さな光。その光を決して絶やしてはいけない。ただその一心でひたすらに耐えてはいるのだが······。


 全方位から大質量に押し潰され、徐々にその範囲を狭めてゆく防壁。取り囲むは闇を纏う骸の波。それは、まるであの《魔王》と名乗る者が嬉々として歓喜を上げていた時の様に、歪な奇声を発して迫る。


 マリーはその光景を前に思わず身が竦んでしまう。身体は再び震え、迫り来る《闇》に心底恐怖の念を抱く。そして、震える身体を抱き締めて目を背ける様に小さく縮こまる。

 しかし、その身体を優しく包む温もりにふと顔を上げれば、そこには優しく微笑むリードとエミリーがいた。



「······大丈夫。言っただろう、絶対に守るってさ。僕らは既に死んだ身だ、何も恐れる物はないからね。僕が全力を注げばあの程度の量」


「馬鹿。私もいるのよ、少しは頼りなさい。リードは一言私に言えば良いのよ、俺に着いて来いってね」


「エミリー······うん、行こう。僕らが守ろう、守り抜いて見せよう。例えこの身体を構成している神の力に触れようとも、僕らが守ってみせようか」


「そうね。本当に少しだったけど、リードとこうして一緒に居られて良かったわ。それに、癪だけどメルともね。メルはまだ生きてるんだから、私達が身体張らなきゃね」


 深く頷き合う二人を見て、その顔に覚悟と決心を見たマリー。二人がこれから行うであろう事が何となく分かってしまいその手を強く握り締める。

 その時、周囲の防壁に僅かに亀裂が走り始めた。ぴしり、ぴしりと徐々に広がる亀裂は徐々に広がり大きくなる。



「何を······しようと言うのですか、お二人共。何処にも、行かないで下さいっ! 駄目、駄目ですよ! 行っちゃ駄目っ!」


「マリーちゃん、大丈夫よ。私達は戻るだけ、元々居た場所にね」


「うん。ごめんマリーちゃん、余り役に立てなかったね。後はメルに任せて僕らは逝くとするよ。メルはまだ生きいてる、ここでその身を張るのは僕らの仕事だ。ありがとうマリーちゃん、僕を再びこの地に招いてくれて。君の旅が光に満ちている事を願うよ。······メル、ごめん。マリーちゃんを頼んだよ!」


「嫌です、駄目っ! 止めて······止めてぇーっ‼」



 リエメルが驚愕の表情を浮かべ振り向くと同時、防壁には大きく亀裂が走り、やがて激しい音を立てて崩壊した······。 







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ