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#51 ある全てを捧げた魔法師の物語8





「メル、街の中は既に《闇》により浸食されている。君の思っている以上に危険な状態だ、その中を《光》も無く行くのは自殺行為だよ。それに、君はまだ生きている。僕らとは違う、そうだろう? 君はマリーちゃんを守り生きるんだ。代わりに僕が連れて行く」


「勝手な事を。残される者の痛みが貴方には分かるのですか? 友人達が次々と逝ってしまい、取り残される者の痛みが分かると言うのですか?」


「ああ、分かるさ。あの時、僕らを生かす為に一体どれ程の人達が先に逝ったんだい? どれ程の命の上に僕らは立っているんだい? 僕は決して忘れはしない。それは僕が死んだ後でも、だ。だから、まだ生きている君は絶対に行かせない。これだけは譲らないよ」



 リードとリエメルはマリーを挟み睨み合いを始める。お互いに譲れないものがあるらしく、火花を散らす二人をマリーはどうにか宥めようと奮起する。



「ま、待って下さい! お二人共落ち着いて下さい! 先ずは話を」



『マリーちゃん(さん)は黙っていて(下さい)』



「あ······はい。すみません、でした」



 が、直ぐに挫折する。


 兎に角どうにかしなければ、二人はこのまま外で決着を着け兼ねない。そんな険悪な雰囲気を全面に漂わせ睨み合う。



「メル、時間がないんだ。引いてくれないかな? 君に危険な事をさせる訳にはいかないんだ。だから僕が行く。君はマリーちゃ」


「ふざけないで下さい、いつから貴方は私を心配出来る程になったのですか? 少し世界から勇者だのと持て囃されて調子に乗っているのですか? 良いでしょう、今一度力の差をはっきりと叩き込む必要がありますね。表に出なさい、街ごと吹き飛ばしてあげます」


「ええっ、リ、リエメルさんっ!? 話がおかしな方向に向いていますよっ! リードさんと街の人達と私達をどうする気ですかっ!?」


「面白いね。いいよ、やろうか。いつまでも師匠気取りでいて貰っては困るな。僕だって、生前からずっと積み重ねてきたものがあるんだ、負ける気はしないね。勿論、何でもありだろうね? 本当に何でもやるから覚悟しておけよ?」


「ちょ、リードさんも乗らないで下さいよ!? おけよって、お二人が戦うと本当に街が崩壊し兼ねませんからっ! 本当に落ち着いて下さいってばっ!?」



 リードとリエメルに板挟みにされ、一触即発の空気にわたわたと慌てるマリー。必死に二人を止めようと健闘するも、今の二人には声すら届いていない。

 誰でもいいからこの二人を止めてくれ。と、心中で叫びもみくちゃにされるマリー。そんな三人を見詰め申し訳無さそうに縮こまるフェイエル少年。


 いよいよ収集が着かなくなった状況に、またもやマリーが反応する。



「ちょっ、と······え? なん、呼べ? 呼べば······分かりました、お願いします!」



 マリーは未だに二人に挟まれたままに、呼ばれた声に応える為に言葉を紡ぐ。



「主神様の許可の元、私マリーが閲覧を申請します! 《名も無き英霊の書》よ、応えて下さい!」



 突如マリーの背後に現れた、神々しく眩い輝きを放ち鎮座する巨大な本に一同は全ての行動を止め呆気に取られる。

 そして、自らマリーに呼び掛け、半ば無理矢理に出て来ようとする人物の名を紡ぐ。



「お二人を止めて下さい、お願いします! 《エミリー・レドレイン》さん······いえ、《エミリー・カレンス》さんっ!?」



『······え?』



「こんのっ、アホ共ーっ‼」



『いだいっ!?』



「何をだらだらと揉めてんのよっ! 見てらんないってのよ、本っ当にっ!」



 巨大な本が眩い光を放つと同時に飛び出す様に現れた女性は、降り立つ勢いそのままにリードとリエメルの脳天へと拳を降り下ろした。

 マリーが紡いだ名を聞いて、硬直していた為に逃げられず《エミリー・カレンス》と呼ばれた女性の拳は、鈍い音を部屋中に響かせ見事に二人を床へと沈めてみせた。


 紅く艶のある髪を横に纏め、万人が振り返るであろう整った顔立ちを一際際立たせる燃える様な情熱を籠めた瞳。

 ふんっ。と、勇ましくも控え目な胸の前で腕を組み、未だ踞る二人を見下ろし《エミリー・カレンス》は言い放つ。



「何をしてんのよ何をっ! あんた達がしっかりしないでどうするのよ! この子達が困ってるでしょうがっ‼」


「ちょ、っなんで、エミリー、が?」


「······ぃたぃ」


「あんた達が余りに不甲斐ないからあの本から出て来たのよっ! この馬鹿リード、あんたは死んでも馬鹿なままなの? ならもう一回死んでみる?」


 小さく悲鳴を上げ弁解を始めるリードを見下ろし、自身の指を小気味良く鳴らす美しい女性。この女性こそ、生前《紅蓮の拳聖》や《美笑の炎姫》と呼ばれ、数々の偉業を成し遂げ世界を救った英雄にして初代《カレンス王国第一王妃》《エミリー・カレンス》その人であった。


 突然神々しい本から現れた女性にフェイエルは目を丸くし、マリーは余りの突然の出来事に唖然とする。確かに、この状況を止めてはくれたのだが······。



「馬鹿リード、そこに正座! それとメル、あんたもよ! 一体何をしてんのよ二人も揃って! 子供の前で恥ずかしくないの、二人共っ!?」


「ち、違うんだエミリー。先ずは話を」


「黙ってろ」


「······はい」


「全く、何が勇者よ。そんなに不甲斐ない勇者が何処にいるってのよ! それにそこの《大賢者》名乗ってる《破壊神》! あんた何年生きてんのよ!? そんな長生きしといて何て器の小さい! 恥を知りなさい恥を!」



 物凄くご立腹だった。


 二人を床に強引に座らせ、捲し立てる様は正に烈火の如く。生前の《炎姫》の名を正しく体現しているといっても過言ではないだろう。証拠に、怒鳴る《エミリー》の身体からはちらちらと火の粉が舞い踊っている。


 流石にこのままでは話も出来ないと、マリーは床に仲良く居座る二人に助け船を出す事を決心する。



「あ、あのーすいません。《エミリー・カレンス》様、ですよね? お手数をお掛けしました。そろそろ許して差し上げても」


「マリーちゃん、二人の代わりに私から謝罪するわ。本当にごめんなさいね。この馬鹿二人のせいで散々な思いをさせてしまったわね······けどもう大丈夫! 私がしっかり二人の手綱を握ってあげるから安心してね」


「何を勝手な事を······! 大体、貴女一体どうやってあの神聖な書物から!」


「はぁ? マリーちゃんに頼んでに決まってるじゃないの。仕方ないでしょ、マリーちゃんに助けてって呼ばれたんだから。二人をどうにか出来る人来てくれってさ。あの《青馬鹿》がしゃしゃり出ようとしてたから、蹴り飛ばして私が来たのよ。文句ある?」



 最早目の前でおこる事象を受け止めきれず、フェイエル少年は思考を止める。そして、こうしている間にも動いているであろう兄を思い、その身を案じ強く確かな決意を胸に灯すのであった······。







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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