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#46 ある全てを捧げた魔法師の物語3





「少しは落ち着きましたか?」


「······はい。すいません、私が至らぬばかりに今回もご迷惑を」


「いいのです、ゆっくり考えてみて下さい。答えは一つではありませんので、マリーさん自身の答えを見付けて下さい。その時は、私にもその答えをお聞かせ下さいね? いつまでもお待ちしておりますので」


「う、頑張って考えてみます。······あぁ、リードさんが帰ってきたら謝らないと。きっと心配をさせてしまいましたよね」



 ベッドに腰かけ申し訳なさそうにマリーは俯く。しかし、リエメルは肩を小さく竦めて小さな溜め息を落とす。



「前から思ってはいましたが、マリーさんは些か周囲を気にし過ぎな嫌いがありますね。恐らくは生前の事が原因かとは思いますが、もっと自由でいいのですよマリーさん。周囲を気にするのは確かに大切ですが、やり過ぎると自身を無くしてしまいますよ? ······いつかの愚かな誰かの様に」


「え? 最後何て」


「いいえ、何でも。それに、リードちゃんなら気にせずとも大丈夫です。あの子は昔から考え過ぎる悪い癖がありますから。それに、ああ見えてリードちゃんは強いんですよ? 戦闘面は勿論、心が強いんです。なので、少し困らせる位が丁度いいんですよあの子は」



 満面の笑みを浮かべ今は居ないリードを思うリエメル。今頃リードは周囲をきょろきょろと見渡している事だろう。

 そんなリエメルを見詰めてマリーは思う。きっと、この二人には言葉には出来ない繋がりや絆があるのだろう、と。



(何だかいいなぁ、二人の関係。私には友と呼べる人は生前を含めて僅かしかいませんでしたよね。皆さんは元気でしょうか······もう会うことは出来ませんけど、それでも私は)



 マリーは生前を想い目頭が熱くなるのを感じて慌てて頭を振る。そして、リードが置いていった食事を次々と平らげ自身の想いを心の奥底に沈めるのであった。





◆◇◆◇◆





「ただいま、今戻ったよ。あ、これはお土産。ケーキもあるから食後に食べようか」


「いい仕事ですリードちゃん。丁度甘味が欲しいと思っていた処です。では、私はお茶の準備を」


「食後にって言っただろう? 全く、しょうがないな本当に。ケーキと見るとすぐこれだよ」



 嬉々としてお茶の準備を始めるリエメルを眺めリードは溜め息を漏らす。そして、少し気まずげにちらりとマリーを見る。



「あー······その、マリーちゃん」


「リードさん。私の為に気を使わせた様ですね、すいませんでした。しかし、もう大丈夫です。あれは前回同様、私の至らなさ故の我が儘です。なので、余り私に過保護になり過ぎないで下さいね」


「え、あ、うん。そっか、ごめん分かったよ。けどさ、無理をして受け入れなくてもいいんだよ? 君はまだまだ世界を知らないんだから。色々なものを見て、聞いて、そこから決めたらいいよ。マリーちゃんなりの考えをさ」


「はい、私なりの答えを探してみようと思います。ですから、いつかその考えを聞いてくれますか、リードさん?」


 勿論。と、力強く頷き返すリードの顔はとても晴れやかで何処かほっとしている様にも見えた。

 やがて、リエメルがティーセットを持って現れ手際よく準備を進めてゆく。



「マリーさんが描く未来図とは、一体どの様なものなのでしょうね? 今からとても楽しみです」


「うん、きっと僕らとは違った未来なのだろうね。それまでしっかりと僕らが支えてあげないとね」


「うぅ、そんな事を言われると余計に考え難くなりますよ。止めて下さい」


「あら、すいません。しかし、それほど期待をしていると言う事ですよ。ゆっくりでいので、しっかりと考えてみて下さいね。······して、リードちゃんの方は何か収穫はありましたか?」



 リエメルはティーカップを傾け、ケーキを口に運ぶリードをちらりと見やる。すると、リードは視線を少し反らし言い辛そうに語りだす。



「······うん、色々と聞いてきたよ。どうやら、僕の想像以上に治安が悪化しているらしい。この街は正に弱肉強食のそれだね。但し、ここで言う強者は戦闘能力ではなく《金》だ。金さえあれば何でも(まか)り通ってしまう様な、そんな街へと成り下がってしまったらしい」


「それが人間の本質というものです。短い一生を如何に自身の都合の良い様に過ごすか。そんな下らない考えに陥り、それを具現化してしまったのがこの街です。貴方が気に病む事はありません、リードちゃん」


「そうだけどさ、あの頃の代表者達がこの有り様を見たらと考えると······辛いよね。何故こうなってしまったんだろうね」


「言いましたよ、リードちゃん。貴方が気に病む事ではありませんと。それは此処に生きた者達が築きあげてきた結果です。例え悪事を知っていても知らなくても、どちらにせよそれを正す事も出来ず今に至った。その結果なのです」


「······うん。僕は既にいない筈の存在だ、その僕が口を挟む事ではない。······筈なんだけど、納得は出来ないよねやっぱり。んんーっ、まぁ一先ずは置いておこうか」



 それよりも、と前置きをしてリードは神妙な面持で一度咳払いを済ませる。



「この《貿易都市ラングラン》を震撼させている《一つの事件》が起こっているらしい」


「《一つの事件》、ですか?」


「うん。今やこの街は誰かが無意味に殺され、死んだとしても騒がない程の治安の悪さだ。けど、この《事件》だけは違う。何せ被害者が多すぎる。そして、この街を取り仕切る人物の一人までもが犠牲になっているらしい」


「突発的な異常者の類ですか?」


「それすらも分からないみたいなんだ。何せ、犯人は《一度も誰にも目撃されてはいない》らしい。しかも、血痕等の痕跡は残していても肝心の《死体》が残っていないらしい」


「それは······一体どうやって? そんな事が可能なのですか?」


「可能か不可能かで言えば可能です。死体を消す方法は幾つか考えられますが、それらを行うには必要不可欠な要素があります」


「うん。それが大前提だ。間違いなく犯人は《魔法師》だろうね。それも、かなりの手練れだ。余りにも危険過ぎる相手だよ」



 リードはいつにも増して真剣に説明する。それだけで、その素性の一切分からぬ《犯人》が如何に危険な相手かという事が伝わりマリーはその背を冷たくする。同時に、言い様のない不安が胸を締め付けるのであった······。







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 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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