#45 ある全てを捧げた魔法師の物語2
※非常に中途半端な時間の休日更新です。尚、この後の更新より通常更新へと戻ります。
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「マリーちゃん、屋台で美味しそうな食べ物を沢山買ってきたよ。皆で食べようよ」
「······すいません、食欲が沸きません。後で食べますので置いておいて下さい」
「······うん、分かったよ。出来れば冷めない内に食べてね」
ありがとうございます。と、小さく呟きシーツに包まるマリーを見てリードは胸が痛んだ。そして、真実を話した事を酷く後悔していた。
あの後、一行はそこそこいい宿を見付けて部屋を借り、馬車で泣き疲れたマリーは部屋に入るなり無言のままベッドに潜ってしまった。
リードは一先ずリエメルにマリーの護衛を任せ、単身食事を買いに露店が処狭しと並ぶ大通りへと出掛け手軽に食べられるものを中心に色々と買い込んできたのだった。しかし、やはりマリーは変わらず籠りきりで、リエメルに視線を送るも頭を横に静かに振るのだった。
リエメルは変わらずマリーに付き添い、何をするでもなくただ静かにベッドに腰掛け顔を出さないマリーを見詰めている。
そのリエメルが視線をリードへと向け静かに口を開く。
「リードちゃん。暫くこの街に滞在する事を考慮して動いて下さい。情報収集とその他の必要な備品類等全てお任せします。私はこのままマリーさんと共に居ますので。もしもお金が足りなければ私が出します。幾らでも使いなさい」
「うん······分かったよ。けど大丈夫、金は僕も生前隠していた場所から持って来てるから十分だよ。それじゃマリーちゃんを頼むね、僕は少し街を見て回ってくるよ。色々と様変わりし過ぎていて何処に何があるのか全く分からないからね。食事はここに置いて置くよ」
「ありがとうございます、リードちゃんもくれぐれも気を付ける様に。この街は既に魔窟と化しています、何処に何が潜んでいるかまるで分かりません。余計な騒ぎを起こさぬ様に」
「うん、少し回っただけでも異質な独特の雰囲気を感じたよ。此処は既に僕の知る《貿易都市ラングラン》ではないみたいだね。そこかしこから嫌な視線を感じたよ」
「それほどの場所に成ってしまったのです。常に警戒を、もしリードちゃんの身に何かが起きても直ぐに感知出来るのでご心配なく」
それはそれで心配だよ。と、言葉を残しリードは再び街へと繰り出す。今度は周囲を観察する様に、しかし自然と街に馴染む様に振る舞いながら人混みへとその姿を消していった。
一方、リードが退室した後の宿屋の部屋にて暫くするとシーツの塊と化していたマリーがもぞもぞと動き出す。そして、頭だけをひょっこりと出して申し訳なさそうにリエメルを見る。
リエメルは微笑み何をするでもなくマリーを優しく見守っていると、そわそわと視線を游がせおずおずと口を開く。
「あの、リエメルさん······ごめんなさい。まだ気持ちの整理がついていなくて、上手く話せるか分かりませんが聞いて貰えますか?」
「勿論です、マリーさんの思う通りに言葉にして下さい。その全てを受け止めてしっかりと聞きますので」
「ありがとうございます。······私は商家の生まれなのはお話ししましたよね? きっと世の中から見たら裕福な家だったと思います。生前は邸は愚か、自身の部屋からも自由に出られない身の上だったとしても、私はとても恵まれていたと思います」
「はい、生活面や家庭環境から見たらそうでしょうね」
「そんな私が、世間を知らない私が考えている《普通》の考えはこの世界の《普通》ではないのではないか? と、考えていました」
「······難しい言葉ですよね。《普通》と言う言葉は何を以て《普通》なのか。その定義が曖昧で、常識的に考えて《普通》だと言えばその常識的とは何か? という事に繋がり世間一般的に《普通》だと言えば、ならばその世間一般的とは何か? と、この様に堂々巡りになってしまいます」
「······はい。私の思う常識的ははたして世間一般的に本当に常識なのか。私の思う世間一般的にとははたして万人に対しての世間一般的なのか。それが分からなくて」
「成る程、つまりは自分の考えが正しいのかが分からなくなった。と、いう事ですかね?」
「はい、正にその通りです。頭の中がぐちゃぐちゃでよく分からなくなって」
「いいじゃないですか、周囲の事など考えなくても」
え、と小さく声を漏らしきょとんとするマリーは、瞬きを数度繰り返しリエメルの言葉の意味を考える。
そんなマリーの横へと腰を下ろしリエメルはゆっくりと語りだす。
「いいんですよ、周囲の事など。一番大切な事はマリーさんがどう考えているか、それが重要なのです。《普通》という言葉の枠組みに嵌まらない、マリーさん自身の本当の気持ちが一番大切だと私は思います」
「私の、気持ち······ですか? そんな事をしてしまえば、私の我が儘になってしまうのでは?」
「その通りです。しかし、自身の考えを貫くとは突き詰めていけば結局は我が儘なのです。自身がやりたい事をやる。自身の考えを押し通す。それらは全て我が儘です。いいじゃないですかそれで。自身の曲がらぬ考えを持つという事はそういう事なのです。しかし、周囲を巻き込み省みぬ行いをしてまで我を通すという事には必ず責任が伴います」
「責任······」
「そう、責任です。その責任を放棄した時点でそれは我を通す事でも、我が儘ですらも無くなる、ただの自己満足に成り下がります。それは、例え自身が許しても周囲は決して許しはしない。必ずそれ相応の報いを受ける事になるでしょう。そして、先程の話に繋がります。マリーさん、貴女は貴女の思う正義というものをしっかりと考えるべきです。貴女の持つ大いなる力はきっと多くの事を可能にするでしょう。しかし、その全ての事象には必ず責任が付きまとうという事を忘れてはいけません」
「私は、私はただ······」
「いいのです、ゆっくりでいいのです。しかし、しっかりと考えてみて下さい。例えば、今までマリーさんが成した事象を後悔していますか?」
「······いいえ、後悔はしていません」
「ええ、それでいいのです。しかし、この先もしかしたら後悔する事が起こるかも知れません。その時それすらも受け止められる貴女になって下さい。沢山悩んで沢山考えて下さい。その先にこそ真にマリーさんが貫くべき答えがあります。ゆっくり考えてみて下さい」
「今まで、そんな事を考えた事がありませんでした。ただ漠然と助けたい、救いたいと思っていただけでした。しかし、それらは全て確かに主神様の願いではありますが、私の意思でもある訳で······あぁっ、難しくてよく分かりませんっ!」
「ゆっくりでいいのですよ。そうだ、お腹空きませんか? 折角なのでリードちゃんが買ってきたものでも食べながら考えませんか?」
頂きます。と、小さく呟くマリーを見て、優しく微笑みを返し頭を撫でるリエメル。マリーはうんうんと唸り考えながらもサンドウィッチを小さな口へと運ぶのであった······。
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