#39 ある優しい妖精の物語2
「で、何故私を起こしたのですか? ······ん? あ、いえ。何故私達の元を訪れたのですか?」
「さっきから何度も言ってるでしょ!? 大変なの、助けて欲しいのよ!」
「その内容を話せと行っているのです羽虫。マリーさんの眠りを妨げ、尚且御手まで煩わせるんじゃありませんよこの羽虫」
「ムキーっ! 羽虫羽虫五月蝿いのよ、この耳長美人エルフっ‼」
「それは悪口······、なのですかね?」
マリーは喧しく騒ぎ立てる妖精を不思議そうに目で追いながら呟く。未だに眠たそうにうとうとと瞼が落ちてくるのを必死で堪えている様だ。
「どうでもいいから早く話しなさい羽虫。マリーさんが眠たそうに船を漕いでいます。さっさと話してさっさと消え去りなさい」
「くーっ、ムカつく! けど仕方ないわ。この村には私の声を聞けるのは貴女達しかいないんだし」
「······すぅ、すぅ」
「はっ!? 寝ないでよ、起きて!」
「······はっ。寝てませんよ? 寝てませんから」
「ダメね、早くしなきゃ! ねぇお願い、助けて頂戴! 私達の森に住んでるお爺さんが大変なの、助けてあげて!」
マリーは半分落ちてきている瞼に必死に抗いどうにか話を聞いていた。そうして、いまいち要領を得ないその内容に首を傾げる。
「お爺さん、ですか? そのお爺さんがどう大変なのですか? もっと具体的に言ってくれないと分かりませんよ」
「もう、本当に時間がないのにっ! 私の住んでる森には魔力が凄く濃い場所があるの! そこの近くにそのお爺さんが住んでるんだけど······、とても苦しんでいるのよ。どうかお爺さんを助けてあげて、あの場所から離してあげてっ!」
「魔力が濃い······? そのお爺さんは一体何の為にその《魔力溜まり》の近くに居を構えているのですかね。何か理由があるのですか?」
「知らないわよ! ずっとあの魔力の濃い場所で魔物を狩り続けているのよ。いつの間にかあの場合に住み着いてて······、でも私達には優しいの。だから助けてあげて欲しいのよ! お願い、助けてあげて」
その時、部屋のドアが軽くノックされる。リードの声が聞こえ、マリーとリエメルは寝着の上から上着を羽織り入室を促す。
「お邪魔するよ。隣の僕の部屋まで聞こえる騒がしさだったからつい、ね。で、その小さなお客さんは?」
「貴方も私の声が聞こえているの!? 何て幸運なの、お願い助けて欲しいのよっ!」
「うーん、内容がいまいち分からないけど僕が決める事ではないかな。そこにいる金髪の可愛らしい女の子に聞いてごらんよ。僕らのリーダーは彼女だ」
「ええと、実はですね······」
マリーは先程妖精が話していた事をリードへと伝える。すると、リードは何やら考える様な仕草をし、ゆっくりと口を開く。
「それはきっと、元々この村に住んでいた人だと思うな。実は、マリーちゃんがダウンした後に村の酒場に行っていたんだ。その時にそういった話を聞いてね」
「そういう所は昔から抜け目ありませんねリードちゃんは。誉めてあげます。さ、頭を出しなさい、撫でてあげます」
「遠慮しとくよ。で、そのお爺さんの話だけど、酒場で聞いた話によると······昔にこの村を小規模な《魔物集団暴走》が襲ったらしい。その時はハンター達が隣町から救援にきて事なきを得たらしいけど、決して少なくない犠牲が出たらしい。そのお爺さんの家族も犠牲者みたいでさ。その後は森に籠る様になり、まるで気が振れた様に魔物を狩り続けているらしいよ」
皆が心配していたよ。と、リードは顔を俯かせて語ってくれた。いつの間にかマリーの眠たそうな瞳はしっかりと開き何かを決意したかの如く顔を上げる。
「助けましょう。確かに直接的には私達には関わりの無い話かもしれません。しかし、それでも私は助けたいです。もしかしたら、それはただのお節介かもしれません。けど放っておけません」
「うん。言うと思ってたよ。僕は大丈夫、何時でも行けるよ」
「同意します。マリーさんの成す事を私は見届けさせて頂きます。今度はどんな奇跡を見せてくれるのか、今から楽しみです」
「え、助けて······くれるの? 本当に、本当に本当っ!? やったぁ! じゃあお願い、急いで! お爺さんとても苦しんでいるの!」
「ありがとうございますお二人共。では、用意がありますのでリードさんは宿屋の前でお待ち下さい。用意が出来次第合流しますので」
分かったよ。と、リードは部屋を後にし、マリーとリエメルは服装を整えそれぞれに支度を終えて宿屋の外で合流を果たす。
そうして、灯りも点いていない静かな村を離れ、星と月の照らす夜道を急ぎ進んでゆくのだった······。
◆◇◆◇◆
「妖精さん、此処ですか?」
「うん、ここよ! ここがお爺さんの住んでる小屋! ······なんだけど、あれ?」
「人の気配がないね。中には居ないみたいだよ」
「あれ? あれ? ち、ちょっと待ってて! 中を見てくるからっ!」
妖精に導かれやって来た小屋には人の気配はなく、三人は周囲にも気を配る。しかし、静かな森には静寂が漂い物音一つもしない所か、何かが動いている気配すら感じ取れない。
「おかしい、静か過ぎる。夜行性の動物達の気配すらないね」
リードが呟いた後、リエメルは手に持つ杖を軽く地面へと一突きする。すると、魔力の波紋が周囲に広がり消えてゆく。
「······ええ。探知を掛けましたが何の反応も返ってきませんね。何かが起きたと考えるのが普通でしょうね」
「マリーちゃん、僕から離れない様にね。何か様子がおかしい」
マリーが小走りでリードの元へと走り寄ると、小屋の中から妖精が勢い良く出て来た。そして叫ぶ。
「どうしよう! いない、いないのよ! お爺さんがいないの! それに、血が! 血が沢山小屋の中に······っ」
「メル、マリーちゃんを頼む。僕が行こう。灯りを」
「リードさん、お気を付けて」
「マリーさん、何が起こるか分かりません。心構えを」
はい。と、小さく頷き周囲を警戒する。森の静寂と闇の深さが、余計にマリーの警戒心を煽るのであった······。
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