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#37 ある不器用な騎士の物語32


※これにて一章完結になります。お付き合い頂きありがとうございました。宜しければ二章公開後も読んで頂けたら幸いです。





◆◇◆◇◆





 ここは世界一安全な国と称される大陸最大にして、かの《勇者》が建国した事で有名な《カレンス王国》。その心臓部とも言える《王都カレンス》。


 その国は幾多の困難を跳ね退け幾度となく危機に晒されようとも決して折れず挫けない。それは、かつて世界を救った《勇者》の志を受け継ぐ者達が代々繋いできた不退転の騎士道に通ずる。


 故に、《カレンス王国騎士団》は如何なる困難や逆境にも決して屈しない心を持ち、日々弛まぬ努力を積み重ね鍛え抜かれた己の身体を以て仇成す全てを討ち滅ぼす剣となり国民を守護する絶対の巨壁となる。


 そんな《カレンス王国騎士団》において《英雄》と称される者達の中にまだ年若い青年がいる。その青年は《勇者》の血族であると共に、両親共に騎士という厳格な家庭に生まれ育った生粋の騎士である。

 その青年は深緑の風の鎧に身を包み、その体格からは想像も出来ない程の早さで戦場を駆け巡り、手に持つ大剣と見惑う程の大槍を巧みに扱い全ての驚異を払い退けると言われている。その戦い振りを称され国内では《深緑の戦鬼》と謳われている。



 その《英雄》の名は······。




「よう、元気にしてたかお袋」


「ええ、お帰りなさいラヴェル。片足が無くて多少不便だけどね。意外と何とかやれてるわ。さ、入って」


「ああ、これは土産だ。大した物じゃねぇけど食ってくれ。······おっと、親父にも帰った報告を済ませておかねぇとな」


「貴方にしては気が利くじゃない。あ、これお供えしてあげて。あの人も喜ぶわ」


「おう、任せとけ。······あの時俺を助けてくれたのはアンタなんだろう? フォルクスさんよ、あの礼をまだ言ってなかったな。ありがとな······親父」


「え? あの時って······まさか、貴方もフォルクスと会ったの?」


「······ああ。あの大熊に吹っ飛ばされて意識が飛んだ時に声が聞こえたんだ。何だか厳しそうな感じの声だったな。って、貴方もって事は」


「ええ、私の処にも来てくれたわ。殴ってやろうとしたら逃げられたけどね」


「そりゃ逃げるわな。俺でも全力で逃げらぁ。けど、そっか······ははっ、俺達を助けてくれてありがとな、親父」


「それと······不思議な女の子も出てきたわね。何て言うか······とても無邪気そうなのだけど、そう、神々しい? っていうのかしら」


「ああ、俺もきっと同じ女の子に救われたよ。······マリーだろ?」


「そう、マリーちゃん。······不思議よね。二人揃って似たような夢を見るなんて。それに」


「またいつか会う予感がする。だろ? 俺もだ。きっといつかまた会える予感がするんだ。そん時はしっかり礼を言わねぇとな」


「ふふっ。そうね、お礼をしなきゃね。何だか天使の様な子に会っちゃったわね、私達」


「ような。じゃなくて間違いなく天使じゃねぇか? 俺はそう思ってるぜ?」


「そうね。あの小さな可愛い天使様に感謝しなきゃ。今こうして生きているのは、きっとあの子のお陰なんだと思うわ」


「だな。不思議と俺もその確信がある。今の俺があるのは、きっとあの子のお陰なんだろうな。感謝してもしきれねぇよ」


「ええ。その分はしっかり生きて返さなきゃね。貴方は早くいいお嫁さん探して私に孫の顔を見せて頂戴ね。それが最高の親孝行よ」


「止せよ、高望みし過ぎだ。まだまだ結婚なんざ考えらんねぇよ。だからよ、長生きしてくれ。そうすりゃいつか見せてやれるかもな?」


「余り待たせるんじゃないわよ? あの天使様と会ってからどうしても女の子が欲しくなっちゃった。だから、さっさと結婚して女の子の孫を私にプレゼントしなさい」


「やらねーよ! 例え子供が出来たとしてもやらねーよっ!」



 カレンス王国騎士団はこれから先も平和を守り民を守り続けてゆく。

 不滅と不敗を掲げ絶対の平和を守る《カレンス王国騎士団》がいる限り、何者にも屈しない不屈を貫き王国全てを守っていくのだろう······。





◆◇◆◇◆





「あれ、今誰か私の事を呼びましたか?」


「いや、僕は呼んでないけど」


「はい。私もですマリー様」



 此処は王都より少し離れたとある街道。その街道をゆっくりと進む馬車の中。



「······あの、リエメルさん? 様はちょっと。普通に呼んで下さい。じゃないと、私もリエメル様とお呼びしますよ?」


「あら、困りましたね。しかし、あれ程の奇跡を目の当たりにするとどうしても」


「確かにね。結局、あの《魔力溜まり》の泉を完全に浄化してしまった訳だし。更には、あの泉を妖精の住まう神聖な場所にまで昇華させてしまった程だ。あれを奇跡と呼ばず、何と形容したものだろうかな」


「あ、あれはその······不可抗力というものです! 元々が濃い魔力が長年蓄積されていた場所でありそれを浄化したらああなってしまったと言うか······とにかく、あれは私のせいではありませんっ!」


「けど、事実浄化したのはマリーちゃんだよね?」


「うっ······。そ、そういえば、あの妖精さんが出てきた瞬間はとても幻想的でしたね!」


「うん、反らしたね」


「ええ、反らしましたね」


「も、もう良いでしょう!? 止めましょうよこの話はっ!?」


「ふふっ、すいません。可愛いくてつい。しかし、こう騒がしい旅は本当に久しぶりです。まだ皆さんと世界中を巡っていた頃を思い出しますね」


「懐かしいね。でも、僕もそう思っていたよ。本当にあの頃は賑やかで退屈なんてしなかったなぁ」


「その話気になりますっ! 是非聞かせて下さい! どんな英雄譚にも記されていない真実を是非聞かせて下さいっ!」


「あら、いいですよ。あの頃の私達は、初めはリードちゃんと私と赤鬼と青鬼で世界中を巡っていたのです」


「あ、赤鬼と青鬼、ですか? ええと、《紅蓮の拳姫》様と《氷華の冷嬢》様ですかね······?」


「ええ、あれらは赤鬼と青鬼で十分です。毎日飽きもせず喧嘩ばかりしていまして。そこにこの天然の人(たら)しです。本当に、よくも世界を救えたものですよ」


「破壊神に言われたくはないんだけどね。まぁでも、本当によくやったよね僕らは。今でもよく覚えてるよ。あの騒がしくも尊い旅の日々を」


「人(たら)しに破壊神に赤鬼に青鬼って······。私が知っている英雄譚ではあり得ない呼称ですね。是非聞かせて貰いますっ!」



 騒がしい馬車は晴れ渡る青空の下ゆっくりと街道を進んでゆく。一路、目的地である《魔法都市グラメル》へと向かい、優しい風を纏い陽の光を目一杯浴びて進んでゆく。


 その馬車に、遥か昔に世界を救った《勇者》と《大賢者》。それに、小さな《神の御使い》が乗っていようとは、誰も夢にも思わないだろう······。







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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