#31 ある不器用な騎士の物語26
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「すまねぇ、お袋の事頼む。俺は行かなきゃならねぇ。今も命張って戦ってる仲間の元へ」
「ああ、任せてくれ。俺達にはこれしか出来ないからな。······皆の事を頼む。どうか助けてやってくれ。君にこんな事を頼むのは気が引けるんだが」
「気にするなよ。アンタも同じく騎士だろうに。それに、俺はもう大丈夫だ。今ならドラゴンですら倒せそうな気がするぜ?」
じゃあ行ってくる。と、ラヴェルは天幕を飛び出し駆けてゆく。再びあの死が蔓延する戦場へと戻り仲間を救い守りたいものを全て守る為に。
その背を見送る後方支援隊の隊員は、ラヴェルの無事と仲間の無事をひたすら願い自分の仕事へと戻るのだった。
そして、天幕の陰に身を潜め成り行きを見守っていた者達が動き出す······。
「では、ラヴェルさんの方はくれぐれもお願いします、リードさん」
「任せてよ。絶対に死なせはしないよ。それに······どうやら僕の子孫みたいだしね。孫を助けない訳にはいかないよ」
どれ程離れている孫かは分からないけどね。と、笑うリードは、そのままラヴェルの駆けて行った後を追うように走り出す。
「では、私達も行きましょうか。宜しくお願い致します。リエメル様」
「リエメルと。では参りましょう。貴女は私が責任を持ってお守りします。ですので、安心して自らの成すべき事をおやりなさい」
マリーはしっかりと頷くと、自身の成すべき事を成す為にゆっくりと歩みを進めて行くのだった······。
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「くそっ、しっかりしろ! お前はもう下がれ! 後は俺達に任せておけ!」
「馬鹿野、郎っ! あの人が、あのヴァレリア様がやられたんだぞ!? 俺達が仇を取らねぇでどうする! 俺の命を張るときは今なんだ! 邪魔するんじゃねぇ!」
「いいや、邪魔させて貰うぜ? あのデカブツを殺るのはこの俺だ。任せとけ、必ずぶっ殺す」
『ラ、ラヴェルっ!?!?』
「よぅ、積もる話は後だ。一先ずは周りの雑魚を頼む。俺はあいつとサシでやる」
まるで幽霊を見る様な目を向ける騎士達をそのままに、ラヴェルは未だ遠く離れていてもしっかりと見える程大きな《大熊の王》を見据え歩いてゆく。
「お、おい! あれとサシで殺り合うだぁ!? 正気か!? 馬鹿野郎、今度こそ死ぬぞ!?」
「結果がそうなるなら仕方のねぇ事だ。その後は任せるぜ。だがな、俺には殺り合う理由があるんだ。仲間を、家族をやられてんだよ。今命張らねぇでいつ張るってんだよ?」
周囲にいた騎士達はその言葉を聞いて何か違う人を見る様な目でラヴェルを注視する。
「お、おい······? お前、本当にラヴェルなのか? 何てぇか、お前······変わったな」
「ちょっとした心境の変化だ。一回ぶっ飛ばされてすっきりしたのかもな? 大丈夫だ、俺に任せろ。必ず落とし前着けさせてやる」
「おい待て! ······良く聞け、あの熊野郎は刃物は通さねぇし魔法すら弾きやがる。おまけに訳の分からない魔法すら使ってきやがるぞ? ······頼む。俺達の分まであの熊野郎に叩き込んでやってくれっ!」
任せろ。と、短く返事を返し剣を掲げるラヴェルの背に、周囲の騎士達はどこかヴァレリアの背を重ね合わせていた。
ラヴェルが前線へと向かって歩く最中、周囲にいた騎士達はラヴェルに気付き少しだけ身を引いて道を作り出す。
それは次第に一本の道となり、まるで《大熊の王》へと続くラヴェルの花道の様に喝采と激励と少しの罵声と怒声が入り交じる、何ともラヴェルに相応しいものだった。
そして、やがてそこへと辿り着く。
「よう、熊野郎。お袋が開けた風穴は痛むかよ? 安心しろ。その痛みを消してやる。永遠にな」
「ゥヴオオオオオ‼‼」
「喧しい、ムカついてんのはテメェだけじゃねぇんだぞコラ? こっちはな、沢山の仲間も大切な家族もやられてんだよ。だからよぉ······」
「テメェは死ねよ」
言うと同時に、ラヴェルと《大熊の王》は駆け出す。自身の全てをぶつける為に全力で駆けてゆく。互いの命を刈り取る為にあらん限りの全てを賭けた戦いが始まろうといていた。
「ぉおおおおおっ‼」
火蓋を切ったのはラヴェルだった。
肩に担いだ大剣に走る勢いと全体重を乗せて降り下ろす。それを避けようとすらしない《大熊の王》はそのまま加速し、見上げるばかりの巨大な身体をラヴェルへとぶつけに掛かる。
「ぶっ飛びやがれ‼ 爆ぜろっ‼」
大剣が《大熊の王》に直撃した瞬間、今までと比べ物にならない爆風が巻き起こりその大きな身体を真横へと吹き飛ばした。
自身の三倍は優に超える巨大を諸ともせずに地面に転がして見せたのだ。
これには周囲に残る魔物達を相手取っていた騎士達からも一斉に驚愕の歓声が上がる。
『うおおおおおおっ‼‼』
「何て野郎だ! お前はなんて野郎だ本当に!」
「やれるぞ! やっちまえ、ラヴェルっ!」
「その化物をぶっ殺してくれ!」
「こいつは挨拶変わりだぜ熊野郎! さっさと立ちやがれっ‼ 仲間やお袋の受けた傷はそんなもんじゃねーぞ!」
大剣を《大熊の王》へと向けてラヴェルは吼える。決して許す事の出来ない罪を犯した元凶へと自身の殺意と闘志を漲らせ言葉を紡ぐ。
「風よっ! 我が声を聞け! 友の怒りを聞け! 民の嘆きを聞け! 魂の叫びを聞け!! 全ての想いを我が身に宿し、全てを守護する暴風を巻き起こせっ‼」
ラヴェルの言葉に呼応する様に、風が渦巻き今まで以上の暴風が吹き荒れる。それは正にかの《英雄ヴァレリア·ハルケイン》に瓜二つで、それを目の当たりにした騎士達の目からは熱い涙が溢れ出していた。
「いくぜ。我ら王国騎士団、全員の意地と覚悟をみせてやる!!」
そこには確かに《英雄》が立っていた。怒りも悲しみも全てを背負って立つ《英雄》が確かに立っていた······。
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