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#30 ある不器用な騎士の物語25


※休日の不定期更新です。お楽しみ下さる皆様へ。宜しければ少しのお時間を頂れば幸いです。





◆◇◆◇◆





「ねぇ、お母さん! あの部屋に飾ってあるカッコいい鎧と大きな槍! あれは誰のなの?」


「······ラヴェル。あの部屋には入るな、と散々言い聞かせた筈よね? 誰が入って言いと許可したの?」


「た、たまたま開いてたんだよ! それでその、えぇと」


「開いてたから入った、と? 私は入るなと言ったの。分かる? 入、る、な、よ? 他の言い訳があるなら聞きます」


「え!? ちょ! ご、ごめんなさいっ! もう入りません! だから、だからっ!」


「謝るのが遅い」


「ぎゃーっ‼」



 ······ああ、懐かしい。これは確か、ラヴェルが初めて私の装備を飾っておいた部屋に入った時の記憶。



「母さん! 俺、将来は騎士団に入る! 絶対入るっ! 入って母さんや皆を守るんだっ!」


「貴方に守られる程弱くありません。断固反対し絶対認めません。諦めなさい」


「早っ!? せめて理由くらい聞いてくれてもいいじゃないか! なんでダメなんだよっ!?」


「ダメなものはダメです。そうね、どうしても騎士団に入るなら私を倒してみなさい。そうすれば認めてあげなくはないわよ?」


「無理だよ! 絶対無理! 勝てる筈無いじゃん!」


「じゃあ諦めなさい。貴方は騎士になんてならなくていいの。もっと別の事を探して普通の生活を送りなさい」


「なんだよ! 母さんのバーカっ!」


「······ちょっと来なさい」


「ぎゃーっ‼‼」



 そうそう、この時は本気で怒ったわね。それに薄々は感じていた。いずれラヴェルも騎士団に入り騎士に成りたいと言い出す事を。けど、あの時の私は到底受け入れられなかった。あの人を亡くした悲しみを、もう二度と味わいたくはなかった。だから私は拒絶したんだったわね······。



「ふんっ! ふんっ!」


「飽きもせずによく毎日毎日木剣を振ってるわね? それで私に勝つ気でいるのかしら?」


「母ちゃんは関係ない! 俺はもう騎士になるって決めたんだっ! だから、母ちゃんに反対されようがいつか絶対騎士になってやるんだ!」


「私にすら勝てないのに? そんなんじゃ魔物にやられてすぐ死んじゃうわよ? それでもいいの?」


「死なない為に頑張ってんだろっ! それに、俺にはどうしても成りたい理由があるんだ! それだけは絶対曲げないからなっ!」


「······生意気ね。いいわ、私が貴方の剣を見てあげる。さぁ、しっかりと振りなさい」


「いいって! あっちいっててよ! 邪魔するなよっ!」


「やれ」


「······はい」



 そうそう。この位の時だったわね。急に私に反抗的になってきたのは。最初はいつ根を上げるか面白半分で付き合ってたのに、いつになっても弱音を吐かなかったっけ。······結局、どうしてもなりたい理由が何なのかは言わなかったのよね。



「見ろ! 見事合格したぞっ! 俺だってやれば出来るんだ!」


「合格おめでとうラヴェル。これで一先ずは入口に立った訳ね。けど、調子に乗らない事。ここからが大事なんだからね」


「わかってるよっ! けど、今日位は素直に喜んでくれてもいいじゃねーかよ!」


「はいはい、喜んでるわよ? だからこんなケーキを焼いて待っていた訳だけど」


「おお!? すげぇ! これ食っていいのか!? 食っていいんだよな!?」


「いいけど、先ずはお父さんに報告してきなさい? きっと喜んでくれるわよ」


「わかってるよ! 絶対先に食うなよ!?」



 そう、王立騎士養成学部に合格した時のラヴェルの顔ったら。本当に嬉しそうだったっけ。あの時の笑顔がきっと一番いい顔をしていたわね。そして、ここから先は緩やかにやる気を無くして不貞腐れて行くのよね。······さて、そろそろ起きなきゃ。懐かしい思い出も良いけれど、今の私にはやらなきゃいけない事があるから。



「もうその辺で良いだろう? お前はよく頑張った。そして、よく一人でラヴェルを育てあげた」



 ······ふざけないで。私の愛した人は絶対にそんな事を言わない。······お前は誰だ? その顔とその姿で言葉を口にするな。殺すぞ?



「······やれやれ。昔と何も変わらないな。少し試しただけだろう? そんなに怒るな、私は本当にお前の夫だよ。死にかけているお前の意思を聞きに来たんだ。本当に私だ、信用しろ」



 ······まさか、本当に? 本当にフォルクスなの?



「ああ、間違いなく私はフォルクス・ハルケイン本人だとも。こうして再び会えた事を幸せに思う。よく頑張ったな、ヴァレリア」



 ああ、ああ! 本当に貴方なのっ? 近くでその顔を良く見せて頂戴? 私をまた強く抱きしめて頂戴っ!



「······いや、今は遠慮しておこう。その握り拳を解いてくれたなら考えるのだがが」



 はぁ!? ふざけないで、一発殴らせなさいよっ! なんであの時勝手に死んだのよ!? 絶対帰るっていったのにっ!



「し、仕方ないだろうに。あの状況はどうしようもなかったんだ。私が残る他なかった、それが騎士の務めというものだろう?」



 そんなの······っ、分かってるわよっ! けど許せないのよっ!? だから、一発でいいから殴らせなさい!



「無茶苦茶だな······。やれやれ、これではまともに話しも出来んぞ? 私が来たのは失敗だったか」



 いいえ。話も何も、私の気持ちは決まっているわ。生きる。絶対に生きて戻る。ラヴェルを守ってあげないと。あの子はきっと今も苦しんでいるから。



「······ふむ。既に心は決まっているか。だが、いいのか? お前の身体ではもう戦えんぞ? 辛い思いをする。ならばいっそ」



 舐めないで頂戴。私も騎士の誇りを持つ者よ。例え足が千切れようと、例え腕が無くなろうと関係ないわ。必ず仕留めてみせる。それが私の使命よ。



「いいや、どうやらその使命は果たす事は出来ん様だぞ? ほら、迎えだ。私達の自慢の息子がお前を迎えにきた様だ」



 え······っ? そんな、馬鹿な。だってあの子はまだっ!?



「人とはあっという間に成長を果たすものだ。そうだろう? ヴァレリア、会えて良かった。どうか、これより先も健やかであれ。愛してる。お前達二人を愛しているぞ」



 待って! まだ、まだ言いたい事は山程あるの! だから······だからっ!




「どうか······行かないで」


「お袋、ここにいる。ここにいるぞ」


「ラ、ヴェ、ル? 貴方な、の?」


「ああ、俺だ。すまねぇ、待たしちまったよな。悪い、悪かった。すまねぇ、本当にすまねぇ」



 ああ、もう少しだけ貴方と一緒に居たかった。けど、今はまだいいわ。次はゆっくり会いましょう、フォルクス。そして覚悟しておいてね? 必ず一発は殴らせてもらうから······。







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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