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#29 ある不器用な騎士の物語24





「はああああっ!」



 気合いと共にヴァレリア・ハルケインの持つ大槍をその太く筋肉質な腕へと一閃する。野太い前足を断つ為に全力で振るわれた大槍は、風を纏い周囲のものを全て捲き込み刈り取りにかかる。しかし、余りにも大きく重量のある《大熊の王(キングヘビーベアード)》の前足へと直撃するも全く手応えは無かった。


 内心驚愕したがそれを一切表に出さずに続けて風を細く収縮し突きを放つ。

 風の刃を纏った大槍は確かに通った。だが、それも手応えという程では無く思った通りの結果を出す事は出来ない。



「本当にっ、見た目通りの頑強さだな。何を喰えばこうなる、忌々しい大熊よ!」



 きっと、距離を取れば不利になるのは小さな自身の方だ。と、ひたすらに《大熊の王(キングヘビーベアード)》の周囲を走りながらも様々な角度から斬り、突き続ける。しかし、やはり斬撃はその剛毛に阻まれ、肉を断つまでに至らず突きは肉を抉るも貫通するには至らない。



 「くそっ、本当に忌々しい! 何なんだこいつは、全く手応えが無いどころか避ける事もしないとはな! しかし、確かに決定的な威力が足りん。さて、どうするか······」



 走り回りながらも、相手に最も有効な攻撃は何か? と、考えを巡らせどうにか突破口を開くべく思い付く限りの攻撃を《大熊の王(キングヘビーベアード)》に浴びせてゆく。



「舐めるなよ? 私が今まで勤め上げた騎士人生の中で、貴様の様に攻撃の効かぬ者が居なかったとでも思ったか!? 風よ! 弾け飛べっ‼」



 その瞬間、《大熊の王(キングヘビーベアード)》の身体中が弾け血飛沫が舞った。それを見た周囲からは大きな喝采が上がる。



 「馬鹿が。貴様の様に斬撃を弾く程に頑強な身体ならば中から破壊してやればいいだけの事! 人間を舐めるなよ、化物!」



 ヴァレリアが放った突撃は確かに肉を貫く程の威力はなかった。だが、その突撃を纏う風の塊を肉の中にそのまま残し、攻撃をしながらもその風を遠隔操作、じわじわと奥へ奥へと捩じ込み爆散させたのだ。しかも複数同時に操作するという離れ技だ。

 熟練の魔力操作と成形技術を両立して初めて出来る繊細な魔法攻撃の威力は、確かに《大熊の王(キングヘビーベアード)》の肉を抉り傷を付けた。しかし、まだ決定的に威力が足りない。


 と、そこでヴァレリアは《大熊の王(キングヘビーベアード)》に油断なく大槍を構え追撃に移ろうとした時だった。



「ヴオオオオォォォ‼‼」


「ぬ······っ!? ぐあっ!?」



 《大熊の王(キングヘビーベアード)》が咆哮を上げた瞬間、ヴァレリアの身体は弾ける様に吹き飛ばされた。

 ただの咆哮ではなく魔力を帯びた咆哮はヴァレリアの身体を易々と後方へと弾き飛ばす。



「ヴァレリア様! おい、ヴァレリア様をお守りしろ! 我等も行くぞ‼」



『応っ‼‼』



 突然吹き飛ばされたヴァレリアを案じ、せめて追撃だけはさせまいと四名の騎士達が一気に飛び出してゆく。ほんの少しでもいい。と、気を引き付ける為に騎士達は駆ける。しかし、《大熊の王(キングヘビーベアード)》が振るった前足はあっさりと騎士達の身体を遥か後方へと追いやる。

 ただの前足の一振り。そのなんの事もない羽虫を払い除けるかの如くの前足の振りだけで、四名の騎士達はただの肉塊に成り果て宙を舞った。


 その光景を見た騎士達は最初なにが起こったのかすら理解出来なかった。重厚な鎧を身に纏い、恐らく自身に全力の身体強化を掛けていたであろう騎士達が四名、同時に視界から一瞬で消え失せたのだ。



「っば、化け物かよ······!」


「く······っ! 怯むな、怯むなよ俺!」


「消え、た? 消えたぞあいつら!? あの熊野郎何をしやがった!?」



 周囲に残る魔物達を相手取る騎士達もその異様な光景を目にしていた。それでも、未だ理解が追い付かず狼狽え始める。



「騒ぐなっ! お前達は目の前の敵を殲滅しろ! あのデカブツは私が仕留める‼」



 爆風と共に周囲の魔物を吹き飛ばし、ヴァレリアは大きな声を張り上げる。そして駆ける。相当距離の開いた《大熊の王(キングヘビーベアード)》へと大槍の先端を向け、その穂先に風を螺旋状に纏わせ爆発的に加速する。


 《大熊の王(キングヘビーベアード)》もその巨体を持ち上げ威嚇する様に四本の前足を大きく広げ迎い討つ気だ。


 そして、ヴァレリアが自身の前足の届く範囲に入った瞬間、その剛腕が風を切り裂き掬い上げる様に振り抜かれる。



「ヴオオオオオオ‼‼」


「っ!? なめ、るなあああ‼‼」



 前足が直撃するかと思われた時、ヴァレリアはその右足で大きく地面を踏み抜き、爆発的な加速を右足に集束させ一気に身体を前方へと跳ね上げた。

 そして、掬い上げる様に振るわれた前足を飛び越え、手に持つ大槍を自身の身体ごと《大熊の王(キングヘビーベアード)》へと突き出した。



「ゥヴオオオオオォ‼‼」


「ぐうっ! どうだ、痛いか! 私は言ったぞ、人間を舐めるなとな!」


「ゥヴオォォオオオォ‼‼」



 大量の血飛沫が雨の如く飛び散る。

 ヴァレリアの突き出した大槍は確かに《大熊の王(キングヘビーベアード)》の剛毛を抉り散らし、肉へと深々と突き刺さったのだ。

 螺旋状の風は激しく肉を抉り散らし、《大熊の王(キングヘビーベアード)》の肩口をどす黒い血が吹き出す。


 ヴァレリアは余りの痛みで暴れまわる《大熊の王(キングヘビーベアード)》から振り払われぬ様に、その前足に当たらぬ様にと未だ突き刺さり肉を抉る大槍にしがみつく。そして、両足で《大熊の王(キングヘビーベアード)》の身体を蹴り少しでも当たらぬ様にと背中へと回り込む。


 しかし、激しく暴れまわるその巨体と吹き出す大量の血で足を滑らせ大槍を握った手すらも滑り、ヴァレリアの身体は宙を舞った。



「っ、しまっ!?」



 それを見逃す《大熊の王(キングヘビーベアード)》ではなかった。宙を舞うヴァレリアの足が視界に入った瞬間、その足へと喰らいついたのだ。



「ぐうぅあああああっっ!?!?」


「ヴ......ヴァレリア様っ!?」



 大きく振り回されるヴァレリアは一瞬の判断で噛まれている自身の左足を風の刃で断ち斬り、大きく吹き飛ばされてゆく。


 突き刺さったままだったヴァレリアの大槍は纏った風を消失させ静まり返った戦場へと音を立てて抜け落ちた······。



「ヴオオオオオオ‼‼」


「貴様······貴様っ! よくも、よくもやりやがったな!」


「っ!? よくもヴァレリア様をっ! おい、後方の者達! ここは我等が引き受ける! ヴァレリア様をなんとしてもお救いしろっ‼」



『うおおおおおおおっ‼‼』



 一人の騎士の怒りの咆哮に我に返った騎士達が一斉に動き出す。ヴァレリアが負けたという絶望感よりも怒りの方が遥かに勝り、最早命など捨て去り捨て身の突撃を《大熊の王(キングヘビーベアード)》へと仕掛けるのであった······。







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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