#26 ある不器用な騎士の物語21
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「何故君がここにいるのか、それは一先ず置いておこう。けど、だ。何故あれ程の規模の大魔法を放ったんだ! お陰で見てみるといい、大惨事だ!」
「それは私の雇用主足り得るその女の子に私の価値を示しただけの事です。寧ろ見てみなさいリードちゃん。私の魔法のお陰で魔物達は大方片付きました」
「大方どころか、何もかも一切喝采吹き飛んで地形すら変わったよ! って、雇用主っ!? い、いけないマリーちゃん! 絶対に雇ってはいけない! 破壊と破滅の権化にして、己の知識欲を満たす事にしか興味を示さないこの変人を決して雇ってはいけない!」
「言いますね、私を変人呼ばわりとは。大人になったものですねリードちゃん。昔はあんなに私に」
「やめろ! やめるんだっ! 死んでも尚僕を辱しめる気かっ!? 頼む、悪かった、僕が悪かった。だからもう喋らないでくれないかな!?」
リードちゃん······と、呟くマリーは目の前で交わされる会話の行方を見守っていた。
そして、リードと仲良く? 話している女性が放った魔法はと言えば······。
「目が、目があああぁぁ!」
「目が痛い、何も聞こえない。どうなったの? 魔物はどうなったのっ!?」
「誰か、誰か何が起こったのか教えてくれ! 何も聞こえないんだよ!」
本当に大惨事を引き起こしていた。
確かに群がる魔物の集団は尽くが消し飛んだ。しかし、現場で命を賭けて戦っていた騎士達も相当な被害を被っていたのだった。
それを引き起こした魔法は、凄まじいという言葉ですら生温い規模の威力を発揮したのだった。
巨大な雷が天より降り注ぎ、その場にいた魔物は愚か遥か、後方にまでその威力は及んだ。
至近距離にいた前線を死守していた騎士達はその余りの威力に宙を舞い、凄まじい轟音と稲光で耳と目が馬鹿になった。
リードはその紡がれる言葉を聞き、いち早く危険を察知し前線を離れ耳と目を塞いだらしく、魔法による蹂躙が止んだ後に急いでマリーの元へと戻ってきたのだった。
「では、改めて自己紹介をしましょうか。私の名は《リエメル・ヴァンドライド》。かつて暗黒の時代を救った一人にして《大賢者》の称号を持つ《ハイエルフ》です。因みに、リードちゃんとはまだまだ幼い頃からの仲」
「やめろぉ、それは関係無いっ‼ それ以上喋るんじゃない! そ、れ、に! まだ終わった訳じゃないんだ。この感じだと、残る東城壁方向と正門前も相当な被害を出している筈だ。急がないと取り返しのつかない事になりかねない」
「その事なのですが、正門前から何やら強い《魂》の気配を感じるのです。リードさんと似たような気配です。間違いありません」
「《魂》の気配······? 面白い事を言いますね貴女。ですが、まあ良いでしょう。確かに今は有事です。急ぐのでしょう? 私が東側を受け持ちます。二人は正門方向へと向かって下さい」
その代わり。と、リエメルと名乗ったハイエルフの女性は続けて話す。
「全てが終わった後にしっかりと説明をお願いします。私が納得のいく説明を期待していますよ、小さな雇用主さん?」
「えぇと、雇う前提なのですね。······はぁ、分かりました。その変わり、東城壁方向はくれぐれもお願いします」
「ええ、確かに。賜りました。では、片付き次第そちらに合流しますので逃げないで下さいね? 特にリードちゃん、後で貴方にもしっかりと話をして貰います」
五月蝿い。と、リードはリエメルを払う様に手を振り東城壁方向へと向かわせる。そして、リードは騎士達を指揮していた指揮官へと事情を話し、未だに耳と目が治らず転げ回る騎士達を置いて二人は共に正門方向へと走り出すのであった······。
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「これは······酷い、酷過ぎます」
「やっぱり本命は正門前か。外はもっと多くの被害が出ているだろうね」
正門付近へと辿り着いた二人は周囲の陰惨な景色を目の当たりにする。
天幕が足りないのか、至るところに負傷した騎士達が寝かされ今なお医師による治療と回復魔法による治療が施されていた。
中には四肢が欠損している者、血塗れになりうわ言の様に何かを呟く者、錯乱し叫び暴れる者。本当に沢山の負傷した騎士達がいた。
「マリーちゃん。この中に居るのかい?」
「はい、間違いありません。居ます」
マリーには確信めいた何かを感じ取れていた。確かにここにいる。そう《魂》が叫んでいる様な感覚を感じ取っていた。
そしてゆっくりと周囲を観察し、ある一つの天幕を指差した。
「あそこに居ます。行きましょう」
リードの返事を待たずマリーは迷う事なく真っ直ぐに天幕へと近づいていく。
周囲は、そんなマリーを気にも止める事なく忙しなく動いている。お陰で止められる事なく天幕を潜る事が出来た。
そして、横たわる包帯だらけのラヴェルと対面する。
「······眠っている様ですね。まだ生きてます」
「うん。それで、これからどうするんだい? 《手助け》と言っても本人がこの状態じゃあどうしようもないよ?」
確かに、リードが言う様にラヴェル本人が起きて戦っていたのならば少しは影ながら支えてやれる筈なのだが、本人は傷付き眠りについている。しかし、マリーはどうしたらいいのかが分かっている様子だった。
「起こします。私が起こしてみせます。この方は今、深い心の闇に墜ちて閉じ籠っています。なので、私が起こしに行きます」
「そんな事が······いや、分かった。僕に何か出来る事はあるかい?」
「見ていて下さい。何が起こっても私とこの方を見守っていて下さい」
「分かった。誰にも邪魔はさせないよ。けどいいのかい? ここは他の目も沢山あるけれど」
周囲を見渡せば、天幕にはラヴェルだけではなく沢山の負傷した騎士達が寝かされていたのだ。そんな中で何を始めようと言うのだろう。
「構いません、時間が惜しいです。早速始めます。······後はお任せします、リードさん」
リードを見ずに言いきり静かに瞳を閉じるマリー。ゆっくりと横たわるラヴェルへと手を翳し、深く息を吸い込んだ。
すると、二人を包む光の膜が現れその意識をゆっくりとラヴェルの中へと沈めてあったのである······。
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