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#25 ある不器用な騎士の物語20





「なぁおい······、何かの冗談か? そうだよな? 頼む、頼むから止めてくれ。俺が行く、俺が行くからっ! あんたはもう騎士じゃねぇだろうがよ!? 頼む、頼むからやめてくれよ、お袋ぉ!?」


「聞きなさいラヴェル。確かに私はとっくに現役から退した身。けどね、例え騎士を辞めたとしても、この国を守るという志まで無くした覚えはないわ。それに、前回の《魔物集団暴走(スタンピード)》の時は貴方が産まれたばかりで戦場に出る事を頑なに周りに引き留められていたのよ。けど、今は違う」



 そっ、とラヴェルの涙を傷だらけのガントレットに覆われた指先で優しく拭う。そして、愛おしげに頭を撫で目を優しく細める。



「貴方はもう立派になった。騎士として命を賭けて戦う程に立派になった。私の手を必要として泣きじゃくっていた貴方はもういないでしょう? だから私は行くの。この身を一振りの槍として、国を脅かす驚異を払う為に行くの。かつて貴方の父がそうした様に······。次は私の番、私の命を賭けて止めてみせる」


「おい、嘘だっ! やめろ、やめてくれっ! 頼むよ······誰か、誰でもいい! お袋を止めてくれ、頼む! 止めてくれよ!? 行くな、俺が行くからぁ!」


「······いい加減にしろっ、ラヴェル・ハルケインっ‼ 私は貴様をその様な軟弱な者に育て上げた覚えはないぞっ! ······よく聞きなさい、何の慈悲も希望もない戦場で、貴方の心が折れたのはよく分かる。けどね、それでも戦わなければならないの。それが私達騎士としての務め。騎士としての生き様よ。だから、今度は貴方が生きて。私達夫婦の分までしっかり幸せになるのよ、ラヴェル」


「行くな······行くなよっ! 俺が、俺が行くからっ! だからっ、頼むよ。頼むから、行かないで、くれよ······母さんっ!?」



 既に前を見据え、隊列に戻り歩を進める母親の背に向かい決して届く事のない言葉を呟き続けて泣き崩れる。


 最早前しか見据えていない、一世代前の《英雄》と称された母親の背中。


 その背を見送る事の無力感と絶望感がその身を蝕み、ラヴェルは完全に心が砕けたのを理解した······。





◆◇◆◇◆





「貴女は一体? ど、何処から来たのですか? それに《勇者》って」


「今現在、一番重要な事は私の正体なのですか? その間にも刻々と戦況は変化し次々と命が消えていきますよ? それでも尚、私と無駄話をしたいと言うのであれば構いませんが」



 マリーの言葉を遮り淡々と言葉を紡ぐ女性。大きな杖をその手に携え、ローブを羽織りマリーを見下ろしているその女性。


 突如として現れ恐らくリードの正体を知っているであろうその人は、身長はそれほど高くはなく、それでも何処か異質な雰囲気を纏い眼前に佇んでいた。



「······信用しろ、と言っても無理でしょうね。だから、ここはただの一戦力として考えて下さい。私、こう見えても強いんですよ? 魔法が得意で様々な実績もある《流れのハンター》です。きっと貴女の力になります。どうですか?」


「······色々。そう、色々怪しすぎて話になりません。私は今、貴女をこの上ない程に不信だと思っています。そもそも、《ハンター》の皆さんは東城壁方向へと向かった筈。何故貴女はここに居るのですか?」


「あら、私達ハンターは自由の元に行動するものですよ? 私達を縛る事は何人足りとも出来はしない。強いて言えば、仕事に見合う報酬のみがそれを可能とします。それに、私が興味を持ったのは貴女です。貴女からは不思議な力が溢れています。かの《人(たら)し》が何故ここにいるのかすらも気にならない程に」



 やはりこの女性はリードを知っている。確信を持ってそう言える。マリーは涙を乱暴に拭い、女性から少し離れて身構える。

 益々怪しい《流れのハンター》を名乗る女性はそんな事はお構い無しと言わんばかりに続けて話す。



「しかし、今は貴女の素性を問いただしている時間はありません。このままではこの王都は間違いなく落とされます。それはお互いの思う処では無いのでは? なので、ここは私を雇い入れ、互いに窮地を脱した後に質問しあう。と、言うのは如何でしょうか? 私は逃げも隠れも致しません」



 余りにも真っ直ぐといい放つその姿に、マリーは小さく息を吐く。



「······分かりました。信用はしません。あくまで戦力として貴女を雇い入れます。報酬額は如何程でしょうか?」


「報酬は貴女の素性を知る事。他には求めません」


「全てを話す気はありません。それでも良ければ。しかし、雇い入れる前に貴女の実力を証明して下さい。判断はその後に致します」


「宜しい、非常に優秀ですね。その年頃にして正確な判断、称賛を送ります。では、早速お見せ致しましょう。私の戦力としての価値を(しか)とご覧下さい」



 言うが早いか、女性は眼下に広がる戦場を見据えて言葉を紡ぐ。



「······風よ、我が声を届けておくれ。離れた者達に聞こえる様に、唄い囁く様に届けておくれ」



 すると、一陣の柔らかい風が戦場を吹き抜ける。



「んんっ······聞きなさい、戦場に赴く全ての者達よ。これより広範囲殲滅魔法を放ちます。我が声を聞き届け、各々各自巻き込まれぬ様に気を付けなさい。今、あなた方最前列が立つより先にて発動します。それなりの規模の衝撃は覚悟して下さい」



 戦場は未だに激しい攻防を繰り広げていたが、女性の声が届いたのか一度奇異に辺りを見渡すも直ぐに雄叫びを上げて応えてみせたのだった。


 その中の一人であるリードは、一際狼狽えて辺りを見渡し挙動不審な動きを見せていたが見えない事にして目を反らす。


 皆の雄叫びを聞き届けた女性は小さく頷き杖を天へと掲げる。



「では、始めます。······刮目せよ。我が声を聞く精霊達よ、地に宿りし精霊達よ、我が力を依り代に、大気を震わせ地を揺らせ。我に仇なす全ての不浄を、尽く裁く鉄槌を下せ。天より来たりて地に戻れ。全てを灰塵に帰す天の怒りを思い知れ」



 言葉を紡ぐ度に杖には膨大な光と力が集束されてゆく。それを間近で見ているマリーは、何処か浮世離れしたその神々しい姿に見惚れていた。


 そして、ついにその力は形と成って魔物の集団へと牙を剥く。



「参ります、全員備えなさい。······招雷せよ、我等が鉄槌をその身に刻めっ!」



 瞬間、戦場から音と視界が消え去った······。







 お読み頂きありがとうございます。宜しければページ下部にあります評価ポイントで作品の評価をしてくだされば幸いです。


 また、感想やブックマークもお待ちしております。


 お時間を頂きありがとうございました。

 次の更新でまたお会いしましょう。

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