#22 ある不器用な騎士の物語17
※読んで下さる皆様に感謝を込めて、本日二部投稿します。ありがとうございます。これからも引き続きお楽しみ下さい。
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「くそっ、きりがない! このままだと押し切られるぞ!」
「そんな事を言ってもっ、どうしようも出来ないじゃない! 私達が引けばそこで終わるのよ!? しっかりしなさい、男でしょ!?」
「その俺よりも男らしいお前がそれを言うか!? けど、このままだとどのみちじり貧だ······手の空いた者はいないのか!? 何故増援は来ないんだ!?」
城壁の外周で魔物を迎撃する為に布陣を敷いた騎士団の面々は、必死に自身の得物を振り続け不退転の防衛戦へとその身を投じていた。
決して衰える事なく倒す側からまるで土石流と成って次々と襲い来る魔物の塊。王都防衛戦が開始されてから一体どれ程の時間が立ったのだろう。
如何に十数年間隔で訪れる災害とも言える規模の《魔物集団暴走》であろうと、いつそれが起こるのか。どれ程の規模なのかが毎回違うのだ。
勿論、騎士達は常に有事に備え己自身を日々鍛えている。しかし、全員が全員そうではない、という現実もある。特に、本当の殺し合いを知らない若い騎士達も当然いる。
始めての戦場に恐れ、怯み、心が折れかける。それを支え鼓舞するのは歴戦の経験を積んだ騎士達の役目。そうして、《カレンス王国騎士団》は結束を堅め、力を付け《世界中で最も安全な国》を守護する絶対の防壁と化してゆく。
しかし、今回の《魔物集団暴走》は規模が大き過ぎた······。
まるで終わりの見えない戦いに、次第に騎士達の士気は下がり体力はみるみる削られてゆく。そうして、膝を折った者から順に襲い来る闇に呑まれ、消えて見えなくなる。後に残る肉と鉄を擂り潰す不快な音と共に。
そんな中、騎士達が定めた防衛戦線は時間が立つにつれ少しづつ後退してゆく。一人、また一人。とその命を散らし、ゆっくりと闇に浸食されてゆく。
「こんのっ! 何なんだよ、この数は! 魔法部隊は何やってやがる! どんどんぶっ放せよ! ちっとも数が減らないぞ!」
「やっている、やっているんだよ始めから! あちこちから響いてくる爆発音が聞こえねーのかよ!」
「いいからしっかり戦線を維持しろ! 俺達が抜かれたら終わるんだぞ!? 全てが終わってしまうんだ‼」
「畜生、畜生共が‼ なんなんだよテメェ等は! 何だってんだよこのクソ野郎! バリーを返しやがれ! 返してくれよぉ‼」
「騎士である俺達がこの先生きる事は諦めてやってもいい! 喜んで貴様等にこの命をくれてやろう! ただ、後ろに控える民達だけには手を出させんぞ‼ 我等王国騎士団を嘗めるなよ、魔物共‼」
命を賭けて止めなければならない。騎士として生きると決めた時から既に覚悟は決めている。有事の際、真っ先に己の命を散らす覚悟は剣と共に国に捧げていた。
同僚が引き倒され、潰され、千切られ、引き摺られてゆく。頭が転がり手足が舞う。血飛沫が吹き出し臓物が絡みつく。
阿鼻叫喚の地獄の中で、日々を共にする同僚達が次々と蹂躙されていく様を見詰め己の命を覚悟する。ついに自身の番か······と。
その時、唐突に目映い光が闇を切り裂いた。
目の前に押し寄せる津波の様な闇は、正に光の壁とも呼べる一陣の軌跡が切り裂いたのだ。
未だに残る光の軌跡で目が眩む。一体何が起きたのか。それを正しく理解出来る者は誰一人としていなかった。
それは、壁の如く長大な軌跡を残す程のただの全力の斬り上げである《斬撃》だった。と、正しく理解出来る者などいなかったのだ······。
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「思ったよりも数が多い。このままでは押しきられる。仕方ないけど、よし······良く聞け! 王国を守る精鋭達よ! 現時点より《ハンターズギルド》も戦線へと介入する! 我等の国を、民を想う志は同じ! 共に仇なす敵を滅ぼさん! いくぞ!!」
『う、うおおおおおおお‼‼』
突然、何処からともなく聞こえた声はとてもすんなりと耳に入り、心に響いた。
この怒声悲鳴が響く戦場において尚、その場にいる騎士達全員に確かに聞こえていたのだ。
その声を信じて再び前へと押し戻す。渾身の雄叫びを上げて突き進む。
「発破掛けは上手くいったかな。危ない危ない、士気が下がりすぎだろう。僕は余り手を出さない予定だったんだけど、これはそうも言ってられないかな」
魔物の列を真っ直ぐに絶ち斬った張本人《勇者リード·カレンス》は、騎士達を鼓舞し戦線を引き上げる。それも、然り気無く《ハンターズギルド》を名乗りあくまで己の名を名乗らず一介の《ハンター》として戦線に介入する。
騎士達は思わぬ増援に再び奮い立ち、自身の折れかけた心を持ち直す。それに、先程リードが放った魔物の前線を真っ直ぐに切り裂いた全力の斬撃。それを《ハンター》達の魔法攻撃だと勘違いし再び突き進む。
実は、たった一人のみの増援なのだがそれを正しく理解出来る者は誰もいない。何故なら、ひたすらに襲い来る驚異に立ち向かうべく前のみを見据えているからだ。しかし、その増援は千の兵よりも心強く、闇を払い除ける正に《伝説》と語り継がれる《勇者》などと誰も微塵も思いはしないだろう。
最早後ろは振り向かない。例えたった一人の増援だろうと、今しがた見た光景は確かに居並ぶ騎士達に光を灯したのだから。
「さて、この中に《英霊》へと到れる者はいるのかな? いるならば、きっとマリーちゃんが何らかの行動を起こす筈。僕には全く分からないから、先ずはこの西側にいる騎士達をしっかりと見定めさせてもらおうかな」
リードは城壁の隅に結界を張り、隠れる様にこちらを見ているであろうマリーへとちらりと視線を向ける。
そして、再び視線を戻し魔物の壁を睨み切り伏せる。あくまで《手助け》に徹し、先程の目立つ攻撃を抑えつつ迎撃する。
適度に全力の斬撃を放ち騎士達に魔法攻撃だと錯覚させる為に。
まだまだ夜明けには程遠く。然れど闇に呑まれた漆黒の世界の中に僅かに光を見た。その僅かな光を信じ、騎士達は己の魂を燃やし突き進む。
死の匂いが蔓延し、至るところに判別のつかない死体が転がるこの地獄の様な戦場で、たった一筋の光を信じて突き進むのであった······。
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