#20 ある不器用な騎士の物語15
※祝日追加更新です。
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「いよいよ始まった様だね。ならば此方もそろそろ行こうか。······さぁ、みんな! 僕らも行こう、あの戦場へ! 大切な人を守る為の戦いへ! 己が信念を刃に込めて、決して何者にも奪わせない為の戦いに‼」
『うおおおおおおおおっ‼‼』
「打ち合わせ通りに行こう! 僕らは西の城壁方向! 東の城壁方向はお任せしました! お願いしますっ‼」
「任せとけ! こっちは心配すんな! そっちこそたった二人なんだ、気を付けろよ‼ そんな可愛い娘を泣かせる様な親父になるんじゃねーぞ!?」
「違うよ!? 本当に違うからね、僕らは兄妹! 僕はお兄さんだからっ‼」
思い思いに武装した集団が人の居なくなった王都中心部から東城壁方向へと走り行く。その背を見届け、折角士気を上げたのに台無しだ。と締まらなく呟く。
「さぁ、パパっ! 私達も行きましょう! 王都を守り、皆さんを守るのですっ‼」
「それだよ‼ 全ての原因は君だ、マリーちゃん! いい加減機嫌直してくれても良くないかな!?」
「五月蝿いですよパパ! さぁ、早く行きますよ! 私達は西の城壁方向! 私を放置して色々とやらかした罰です、甘んじて受け入れて下さいませ!」
そう言い残しマリーは駆ける。
あの活気に溢れた街は今は鳴りを潜め、人気の失せ果てた道をひた走る。
それに続くのはこの国の開国者。
《勇者リード・カレンス》
暗黒の時代に引導を渡した伝説の英雄。
それが、今再び自国の危機を救う為ひた走る。国を守る為。そこに住まう人々を守る為。全ての命を守る為。再び現世に降り立ち駆け抜ける。
事の始まりは、リードとマリーが《ハンターズギルド》にいた時まで巻き戻る······。
◆◇◆◇◆
「······暇です。リードさんだけズルいです。わたわたと走り回って何も説明無しとは」
マリーは《ハンターズギルド》の机に突っ伏したまま、忙しく動き回るリードへと聞こえる事のない愚痴を溢す。
「何かが起こっているのは間違いないのですが······。私には一体何が出来るのだろう。守られるだけの存在なのだろうか。折角主神様より救って頂き、尚且使命すら与えられたこの身体。私には何が出来るのだろう」
マリーは突っ伏したままに、目の前に置かれた木製のコップに入った水を見詰める。暇をもて余していたのでその水を眺めて考える。
「······魔力は物質に留まりやすく定着し易い。だからこそ、土地や物や人に定着し様々な現象を引き起こす力を発生させる。それを紐解けば、元々は神々の《奇跡》を具現化させる為の力。即ち《神力》な訳で。今の私を構成し、内包されているのも主神様より浄化された《神力》である。つまり」
ゆっくりと木製のコップに入った水へとか細い指を伸ばし、自身の浄化された魔力である《神力》を流してみる。そして変質を促す言葉を紡ぐ。
「水よ、咲き誇る美しき花へとその身を成し、我が前に湿現せよ」
指を水に浸けたまま、そのままゆっくりと持ち上げる。《神力》の定着には成功した様だ。水はそのまま木製コップを離れ、指に纏わり付いて形を変えてゆく。
そうして、マリーの指には咲き誇る水の花が纏われてそのまま形状を維持していた。
「······やっぱり出来た。基本は魔法を使う様に《対象》を指定し、力を定着させ《現象》を細かく指定し《発現》させる。後は《現象》を起こす繊細な力の操作と、それを起こすに至る力と《対象》の魔力量。うん、これはとても楽しいです······」
自らが作った水の花を眺めて上機嫌で次々とその形を変えてゆく。
それを目の当たりにした男性ギルド職員は目と口を開け放ち小刻みに震えた。そんな事は構いもせず、ひたすらその感覚を掴む為に練習。もとい、遊びに興じるマリーなのであった。
「······マリーちゃん? それは一体何をしてるのかな?」
漸く一息ついたのか、戻ってきたリードが見たものは目を見張るものだった。
「あ、お帰りなさいリードさん。どうですか、これ? とても楽しいんですよ?」
「凄いね······。正直、マリーちゃんがそこまでの《魔法適性》を持っているとは思わなかったよ」
水は既にマリーの指を離れ、蝶を形作り宙すら舞っている。未だに突っ伏したままのマリーを驚愕の表情を浮かべ目を瞠る。しかし、一度頭を振り今度はしっかりとマリーを見詰める。
「けどねマリーちゃん。良く聞いて、その力は絶対に他者に対して振るってはいけない。その力は使い方を間違えると大変な事態を引き起こす事になる危険な力だ。確かに凄い、正直驚いたよ。けど、だ。約束して、絶対にその力を使わない。と」
「うっ······そ、そんなに真っ直ぐ見詰めないで下さいっ! 分かってます、分かっていますからっ! ······大丈夫です。この力は余りにも危険なものだとしっかりと理解しています」
顔を真っ赤にしたマリーは逃げる様にリードから離れ、同時に水の蝶は形を元通りの水になり宙より溢れ落ちる。丁度リードの頭の上に。
「······うん。分かってくれたらいいんだ。それよりも悪い知らせがある。良く聞いて。これよりこの王都は戦場になる可能性が高い」
「は、え? な、何ですか? 一体何を言っているのですか? 戦場? 訳が分かりません。説明をお願いします」
「さっき僕が眺めていた依頼書。あれを見て疑問に思ったんだ。この地域にしては少な過ぎる。とね。そこで、今までの依頼書と過去の魔物発生状況、生息する種類、そして討伐状況。それらを過去の《ある事件》と照らし合わせて調べてみたんだ。すると、凡そ十数年間隔で確実に起こるとされている災害があるんだけど、それと条件がぴたりと一致するんだ」
余りにも突拍子の無い話にマリーは目を白黒とさせる。頭の隅にすら考えてもみなかった事だ。そして、訳が分からないといった感じで口を開く。
「あの、すいません。全く意味が分かりません。災害? それは一体どういうものなのですか?」
「それは何処の地域でも突発的に起こり得る現象なんだよ。原因は余り大きな声では言えないけど、この世界に転々と存在する《魔力溜まり》が引き起こす異常現象の一つ。極希に生まれる《特殊個体》が引き起こす魔物の集団襲撃。つまりは······」
《魔物集団暴走》
マリーはその言葉を聞き、顔を青くさせるのであった······。
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