#16 ある不器用な騎士の物語11
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「ほんじゃ、先ずは一日お疲れさんの挨拶だ。せーの『かんぱーい!』」
ラヴェルと同僚達は綺麗に声を揃え酒の入った木製ジョッキを打ち合わせる。職務の終わりに揃ってやって来たのは喧しく笑い声の絶えない、とても上品とは言い難い場所。安くて旨い、庶民の台所とも呼ばれる大衆食堂《紅蓮の拳姫(鬼)亭》である。
王都では誰もが知る庶民の心強い味方であり、かの有名な《勇者リード·カレンス》初代国王の《第一王妃》が建てた国外にも店舗をもつ程の有名店の本店である。
当時、深刻な食糧難の危機に《第一王妃》自ら指揮を取り、自ら食糧を集めて回り、自ら炊き出しをしていた場所に、遂には店まで建ててしまったものが現在に到っても補修や補強、増築を繰り返して現存している。
金が払えない者は国の復興の手伝いや社会貢献、店の手伝い等で無料で食事を提供し、半ば伝説的な逸話も残るほど国民に末長く愛され親しまれている店である。
因みに、店の名前は《第一王妃》の称号をそのまま付けた......筈だったのだが、《誰か》が夜中にこっそり書き換えたのをそのまま使っているらしい。
そして、その看板を見た《第一王妃》の激怒ぶりは凄まじく、王都とその周辺の気温を三日ほど5度近く上げるまでに至り、怒りをそのままに犯人を捜していた姿は正に書き換えられた名そのものであった。
と、語られている······。
そんな店で夕食ついでに酒を煽るラヴェルは同僚達と会話に華を咲かせるのであった。
「っかー! 旨ぇ! やっぱ職務終わりの酒は旨えな!」
「俺は働いてねぇけどな」
「嘘つけぇ! 詰所で聞いたぞぉ? 非番だってのに律儀にスリやらかした小者を引っ張ってきたらしいじゃねーかよ。やるぅ! 流石は《英雄》様の末裔だ! なぁ皆!」
『英雄様の末裔にかんぱーい!』
周りの同僚から歓声と共に木製ジョッキが掲げられる。それを鬱陶しそうに顔をしかめるラヴェル。
「おいよせ。お前らただ騒ぎてえだけだろが。ったく、たまたま目の前でやりやがった。ただそれだけだ。お陰で折角の休日が台無しだぜ」
「またまたぁ、照れんなって。俺なら目零ししてやったぜ確実に。んな小者を引っ張っても何も変わらねーしな。次から次へと沸いてきやがる。正にゴブリン共と一緒ってなもんだ」
笑い声と上手い例えに対する賞賛が飛び交い、周りはどんどん出された食事と酒を平らげていく。
「なーんだよラヴェル、湿気たツラして。悪ノリしただけだろう? 悪かったって」
「いや、別にそんな訳じゃねーんだよ。何てえかな、何かが引っ掛かるんだよな。こう、もやもやするってーか」
「何だよそりゃ、あれか! 虫の知らせってやつか?」
「馬鹿、ラヴェルだぞ? 英雄様の知らせに決まってんだろ」
『違いない!』
「言ってろ馬鹿野郎どもめ。飲み過ぎんなよ? 明日もあんだろ?」
周囲の喧騒を余所に、ラヴェルは何かが胸に引っ掛かる。思い出そうとしても思い出せない。そもそも、何を思い出したいのかすら分からない。
「何だ、何が気になりやがる。どうしても思い出せねえ。何かが引っ掛かってるのは分かる。だが、それは一体何なんだ? くそっ、イライラするぜ」
「おーいラヴェル、いい加減に機嫌を直せよぉ。悪かったって、そんな怒んなよ」
「だからちげーっての。離れろ鬱陶しい。それよか、お前ら今日は何処まで行ってたんだよ?」
「あん? 何処までって話でもねーさ。直ぐそこのカレンス街道までだ。参るぜ全く、たかだかゴブリン五匹に一々呼ぶなってんだ!」
「全くだ! 俺達騎士を何だと思ってやがる! だいたい、ハンターに護衛頼むのケチってるお前らが悪いんじゃねーか! 俺達は便利屋じゃねーぞ!」
『そうだそうだ!』
「おいおい。荒れんのもいいが、ほどほどにしとけよ? けど、またゴブリンかよ鬱陶しい。本当に最近ゴブリン共ばかりだな」
日頃の溜まりに溜まった不満を爆発させる様に騒ぐ同僚達を嗜めつつも、何処か心は上の空で。やはり何かが引っ掛かる心をそのままに、周囲に居た客達が少なくなるまで同僚達に付き合い、夜は更けて行った······。
◆◇◆◇◆
「うぁ、頭が痛え。完全に二日酔いだぞこりゃ。取り敢えず、水でも頭に被って今日一日耐えきれば何とかなるか? ならねぇか。くそっ、あのアホ共のせいだ」
ラヴェルは完全に二日酔いになっていた。いつ独身寮に戻ってきたのかすら覚えてもいない。既に習慣になっている時間に目が覚めたのだが、着の身着のまま眠っていたようだ。
のそのそと制服に着替えて短剣を腰に差し、備品庫にあるロッカーへと向かい歩いていく。覚束無い足取りでゆっくりと歩いていると、途中すれ違う同僚から何かを言われたが全く頭に入って来ない。それほどに具合が悪いらしい。
「うーん、確か何か夢を見ていたよな······、何だったか思い出せねぇな。何だか懐かしい様な寂しい様な。あーっ、すっげぇもやもやする! 何だってんだよ、昨日からよ」
昨晩からの胸の引っ掛かりに加え、靄がかかった様に思い出せない夢。何か大切な事だったのだがどうしても思い出せない。
頭を振り、頭に響く鈍痛を抑えて騎士の証である鎧を着込んでいく。腰に差していた短剣を、今度は鎧の腰のベルトにしっかりと固定する。騎士の正装でもある鈍銀色の鎧に身を包み、使い込まれた自身の大剣を背負う。心の中で昨晩一緒にいた同僚達へと悪態をつき、集合時間ぎりぎりに列へと加わるのであった。
「くそっ、マジで頭が痛ぇ。お陰で遅刻ギリギリか。それよりも夢だ、あの夢。なんだ、俺は一体何を見ていたんだよ。思い出せ、何かが引っ掛かりやがる」
担当である詰所についても尚、昨夜見ていたであろう夢の事が気になって仕方がない。誰かと話をしていた。それは思い出せる。だが、内容も相手も思い出せない。
「よーラヴェル、なんだか酒臭いぞ? さっきから難しい顔してるしよ、大丈夫かお前? さては二日酔いかあ?」
「五月蝿ぇ、頭に響く。頼むからそっとしといてくれ。昼前にはきっと治る筈だ。それまで頼む」
水の入ったコップを手に、当直の同僚に仕事を押し付けて詰所の奥で机に突っ伏す。冴えない頭を必死に回らせ考える。昨日からの胸の引っ掛かりと昨晩に見た夢。
その事がどうにも気になる。無関係とも思えず、ひたすら二日酔いと共にラヴェルの頭を悩ませるのであった······。
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