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8回目のプロポーズ「勇者の証」(決)

※8月27日に改稿されました。

「う〜む・・。実に珍妙奇天烈・・‼︎」



 老士官は、なにやら金色の輪っかで僕を覗き込み理解不能な様子をこぼした。



「勇者レベルはたったの5・・・。どうして貴公にあのようなしかも『バハムート』が従っておったのか・・。使えるような大した加護も見当たらん・・。むっ!むむむ・・・」



 × × × × × × × × ×



 『バハムート』がエーゲ帝国に到着するやいなや、僕は救護隊によって医務室へ担ぎ込まれた。僕はてっきり頭部の負傷の治療なんだろうと考えていたが、それはそこそこで終わり、「では身長を計りましょう」「次は体重を計りましょう」「次は視力を調べますので、突き当りを右の部屋へ」「聴力なので隣の部屋で暫く待機していて下さい」と頭部とは関係がないような()()を次々受ける事になり、


 その検査がひどく長い。長すぎる…‼︎

 そして、人道的配慮もない…‼︎


 僕は衣一枚羽織ることさえ許されず、常に全裸で検査を受けることを強要された。軽口でも叩こうものならば医師の側に控える刃を携えた兵士が僕をギラリと睨む、といった塩梅だった。


 とにかくエーゲ帝国入りしてから、常に全裸のまま医師たちに言われるがまま検査の指図を受けていたのである。



 そう、常に全裸である。つまり、フルチンだ。

 そう、常に全裸である。つまり、フルチンだ。

 そう、常に全裸である。つまり、フルチンだ。



 なぜか女性しかいないエーゲ帝国の医師たちに囲まれて…‼︎



 検査は最高だった。なんならエーゲ帝国の日課で検査が毎日あっても良いくらいだ。僕は美人揃いの女医に自分の全裸を見せ続けるというプレイを心行くまで堪能した。こんな開放感は久しくなかった。



「身体検査は以上です。次は体力診断に移ります」



 は?

 まだやんの?

 どこまでチェックすれば気が済むのか?!エーゲ帝国!!



 × × × × × × × × ×




 「まずはこの案山子に一太刀入れて下さい」



 用意された衣服を身に纏った直後に渡された剣は、何の変哲も無い有り触れた刃物に過ぎなかった。

 仕方がないので気は進まないが言われた通りに案山子に一太刀入れるか。


 何となくかなり昔に観た地方回りをしている劇団の活劇を思い出し、それっぽい構えっぽい事をして、それっぽい瞬間で、それっぽい「せいっ!」の掛け声のもと僕は馳ける。



 僕としては、それなりに感触というか30代半ばとしてはそこそこのつもりではあったのだが、



 周りの空気は幾分か、いや随分と冷たかった。

 視界に入るどのエーゲ帝国軍部関係者も一様にして首を捻っている。



「この程度で、あのバハムートを召喚出来たとは俄かには信じ難い」



「いや、魔法力にこそ秘められた何かががあるに違いない」



 どうやら怪しまれているようだ。もしや検査が長かったのはその為?!



「どの類、火でも水でも構わないので、貴公自身の秘める加護をお見せ頂きたい」




 加護?そういえば老士官に僕は『秘められた謎の加護』があるとか言われたぞ。それで良いのか?()()を叫べば良いのか?大丈夫か?期待に応えられるのか?初お披露目がぶっつけ本番は一番スベるパターンじゃないのか?


 エーゲ帝国の軍部関係者の注目を浴びる中、改めて緊張の一瞬。誰かが唾を飲込む音すら聞こえる程に静まった状況で僕は唱える。



「モッツァレラ!」



 伸ばした右手の平から「ぷりっ」と可愛い効果音とともに()()()()()が城の石畳に零れ落ちた。

 騒めく兵士たち。その中の一人が勇気を出して()()()()()の前に歩み寄る。

 掴む。

 弾力を確かめ、匂いを嗅ぐ。

 きっと思い当たる節があったのだろう。意を決して()()()()()を自らの口に運ぶ。



「う、美味い!」



 それチーズだね。



「酒が進みそうだ!」



 そりゃチーズだからね。



「しばし待たれよ!」



 多数の兵士たちが輪になって話し合っている。「美味いチーズとエーゲ帝国の守護神バハムート召喚は繋がりがあるのか?」きっと関係ないだろうね。「本当に勇者様で間違いないのか?」うん、疑う気持ちはよく分かる。「こう言っては失礼だが、伝説の勇者様と言えるような方とは私は信じられません」もう少し僕に聞こえない声で話し合って欲しいな。

 ただただ居た堪れなくなって、申し訳なさが僕の胸に去来する。



「あ、あの勇者様、宜しければお連れの方も何かお披露目出来ないでしょうか?」



 意外な要求だった。



「…。構わないよな?」



 僕の言葉に無言で頷いた少女ゼウスは案山子の前に立った。

 少女ゼウスは何人かの兵士たちに居場所を開けるよう軽く手で促す。


 固唾を飲んで見守るエーゲ帝国の兵士たちの中、僕は嫌な予感しかしなかった。



「神の雷‼︎」



 一瞬で城の一角が消滅した。

 僕に遠慮も配慮もない閃光の一撃。



「ゆ、勇者様だ!!伝説の勇者様だ!!」



 取り乱し、狂喜乱舞する兵士たち。



「戦争は始まらない!!悲劇は回避されるぞ!!」



「悪夢の終止符だ!!」



「いや待て!こちらの勇者様は女性であり、王とは結婚は出来ぬ。伝説の勇者は男性の筈だ」




 案の定、ややこしい事態になって来たと感じた時、エーゲ王が僕らの前にようやく姿を現した。




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