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7回目のプロポーズ「推定Fカップ」(決)

※8月26日に改稿しました。

 『バハムート』の白銀の背中に僕たち一行は乗り込んで、エーゲ帝国を目指すことになった。「バハムートの飛行スピードならせいぜい30分程度だろう」と少女ゼウスは言う。

 これほど立派な翼竜を召喚しておいて頼み事がバイカル王国からエーゲ帝国への移動とは…。

 いささか僕は気が引けていた。


「確かに我々エーゲ帝国の守護神を馬車扱いするとは、いずれ()()に罰が当たりそうだな」



「うっ…(か、返す言葉が見当たらねえ・・)」



 珍しく僕の心中を察してか、少女ゼウスが悪戯に口を開く。



「そうか?ケイをエーゲ王に花婿候補として謁見されるのであれば、このくらいインパクトは必要不可欠。あった方が良いだろう。良い車に乗ってる男はどこの世界でもモテるものだ」



 翼を羽ばたかせる『バハムート』の背上は、想像していたよりもずっと穏やかだった。強風が僕らに吹きすさぶものだと構えてはいたが、随分と乗り心地は良い。快い。これが僕らを表す適切な言葉だった。



「・・なあ、どうしてエーゲ帝国はバイカル王国に戦争を仕掛けるんだ?」



 剣士フロリダは思わず僕を睨みつけ、剣を抜いた。

 ーーー緊張が走る。



「何を寝呆けたことを口にする。戦争を仕掛けているのは、バイカル王国の方だ!」



 見兼ねたセグンダが僕と剣士フロリダの間に割って入り、冷静に場を仕切り直す。



「フロリダ様、剣をお納め下さい。・・役不足であるのは百も承知ですが、私セグンダが代わりにご説明致しましょう。・・さて、ケイ様。僅か10年ほど前、エーゲ帝国とバイカル王国の間にもう1つの国家があったことをご記憶にございますか?」



 なんだ?セグンダはいま何を話しているんだ?10年前?言ってみればつい最近の出来事じゃないか。

 そんな()()全くないぞ。



「あったのですよ。確実に。エーゲ帝国とバイカル王国の間に()()()()()()()が。その国は魔術のようなものを扱いました。我々はそれを文明(まほう)と呼称しています。その国の持つ文明(まほう)は、信じられないほどの奇跡を起こしてきました。どういう原理か我々には到底理解出来ないことばかりなのですが、豊かに、快適に、そして便利に生きているように見えました」



 理由は分からない。理由は分からないが、僕の持つ奇怪(スマートフォン)もその文明(まほう)の内の一つであるような気がした。



「あなた方、バイカル王国は文明(まほう)を妬んだ。それ故今はなき国家に攻め入り、バイカル王国の一部に取り込んだ。それからです。エーゲ帝国とバイカル王国が隣国同士になったのは。ケイ様に10年前の記憶、本来ならば絶対に憶えているはずのもの、それが欠如しているのは、恐らく文明(まほう)の力でしょう」



 何だって?罪悪感のようなものが湧いてきて、僕は頭の中が混乱してきた。

 待てよ。

 待て。待て。待て。

 エーゲ帝国側が僕を洗脳しようとしてるとは考えられないか?

 そうだ。きっとそうに違いない。だって少し前までこの二人はバイカル王国側の人間を殺そうとしていたじゃないか。そんな悪い人間の言うことを僕が素直に聞くのもおかしな話じゃないか。



「ケイ、これは事実だよ」



 少女ゼウスがそう口にした。僕は絶句するしかなかった。

 冷静さを取り戻した剣士フロリダがセグンダとの交代で言葉を続ける。



「貴公は知っているか?エーゲ帝国とバイカル王国はずっと昔、同じ国の民であったらしいぞ。オーシャンと言ったかな?大陸の大変動が起き、オーシャンは二つの国に分かれたそうだ。それが今のエーゲ帝国とバイカル王国だ。皮肉なものだな。元は同じ国同士が、今戦争を始めようとしている。・・つまり殺し合いだ」



 僕は『バハムート』の、上空からの、絶景を眺めるしかなかった。

 頬に当たる風はずっと心地良かった。



「フロリダ様の兄上は、10年前にバイカル王国が今はなき国家へ侵略を開始した際、エーゲ帝国として唯一単独でその侵攻を止めようとなさいました。結果は残念ながら帰らぬ人となってしまわれた」



「・・・なあ、どうしたら戦争を止められるのかなあ?」



 僕の問いかけに誰も答えようとしなかった。

 暫くして少女ゼウスが僕の顔を覗き込んだ。



「ケイの今考えていることワシ当てようか?」



「お前は全知全能だもんな?」



「剣士フロリダは実は隠れ巨乳で、推定Fカップ!」



「んな事考えてないわい!」



「な、なぜそれをっ」



「ぷっ!」



 セグンダが大笑いした。釣られるように僕らも笑った。

 剣士フロリダだけ顔を真っ赤にして怒っている。


 そうこうしているうちにバハムートはエーゲ帝国に到着した。




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