6回目のプロポーズ「エーゲ帝国との遭遇」(決)
※8月26日に改稿しました。
まぶしい…。なんだ?どこにむかってる?がたがたする。あたまはぼうっとするし、なんだか、あつい。いたっ。うごくと、いった。え?あ、そっか。けが。ぼくはけがをしたんだ。まじかあ。怪我しちまったのかあ。じゃあ今、どこかへ運ばれているのか…。
「気付いたか?もう少しの辛抱だ。頑張れよ」
僕は三人の男たちが支える荷台に乗せられていた。「ぼく一人ですか?」の問いに三人の内の一人が頷いた。少女ゼウスは一緒にいなかったのかと疑問が湧いた。それから後、僕は何度か違う質問を三人の男たちにしたと思うが、返答は得られなかったはずだ。今は喋らない方が良いという判断が三人の男たちにあったのだろうか。
ーー僕は手当てのため、埃臭い牛舎跡へ運ばれた。
× × × × × × × × ×
僕は後頭部をやってしまったようだった。現在、僕の頭部は包帯をぐるぐる巻きにさせられている。応急処置をして貰っておいて贅沢な事は言える立場にないが、ここは衛生管理の行き届いた場所とは言い難い。早いとこ、別の場所、出来ればホスピタルに移動したいと思った。あ、奇怪。良かった。僕のポケットの中にちゃんと入っていた。そうだ。少女ゼウスの連絡先はアドレスというものの中に入っているのだろうか?確かめなくては。あ、あった。ほっとした。なんだ。少女ゼウスとも僕はこうして繋がっているんじゃないか。
僕は奇怪で少女ゼウスを呼び出す。
「あ、今どこ?」
「なんだ?もうお呼び出しかい?」
「頼む。すぐに来てくれないか?」
「もう後ろにいるよ」の少女ゼウスの声に僕の心臓は止まりかけた。もう少し怪我人を気遣った登場の仕方を少女ゼウスに僕は求めようとしたが、ふいに牛舎跡のかなり朽ちた入り口の扉が開いた。
僕を助けてくれた三人の男たちが入ってくる。僕は感謝の声を改めて三人の男たちに掛けようとしたが、その少し間を置いて、見慣れない衣服を羽織る二人もやってきた。ああ、この衣服の種類はエーゲ帝国の者だと僕は理解した。頭部に掛けられたフードを外すと、二人とも女だった。
「この人たちです。フロリダ様」
「なるほど。二名か?聞いてた話と違うが」
「あ、これは、いや、さっきまでは一人でした」
「・・・。まあ良い。セグンダ」
セグンダと呼ばれる女は、三人の男たちの内一人に小袋を渡す。見た目の重量と金属音同士が擦れる高めの音から貨幣のようなものを渡したと推測出来る。
僕の目の前に剣士フロリダの鋭い切っ先が構えられる。
「貴様がバイカル王国の伝説の勇者か」
残念なことだ。とても残念。どうやら僕は売られたようだ。三人の男たちに僕は売られた。さっきまで感謝の言葉を三人の男たちに伝えようとしていた自分がむしろ悲しい。この怪我の原因はあの三人の男たちのうち誰かの仕業なのだろうか。こんな気持ちは初めてだ。とにかく、残念。
「あんたら同じバイカル王国の人間じゃないのか?」
「恨まないでくれよ。金がどうしても必要だったんだよ。俺たちは明日のパンすら買えないほどひもじい生活をしてるんだよ。飢え死にしちまうんだよ。だからよ、生きるためには仕方のない事なんだよ…」
正直、当時僕がモルダーに見ていた『悪』という幻想は、こんな小さな所にあった。それが悲しい。
「これ以上の質問は禁止する。今から貴様はエーゲ帝国にバイカル王国の捕虜として来てもらう」
驚いた。30代半ばの僕にそれなりに価値というものがあるようだ。
セグンダの「この男たちはどうしますか?」の言葉による、剣士フロリダの返答は冷たかった。「都合の悪い事は話さないよう、それぞれ腕の一本くらい斬り落としておけ」であった。
当然、三人の男たちは即座にたじろいだ。「約束と違う」と口々に叫ぶ。ただし聞く耳を持つような連中ではない。僕は仕方なく口を開く。
「あの男たちを無事返してやってくれないか?」
「私の話を聞いてなかったのか?質問は禁止だ」
「質問じゃない。要求だ」
「屁理屈が・・。自分の置かれた状況を理解しているのか?貴様は我々に要求を通せる立場にない」
「解放してやれ。でなきゃ僕はお前らとどこへも行かない」
「・・自分を売った男たちの命を何故助けたいと願う?」
「・・それが勇者だからだ」
「・・・」
僕に向けられた剣士フロリダの刃が収められ、彼女は大きめの溜息を吐いた。
安堵した。人命を尊ぶ理念には国境がないんだ。
「セグンダ」
「はっ」
「一思いに殺せ」
「かしこまりました」
「え?おい、話聞いてたのかよ!」
「荷物は中途半端に抱えているから気になるものだ。貴様は断捨離という言葉を知っているか?」
「ゼウス!何とかしてくれ!」
「呼びなよ」
「何を?」
「奇怪で今呼ぶべき相手をケイは知っている」
セグンダの剣先が、三人の男の内一人の喉元目掛けて真っすぐに進む。柄頭に備えられた龍の彫刻の瞳が輝く。
「助けてくれ!バハムート!」
強烈な轟音とともに、突如、牛舎の上半分が見事に吹き飛び、超大型の銀色の翼竜『バハムート』が姿を現した。『バハムート』が翼を羽ばたく度に、牛舎跡の土埃は舞い、本来なら顔を覆うはずなのだが、目前に惹きつけられ誰もが顔を背けられないでいる。それ程にも強烈なインパクトが『バハムート』の存在感、威圧感としてまさにそこに在るのだ。
皆、唖然である。いや語弊がある。少女ゼウスだけはひとりニヤけていた。
『バハムート』の鳴らす喉は、はるか遠方まで轟き、あの虎の喉鳴らしが戯言に感じてしまう程だ。
三人の男たちは揃いも揃って腰を抜かして動けない。仕方ないことだ。一方の僕は、失禁しているのだから。
「こ、これは、エーゲ帝国、伝説の守護神バハムート!」
剣士フロリダは即座に膝をつき守護神『バハムート』に敬意を示す。セグンダもそれに倣う。
「ケイ、バハムートが自分はどうしたら良いか聞いてるよ」
僕は奇怪に向かって、「あ、今日はお越し頂きありがとう。早速ですが、この怖い女の人たち、やっつけて、くんないかな?」と伝えた。頷いたかに見えた『バハムート』の口腔に光の粒子の輪が形成されていく。
「いやいや待って下さい!我々エーゲ帝国は龍を崇拝している。その国獣に殺されては末代までの恥!」
「え?あ、ごめん、事情が変わった。バハムートちょい待ちで」
「・・・」
「まさか龍の加護をお持ちであったとは誠に信じられません。これは話が変わってきます。我々エーゲ帝国に要人としてお越し頂きたい。そして我が主人、エーゲ王への謁見を所望する。花婿候補として!」
「へっ?」




