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29回目のプロポーズ「開戦」(決)

 夜。

 防波堤が遠くに見える港の入り口で、ドラム缶に入れた焚き木が燃える様子を眺めながら僕たちは龍宮城の進撃に備えていた。

 昼間にレッド桃太郎のいる社長室へ伺ったが、対応は冷たかった。



「そないな話、よう信じられませんわ…。龍宮城がウチらの街を攻めてくる?悪い冗談と思って、聞かなかった話に出来へんやろか?」



「何を仰っているのですか?!このままでは街に甚大な被害が出ます。早急に守りを固め、進軍に備えるべきです!」



「おいくらですか?」



「…どういう意味でしょうか?」



「だからそのマイナスはおいくらですか、と聞いてるんですよ。ウチも長いこと鉄道会社を経営してますから、自然災害なんてものはしょっ中です。地震、雷、台風と色んな災害は経験してます。その分、マイナスを手持ちの資金で補填するんです。そんで復興は終わりです」



 長く世代を超えて鉄道会社を経営しているレッド桃太郎にとっては、ある意味、ゲームのイチイベントに過ぎないのかもれない。マイナスの駒に止まった、その分を所持金から差っ引かれる、そんな感じだ。

 必死に力を込めて説得するゲオーが悲しく思えた。そして滑稽にも見えてしまった。



「あなたは現場で働く人の身になって、鉄道会社を経営してらっしゃらないのですか?」



「何言うてまんの?ワシャ、ここのプレイヤーですよ」



 想像力の欠如を見た。レッド桃太郎に何を言っても無駄としか思えなかった。

 憤慨したゲオーは「これ以上は話の無駄です」と吐き捨てて、一人社長室を出て行こうとするので、僕たちは彼女をなだめながら追いかけた。丁度、ゲオーが社長室のドアノブに手を掛ける寸前に秘書の姫野が入って来た。



「社長、次の目的地がこの街に決まりました!」



 出て行った社長室の奥から、レッド桃太郎と姫野がはしゃぐ声が響き、僕はイラつきを覚えた。「死んでしまえ」とゲオーらしからぬ独り言をその時耳にした。



「静かな海だね…」



 僕たちは、交代で海を見張る。今は僕とゲオーの番である。セグンダが作ってくれた夜食の焼き芋を齧っている。すっかり冷めた焼き芋であるが、炭の香りが適度に残っており、鼻をつく。食欲が刺激される。

 ドラム缶から焚き木が爆ぜる音が繰り返しする。



「ゲオーはこのダンジョンのどこの生まれなんだ?」



 僕は剣士フロリダに止められた、ゲオーの身の上話をついつい聞いてしまっていた。



「ずいぶんと田舎だよ…。桃やぶどうなんかが有名かな」



「へー。一度は食べてみたいな…」



「大きな地震があったんだ…」



 ゲオーは、なぜ自分がダンジョンの外の世界に出てしまったのか唐突に話を始めた。



「私の住む地域は、大きな発電所が近くにあったの。地震で事故が起きた。とても大きな事故だったわ。そして真っ白な灰が空から降って来た。その灰は私たちを包んだ…」



 僕はゲオーに手の平を見せた。このまま話を続けるのは今は良くないと思えたからだ。



「楽しい話をしようよ」



「………。そうね。私が……」



 ーーその時だった。


 遠くの近海の水面がこんもりと山のようになっていくのを見た。かなりの大きさである。何かが水中からゆっくりとしかし確実に顔を出そうとしている。屋根のようなものが見え、暫くしてそれが天守閣のようなものだと気が付く。天守閣は尚も上昇し続ける。圧倒的な威圧感を僕たちに与えつつ、城の全容を見せ付けてくる。庭もあり、池に架かる橋もある。

 まさに龍宮城である。

 水中からどこまでも浮上し、龍宮城は登っていく。いつしか僕たちは龍宮城を見上げていた。龍宮城は浮遊しているのだ。水面にばしゃばしゃと龍宮城から海水が零れ落ちる。



「来たぞ!」



 僕は休んで横になっている仲間に叫んだ。


 龍宮城の門が開く。そこから一隻の船が顔を出す。浮いたままオールを漕いでこちらへ船は向かって来る。船は次々と門から顔を出した。一隻、二隻、その数は増える一方である。おびただしい数の船が僕たちのいる港へ向かって来る。

 僕たちは、たったの四人である。



「こりゃ、やべー、な…」



 やせ我慢に似たつもりのセリフを吐いたが、誰からも反応はなかった。僕はちょっと寂しかった。


 船はある程度進行すると、隊列を組みながらその場に静止した。


 こちらの出方を伺っているのだろうか?


 どの船だろうか。一本の矢がこちらに向かって飛んできた。矢はアスファルトの地面に見事なまでに突き刺さった。

 恐らくこれが開戦の合図に違いない。

最後までお読み頂きありがとうございました。

【本作品を少しでも面白いと思って、続きを読みたいと思った方へ 】

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