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25回目のプロポーズ「乙姫が託した書簡」(決)

 時間として、どの刻であろうか?

 確か、ゲオーがそろそろ『てっぺん』を迎えると言って、……。

 いかんいかん。僕はいつの間にか、うとうとしていたようだ。


 遠くで声がするが……。

 …はしゃぐ声、だ……。がっ……ぐ、ぐう〜〜………。



「本当に!この通り誠に誠に申し訳ございませんでした!!」



 当然であろう。

 ゲオーが『通行手形』を発見した瞬間に勇者である僕だけが、すやすやと眠りこけていたのだから。

 まさに、とほほ……、である。


 しかし、ついに発見したのである。

 僕は皆んなに一足いや何足か遅く、「よっしゃあああ〜〜〜!!」と叫んだ。



「なあよ!今日は休みだから、俺の家で送別会も含めて、目的達成の宴と行こうぜっ!」



 セグンダの出番である。

 いつの間にこの異世界の料理を覚えたのであろうか、酒池肉林のフルコース。

 フカヒレの姿煮に茹でたチンゲン菜、下処理したアヒルを特製ダレでじっくり火に掛けた北京ダック、絶妙な甘さの餡子あんこを白玉粉で作った生地で包み胡麻をふんだんにまぶして揚げた胡麻団子。

 なかでも注目なのは、多くの乾物から出汁を取った黄金に煌めくスープ、佛跳牆ファッチューチョンであった。


 獰猛な飢えた狼の如く箸を構え、宴の幕開きを今か今かと待ちわびる僕。無事、地下2階のクリアである。更なる冒険へと旅立つため、更なる英気を養うための酒席。最後の宴の参加者であるゲオーを、ただただ待ちわびる。



「ケイ、大事な話があるの…」



「ちょ、え、は?!このタイミング?!」



 ゲオーは真剣な表情をしていた…。冗談では決してない。

 仕方なく、僕はゲオーと外へ出た。



「通行手形を見つけた時に、一緒に出てきた。これがその書簡…」



 難しい漢字が多く使われていて、僕にはかなり読みにくく内容が頭に入ってこない。



「差出人は、乙姫さん。緑ウラシマさんの奥さんは、嫉妬の大罪(モンスター)だったの………」



 × × × × × × × × ×



 暫くして、僕とゲオーは緑ウラシマを外へ呼び出して話をすることにした。

 ご馳走の邪魔をされた緑ウラシマはかなり機嫌が悪かった。あと、かなり酔っていた。



「…なんだよ?お前ら二人で早速、抜け出してよお…。お前らの送別会だっつうの!……あと、ここに俺がいたらお二人さんの邪魔なんじゃねえの……?」



「緑ウラシマさん、先程はすいませんでした。どうしてもゲオーと今、話しておきたい事があったんです。緑ウラシマさんは、ずっとここに住んでいるんですよね?」



「まあな。何度か別の場所へ移ろうとも考えたさ。でもよお、やっぱ移れねえんだよなあ…」



「思い入れ、ですか?」



「ああ。…なあ、人は400年経った愛は忘れてると思うか?」



 僕はさすがに返答に困った。



「だよな!返事しようがないよな?だって、そんな経験ないもんな!……正解は、逆によく憶えてるんだよ。感情みたいなもんじゃなくて、ここじゃなくて、ここへなるんだ」



 緑ウラシマは、自身の胸を手で叩いてから、こめかみ付近を指で叩いた。



「意志に近いのかもな。理屈じゃなくて、あいつが生きてた時に言っていたことを守ってやりたいと思うんだ」



 決心が揺らぎそうになった。ここで僕たちは通行手形を使って、次の階へ行く方が正しい気がして来た。()()()()()に反して……。

 ゲオーが僕の裾を引っ張る。振り向くと、ゲオーは僕に首を横に振っていた。



「緑ウラシマさん、覚悟して聞いて下さい。……乙姫さんは、()()()()()()()()()の人間でした」



 × × × × × × × × ×



 これから僕がお話することは、緑ウラシマが僕とゲオーに語ってくれた話と、僕がゲオーに聞かされた乙姫の書簡による話、その両方を交えたものである。



 緑ウラシマは親元を離れ、昔からここで漁師をして生計を立てていた。近海で獲れる魚は、かさごや太刀魚、かれいなどで大きな稼ぎにはならないが、生活に困窮するほどではなかった。いわば普通の暮らしである。

 ただいつまでも男一人で生活していくわけにもいかないなと、緑ウラシマは考えていた。


 いつもの様に漁へ出掛ける準備を自身の物置小屋でしていた時、派手な着物を纏った見知らぬ男に出入り口付近で声を掛けられた。



「おい、仕事中わりいな。ここ。首元に龍の刺青をした女、見なかったか?」



 緑ウラシマは当然知らないので、その旨を男に伝えた。男はその場ですんなりと帰っていった。なんとも気味が悪い雰囲気を醸した男であった。自分とは住む世界の違う住人であることは一目瞭然で分かった。

 その暫くである。

 血相を変えて、今度は女が緑ウラシマの元へ、()()()()()()()()()()走り込んできたのだ。緑ウラシマはピンと来た。見れば、首元には龍の刺青が施されている。

 緑ウラシマは彼女が何を言う訳でもないのに、巻かれて立てかけてあったゴザを広げ、彼女に中へ隠れるよう促した。


 先ほどの男が、今度は何人かを引き連れ、再び緑ウラシマの元へやって来た。緑ウラシマは、



「さっき見ました!向こうへ()()()()()()駆けて行きましたよ」



「間違いない。行くぞ」



 男たちは緑ウラシマが指し示す方向へ一目散に向かっていった。



「ど、どなた存じませぬが、ありがとうございます…」



 これが、緑ウラシマと乙姫の出会いであった。




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