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15回目のプロポーズ「地下カジノ『ラッキー』」(決)

「地下カジノは私行ったことないんだけど、ドレスコードがあって正装に着替えないと入れてくれないみたいなの………」


 僕はタキシードというものに着替えることになった。この焔のダンジョンに来る前までは、原始人のような格好をしていたので、幾分かまともな服装になって安心した。ただ少し動き難い気もするが、多少は我慢すべしと言ったところか。


 しかし………、女性の買い物はどうしてこうも長いのだ…。

 ………。かれこれ二時間ほど、ずっと僕は買い物に付き合わされている……。



「………あ、やっぱりこのフリル、私好きじゃないかも………!」



「どうだろうな。私の憶測では、男子は比較的その見えた肩にぐっと来るみたいだぞ。………おっ。セグンダはやはり黒が似合うな。どうした?なぜ顔を赤くしている?」



「ねえフロリダ、こっちの赤はどう?正装としては派手過ぎ?子供っぽいかな?」



「確かに正装というよりは、衣装に近いな。あとバストが隠れ過ぎだと思うぞ。ゲオーは綺麗なバストを持っているんだから、主張しつつ尚且つ下品にならないのがベストだと思うぞ。………なんだ?セグンダ、なぜ顔だけ出している?………可愛いじゃないか!意外だな、セグンダは黄色も似合うんだな。今度、エーゲ帝国の鎧をモデルチェンジする時は、黄色も候補に入れるよう進言しておこう」



「………………。じゃーーーーん。どう??」



「わははっ!こいつは一杯食わされた!それは寝間着じゃないのか?いつの間にそんなものまで持ち込んでいたのだ。無論、可愛いぞ。………おっ。今度はなんだセグンダ?わっはは!さっきのゲオーと全く同じ寝間着じゃないか?!お前たち二人で私を嵌めたな。はははっ!……腹が、…………笑いすぎて、……腹が痛い!」



 ……フロリダ、お前マジすげーよっ………。

 っていうか、ほんと早くしてくんねえっっ!!



 × × × × × × × × ×



 正装の準備は出来た。


 僕たちはゲオーが言う通りに、TUCという黄色の看板が目印のところへ行って、缶コーヒーを引き出しに入れて、ガラス越しの女に渡した。すると手書きの地図を返された。


 地図に書かれていた喫茶店というところへ行って、地図のメモ書き通りに「グレープフルーツジュースとトースト、あ、レバームースをこんもり乗せて」と言った。店員の初老の男は「トイレに行きな」とぶっきらぼうに言う。


 僕たち一行は個室トイレの中へと入る。こんな狭い空間に五人も入れるのか不安になったが、店員の初老の男は「無理にでも入ってくれないとウチが困るんだよ」と叫ぶので、そういうものかと半ば諦めた。

 暫く個室トイレの中にいるとギギギという何かが軋む音がする。移動?……個室トイレが移動している??


 チーンという音とともに軋む音は止んだ。「いらっしゃいませ」という声が聞こえる。どこだ?どこだ?と辺りを見回すが、それに見当たるものはない。

 とりあえず、個室トイレから出ようとするが、ドアは動かない。「こちらです。お客様、こちらです!」という声は便器の中から聞こえていることに気が付く。僕たちは勇気を持って、便器の中を覗き込む。

 便器の奥、一人の正装の男性がこちらを見て、丁寧に頭を下げた。


 僕たちは便器の中の世界、地下カジノへと足を入れた。


 梯子を降りたその先の世界を見て、僕たち一行は驚きを隠せなかった。様々な彩りを持つ光の玉が、点いては消えを繰り返す。楽園に来てしまったのかと誤解するような豪華さに圧倒されていると、先ほどの正装の男性が僕たちに声を掛けた。



「ようこそ、地下カジノ『ラッキー』へ。お客様は当店は初めてで宜しいでしょうか?」



 どうやらこの正装の男性がこの地下カジノを案内してくれるのであろうか。早速僕たちはこの男性に今日の要件を伝えることにする。



「ここに300万円があります。これを元手に増やしたいんです」



 正装の男性は僕たちに向かって両手の平を見せた。



「お待ち下さい、お客様。………もしかしてカジノ自体初めてのご経験では?」



 僕たち一行は頷いた。



「なるほど。それではご説明しましょう。当店は主にルーレット、ポーカー、ブラックジャック、バカラがございます。他にマシーンでのご遊戯もございまして、一般的なスロットマシンは勿論のこと、パチンコ機やパチスロ機もございます。あと変わった趣向のものでは、クレーンゲームなどもございます。如何なさいますか?得意なものはございますか?」



 僕は「この人は何を口にしているのだろう」と途方に暮れていると、ゲオーが正装の男性に返事をした。



「ポーカーならやった事があります」



「こちらへ」



 僕たちは、案内されるがままにカジノの奥へと進んでいく。

 老若男女、様々な人たちが色んな種類の遊戯というものに精を出していた。スロットマシンと呼ばれるものの前で大喜びの者、玉が転がっていく先を顔色を変えず黙々と遊戯に興じる者、カードを持ってひたすら涙を流している者、黒服の男性に怒涛の如く怒りを見せている者、小刻みに震え呆然と地べたに座っている者もいた。

 他者の喜怒哀楽がこうも簡単に見て取れる様子から僕はなんだか嫌な予感がしてくるのだった。


 通された椅子に僕たち一行は腰掛ける。とりあえず、ゲオーだけがポーカーというものに挑戦することにした。ディーラーという女性がカードを二枚ゲオーに配る。僕たちの他にこのテーブルでポーカーをやる者はいないので、ディーラーも二枚自分のカードを引く。この状態では、カードは絵柄の方しか見せてはいけないらしい。


 僕はゲオーのカードを二枚見せて貰った。

 『クラブ6』『ハート6』


 数字が同じなのは良いことらしい。この時点でゲオーは幸運の一片を掴んでいるらしい。


 ディーラーは『コミニティカード』と呼ばれる三枚のカードを中央に並べる。このカードは、ゲオーもディーラーも見られるらしく、絵柄ではない方で直線上に並べられた。この『コミニティカード』は最終的に五枚並べられる。その五枚と自分の手札の二枚、その七枚を使って五枚の役構成を目指すのが、このポーカーらしい。並べられた『コミニティカード』の内訳はこうだ。

 『ハート5』『クラブK』『スペード6』



「ベット」



 ゲオーは数枚のチップをディーラーの前へ強気で投げた。


 コミニティカードがもう二枚追加される。

 『ダイヤ10』『ハート10』『ハート5』『クラブK』『スペード6』


 ゲオーが僕たちを見て、ニヤニヤしている。三枚のカードの数字が同じで、尚且つ残りの二枚も同じ数字の役は『フルハウス』というかなり強い部類に該当するらしいのだ。



「ベット」



 ゲオーはさっきよりも強気に更なるチップを中央へ投げ入れる。



「宜しいですか?」



「もちろん」



 この時、僕たち一行は勝利を確信していたと思う。

 ディーラーが自身のカードを裏返して見せる。

『スペード10』『クラブ10』



「ぎゃふんっ!」



 ………………親のフォーカードで僕たちの『負け』。


 しかし、ポーカーというものの面白さを僕はよく理解した。

 次は僕も参戦して勝負しよう。僕はゲオーに「チップを僕の分も換えてくれないか?」と頼んだ。



「ごめん。今ので全財産取られちゃった……!!」



「はあ?!」



「イケると思ったから、つい……」



 暴挙だ。これは暴挙である。全財産をいきなり賭けるなんて普通考えられない、まさにぶっ飛んだ行為である。



「今日中に10億円稼がないといけないんだろ?!」



 僕は大声を思わずカッとなって声を張り上げてしまった。すると急な沈黙が地下カジノ内を包んだかと思ったら、暫くして爆笑が巻き起こった。



「じゅ、10億円だってよっ!!」



「現実感無さすぎて、逆に面白え!!」



 明らかに僕たちは馬鹿にされている。剣士フロリダが反論する。



「10億円稼ぐ事を目標にして何がおかしい!!貴様らも10億円欲しくてここにいるんだろ?!」



 これは逆効果だった。更なる爆笑を生んでしまった。

 暫くすると、僕たちの元へ金色のスーツに身を包んだ黒光りの男がやってきた。



「大丈夫ですよ。現金が無くてもチップはご用意出来ます」



「貴様、本当だろうな?これほどの屈辱、もし嘘ならタダでは済まさぬぞ」



「ええ……。ただし、…………歯を賭けて貰います」



「……歯?」



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