14回目のプロポーズ「ざわっ!一攫千金」(決)
ーー焔のダンジョン2日目。
早朝。
僕たちは一つのテーブルを囲んでゲオーが作ってくれた朝食を食べる。
ゲオーは僕たちが食べる前に作ってくれた料理の説明を丁寧にしてくれた。炊きたての白いごはんに、豆腐とわかめの入った暖かい味噌汁、適度に焼き上げられた鮭、胡瓜と茄子の浅漬け。
これは『日本食』という家庭料理の定番の献立らしい。普段の油っ気の多い食事とは違って、『日本食』はとても健康的な感じがした。浅漬けに少々垂らした醤油という味が僕のお気に入りだ。
ゲオーは「皆んなきっと苦手だと思うから」と言って、一人だけ納豆という臭いの強いものを用意していた。初めは「自分だけずるいな…」という思いを密かに抱いたが、粘っこく糸を引く納豆をこれでもかとかき混ぜているゲオーの姿を見て、僕は少々「正気か?」と思った。納豆が僕の分まで用意されなくて内心ホッともした。
「‥‥‥昨夜、何かあったの?」
何気なしに、ふとした感じで、ゲオーは剣士フロリダに問う。
「何がって何のことだ?」
「え?逆に質問??だって昨日は湯船にもゆっくりつかれたし、今は暖かくて美味しい朝食がある。つまり気持ちの良い朝を迎えられたのよ。ダンジョンへ入って一晩を越えて、この状況は普通に考えて最高の滑り出しだと思うでしょ?」
「‥‥‥まあ、な」
「なのに、‥‥‥なんか、この食卓、…ピリついてる」
僕は思わず、すすっていた味噌汁を吹き出しそうになった。
バ、バレてる…。
ハッキリした内容は断定されないと思うが、ゲオーは昨晩、僕たちの一部で何かが起きたという事は認識している。これが『女の勘』というやつか。不味い。不味い。不味い。この朝食は美味いが、この状況は非常に不味い。
ついつい僕は、少女ゼウスの様子を横目で盗み見してみたが、彼女は別段普段と変わらず、美味しそうに朝食を食べている。我関せずといった所なんだろう。なんとかしなくては。僕は口を開く。
「ゲオーは心配性だな。ここは焔のダンジョン内なんだ。むしろ緊張感は、あって当然のことだろう。そして何より今日の予定を今、話し合おうじゃないか?」
僕は出来る限りのフォローをしつつ、話題の矛先を変える手段に打って出た。剣士フロリダがそれに続く。
「ケイの言う通りだ。私もこの先どうすべきか今から話しておきたい。それにこの食卓は普段となんら変わりないと思うぞ。特に私の胸は、ほらいつも通りで、決して揉まれてなんかいないぞ」
いや、どんだけ嘘下手かっっ!?
男勝りのキャラは嘘が下手そうな感じするけど、程度がおかしいだろっ!!
「ちょっとフロリダなに言ってんの?!それってギンジが言ってた話のこと?超ウケる!」
案外、ゲオーはジョークとして捉えてくれた。
むしろ下手に取り繕う方がゲオーには失敗するパターンだったのかもしれない…。
「もしケイが本当は揉んでたら、どうする?」
少女ゼウスが口にした。
その場は、しばしの沈黙タイム。
絶対こいつ、事情を知ってて楽しむためだけに餌を投下してやがるっっ!
‥‥‥ゲオーとセグンダがほぼ同じタイミングで全く同じ言葉を発した。
「「殺ス!!」」
……ふむ。
ゲオーは僕を国王の花婿候補として見ているわけで、国王の花婿が浮気心を示したら、そりゃ処刑されるのはある意味必然と言えるだろう。国民にも他国にも恥を晒すことになる訳だからだ。
そして、セグンダである。やはり、セグンダである。僕はずっとセグンダの熱い視線をずっとやり過ごしてここまで来たのであるが、これはつまり『これからお前の命を狙っていくぞ』というセグンダの僕への処刑宣言であるだろう。まさか、敵ではなく、味方からも命を狙われるとは‥‥‥。考えただけで、腹が、腹がじんじんと痛くなってくる‥‥。
「ダンジョンの次の階に行くには、まとまったお金が必要なの」
朝食を食べ終わった僕たちにゲオーがこの先へ行くための道を示す。
「貨幣が必要か?通行手形の発行を依頼するみたいなものか……。ちなみにいくらだ?」
「うん。ここの異世界のお金で、…ざっと10億円」
知らない通貨の話で僕たちはピンと来なかった。‥‥‥10億円??馬車を買うのに必要な額くらいか?それとも一軒家を建てるのに大工へ支払う額くらいか?イマイチよく分からなかった。
「ちなみにここに300万円あります。これを持って地下カジノへ行って、見事10億円にするのが今日の目標です」
地下カジノというのも僕はよく理解出来なかった。そこへ行けば、300万円を10億円に交換してくれるのだろうか?ただゲオーの話ぶりから察するに、それほど大変な仕事ではないようには見受けられる。
ゲオーは僕たちの顔をゆっくりと見回し、鼓舞した。
「よーし!地下カジノへ行って、300万を10億円にするぞ!!一攫千金!!」
「イッカクセンキン!!オー!!」
この時の僕たちは、300万円を10億円にするのがどれだけ途方もない、まさに悪魔的な目標であるのかを知る由もなかったのだ……。




