13回目のプロポーズ「異世界での誘惑」(決)
ーー焔のダンジョン。
暗く細長い通路の先に見える小さな明かりを目印に、僕ら一行が辿り着いた場所。
そこには僕が見たこともないような途方もない世界が広がっていた。
そう、通路の先は、異世界だった。
夜。
大きく立ち並ぶ均整の取れた建物たち。どれだけの匠の技を駆使すれば、なんということでしょうか、ここまで見事な建造物を完成させられるのであろう。建造物に備えられた松明の明かりは、原理は分からないが、白や青、黄など様々な彩りへと変化させ、僕らの顔を照らしている。
地面は硬い一枚の薄い岩石のようなもので固められ、その上を馬やサラマンダーもいない馬車が物凄いスピードで走り回る。
遠くの方では、どこかの誰かが信じられないほどの声量で訳の分からない話をしながら、時折歌ってもいる。とても騒々しい。
空気はいささか息苦しく、どこか濁っているようだ。
歩く人々は見たことのない装束に身を包み、表情は暗く、不満を抱えている感じの者が多いように見受けられた。
目前に気を取られていた僕の肩に誰かがぶつかって来た。
「いってえじゃねえか!殺すぞ、オラ!」
殺すという言葉に反応したのだろう、オラつく男に僕の隣にいた剣士フロリダはすかさず剣を抜いた。
「殺すというその言葉、貴様は殺される覚悟を持ってケイに発したのであろうな?」
構えれれた剣士フロリダの刃物を見て男は急にたじろぐ。
「お、お前、正気かよ?!あ、お巡りさん!」
男は近くにいた仲間を呼んだのであろう。軽い武装をしたような人物二名がこちらに駆け寄って来る。すぐさま「とりあえず逃げよう」と僕は皆んなに声を掛けた。
近くの通りに入り込んで驚いた。人だ。人がごちゃついている。全然、思うように前へ進めない。邪魔だ。邪魔。どけ。どけ。痛っ!あ、ごめん。やべっ!すっげえ追っかけて来る。
「違う。こっち!」
ゲオーが僕の左手首を掴み引っ張る。ゲオーが指図する先はなぜか人が少なく、走りやすかった。「ここを右!」「ここ狭いから気を付けて」そう言って僕たちを導くゲオーはこの異世界を慣れているように感じた。「この階段、急いで!奴らすぐに沢山の応援を呼ぶから」僕らは階段を駆け上がる。とても狭くて走りにくい階段であった。こんだけ建造物があれば仕方のない狭さなのかもしれない。
「良かった。鍵が掛かってない。とりあえずこの中に入って」
僕たちはゲオーのおかげで窮地を凌いだ。
ゲオーは真っ暗の部屋の灯りを点けた。どうやって灯りを点けたのか僕にはよく分からなかったが、とりあえず灯りはその場に点いたのだ。
ゲオーが僕たちにカップに入った水を持って来る。なんの濁りもなく綺麗な水であった。むしろ綺麗過ぎるくらいだ。
「ゲオー、もしかしてこの焔のダンジョンに何度か来たことがあるんじゃないのか?」
僕は疑問を口にした。
暫くの間、ゲオーは黙っていたが、
「うん。私ね、ここの出身なの。私はたまたま拾われて今のエーゲ帝国にやってきた・・」
「ケイ、すまんが、彼女が話せるのはここまでだ。これ以上は国家の重要機密に該当してしまう。理解を示して欲しい」
剣士フロリダはゲオーの話に割って入り、遮った。
とりあえず僕たちはここで一晩明かすことになった。ダンジョンの中で朝が来るとは通常考えられないことであるが、朝は来るものらしい。うん。全く意味が分からん。
× × × × × × × × ×
どの刻だろうか?
僕たちはそれぞれ毛布に包まりながら、夜が通り過ぎるのを待っていた。
誰かが僕の毛布の中へ急に入って来た。
「(ケイ、就寝中にすまん。今なら一揉みしても良いぞ・・)」
顔を紅潮させながら剣士フロリダが僕に迫って来たのだ。
「(馬鹿!皆んな起きちまうだろ。何考えてんだ?)」
「(ケイは私の右の胸を一揉みしたいか?それとも私の左胸を一揉みしたいか?)」
「(待て待て!あんな冒険者ギンジが勝手に言った事を真に受ける必要なんてない)」
「(ケイは私の胸に興味はないのか?比較的触り心地は良い方だと思うが)」
「(・・・)」
「(そうか。ケイは私の裸の胸を見ていないから左右のどちらの胸を一揉みするか決めかねているのだな。よかろう。まずは私の裸の胸をしっかりと見定めてくれ)」
剣士フロリダはもぞもぞと上着を脱ぎ始める。
僕はこんな事をしてて良いのだろうか。
ここは焔のダンジョン内であるのだ。
僕は冒険の最中なのだ。
剣士フロリダが下着を脱ぐ瞬間、
推定Fカップの豊満な胸の全てが露わになる瞬間、
僕は罪悪感の余り彼女に飛びついてしまった・・。
「(ダメだ、フロリダ!こんなことしちゃいけない)」
「(ケイ・・)」
「(フロリダ、僕は本気で二つの国の戦争を止めたいと考えている。だから一緒に頑張ろう。戦争を止めよう。そのためにはこんなやましい事をしちゃいけない。僕たちパーティーは清廉潔白であるべきなんだ。高貴でしかるべきなんだ)」
「(はあ・・、はあ・・。ケイ・・、両方の胸は・・聞いてないぞ・・)」
「え?!」
僕の目の前に、ギラリとした鋭利な刃が現れる。
その剣を持つセグンダは鬼の形相で僕を睨んでいた。




