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12回目のプロポーズ「推定Fカップ②」(決)

※8月29日に修正されました。

「ようっ。あんたらこの先、焔のダンジョンへ行くつもりかい?」



 僕ら一行は、率直な表現で言えば大きなトカゲ、一頭のサラマンダーに餌やりか山盛りキャベツを与えている男に呼び止められた。「おっと、エーゲ帝国の兵士の方かい。ちょっと待ちな。ほい、冒険手形」と気取りながら場慣れした素振りを見せる長身金髪ハンサム男に僕は何だかイラっとした。決してやっかみではなく、この男は生まれながらに人をイラつかせるスキルにポイントを振り過ぎているように見える。もう一度言おう。僕のやっかみでは、ない。


 回り込むように金髪男は、手形を確認をしている剣士フロリダの背後に立ち、耳元で「フロリダ、いつ戦争は始まるんだよ。頼むからちゃんと声掛けしてくれよ」と囁く。剣士フロリダは横目でチラッと金髪男の方へ目をやる。

 瞬間、珍しくセグンダが剣を抜いた。



「貴様!何度言えば分かる。フロリダ様に色目を使うな!」



 初めてセグンダが感情的になっている姿を目の当たりにしたし、色目を使うという選択コマンドが見当たらない僕は、急の事態にどう対応して良いのやら、軽く狼狽してしまった。



「おい、おい。そう気張るなよ、セグンダ。俺とフロリダを争う恋敵の仲じゃねえか」



 え?今何だって?このタイミングで知りたくない情報来たような・・。



「セグンダ、剣を鞘に納めろ。冒険者ギンジよ、相変わらず人を揶揄うのがお好きなようだ。貴様はまだ知らない様子であるが、焔のダンジョンの警戒レベルが3から5に引き上げられた。つまりここら一帯は立ち入り禁止区域に指定されたのだ。即刻、立ち去れ」



「ほう。てことは、かの国に動きがあったって事かな?」



 今度は剣士フロリダが金髪男、冒険者ギンジに向けて剣を抜いた。



「質問には答えられない」



「なるほど。理解した。ただし俺は焔の獣神玉は諦めないぜ。別ルートで高く買い取りたいという依頼が来ている」



「なっ!?貴様、冒険手形を発行した側からすれば謀反に当たる行為だぞ!」



「さあて。冒険の書にはそんな記載なかったけどな」



 冒険者ギンジは颯爽とサラマンダーに跨った。去り際、初対面の僕を見て、シリアスな口調でこう呟いた。



蒼々(そうそう)の十字軍が近くまで来ている。エーゲ王を宜しく頼む」



 × × × × × × × × ×



 苔もないゴツゴツとした花崗岩だけで形成された、異様な圧迫感を醸し出す焔のダンジョンの入り口だった。先ほどまでとは打って変わり動物の気配は感じられず、時折、硫黄の臭気が鼻をつく。地獄の入り口と呼べるかのような風貌に僕は固唾を吞んだ。

 パーティーの躊躇いを感じ取ったからだろうか、「行きましょう」とゲオーが率先して前へ出た。ゲオーの発した言葉の裏は決して余裕のあるものではなかったと思う。現に彼女は少し震えているように見える。一国の王として責務を果たすべきなのだという気概を持って恐怖に立ち向かっているのだろう。


 命を賭けた冒険への一歩を踏み出す瞬間だった。僕らに向けた声が響いた。



「お待ちなさい」



 剣士フロリダ、セグンダがほぼ同時に剣を抜く。


 ・・早くも抜かったか。

 僕たちはすでに印象的な蒼い十字架が形どられた鎧を纏った大量の兵士たちに周囲を取り囲まれていた。

 しまった。どう対処すべきか、僕は剣士フロリダの顔を見た。

 剣士フロリダは最大限の警戒心を示して、



「大賢者ミカエル…」



 多勢の蒼々の十字兵が、モーゼの海割りの如く、白髭を長く伸ばした老人男性の為に道を開けた。ゆっくりと大賢者ミカエルがこちらに向けて、歩んでくる。

 大賢者ミカエルの鋭い眼差し、一方の剣士フロリダたちの攻撃態勢、蒼々の十字兵とエーゲ帝国は決して良好な関係にあるとは言い難いのは充分よく分かった。



「・・伝説の勇者よ。焔のダンジョンに入る事は教会が許さない。すでにバイカル王国の近衛兵団は蒼々の十字軍と合流してこちらに向かっている。諦めなさい。無駄な殺生は教会側も好まない」



 ゲオーが大賢者ミカエルに反論する。



「待って下さい!エーゲ帝国を差し置いて、教会側がバイカル王国に加担するなど有り得ない事です!道を開けなさい!」



「そうだ!教会は常に第三者の立場に立つという道理の元、国境を越えられるはずだ。それがバイカル王国側に付くなど寝耳に水!エーゲ帝国を愚弄しているのか?!」



「再三の休戦協定に奔走した教会を無視したのはどこの国だ?」



「休戦協定の申し入れなどありません!意味の通じない事を言わないで下さい!」



 事情が飲み込めない僕ではあるが、事態が相当に切迫しているのは分かる。


 大賢者ミカエルが携えた杖を天に掲げると、呼応するように蒼々の十字兵の兵士たちも自身の剣を頭上に掲げた。大賢者ミカエルが呪文のようなものを唱える。すると辺り一面は急に薄暗くなって来て、雷鳴が轟く。不穏な空気が僕たち一行を包み込む。セグンダから絶望の色が僅かに滲み出ている。剣士フロリダはゼオーを出来る限り安全な場所へ避難させようとする。

 剣士フロリダに連れられたゲオーが僕に向かって、叫ぶ。



「ケイ、お願い!あなたの力を貸して下さい!」



 初めてゲオーにお願いされたなと、内心僕は嬉しくなった。本当の意味で仲間になった気がしたのだ。


 僕は奇怪(スマートフォン)を取り出し、声を張り上げる。



「召喚バハムート!」



 眩い閃光と爆発音とともに現れたエーゲ帝国の伝説の守護神バハムート、その姿を見て大賢者ミカエルは唱する行為を中断した。



()()()()()()()()



 大賢者ミカエルの率いる蒼々の十字軍は僕たち一行に焔のダンジョンへの道を開けた。僕はこの呆気なさがなにより不気味に感じた。


 唐突、サラマンダーに乗った冒険者ギンジが一目散に横から割って入り、焔のダンジョンの中へと消えて行く。



「サンキュー!勇者様!そのお礼と言っちゃなんだが、俺のフロリダの推定Fカップの乳を一揉み、特別に許可するぜ〜〜!」





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