11回目のプロポーズ「『本物』の占い師」(決)
※8月28日に改稿されました。
「よし。松明や薬草、毒消し草の類はこれで充分だろう」
「じゃあ次は占い屋だね」
買った品物を袋詰めしていた道具屋で、この手の冒険で(僕としてみれば)馴染みの少ないワードをゲオーが口にするのを聞いた。剣士フロリダはゲオーの発言にさも当然の如く頷いている様子を見ると、危険を伴う行動の前に占い屋で助言を得ることはエーゲ帝国側の人間としたら当たり前のようである。
そして、じゃんけんに負ける。
勇者であるはずの僕は荷物持ちの命を受け、両手にがっつりと、左右にヨタヨタと、フラつきながら剣士フロリダ達の後を追う。少女ゼウスも僕を手伝う素振りも見せず先に進んでいく。
城下町の人々はきっと僕の姿を見て未開の部族の買い出しの最中と勘違いしているのではないだろうか。「最近の部族も生活が大変ね」そんな言葉が聞こえて来そうだ。
こんぼうが邪魔だったので、僕を不思議そうに見ていた近くの子供達にあげた。喜んでくれたので本望だ。
「誰も手伝ってくれないんだな…」多少傷つきながら僕もようやく占い屋に着いた。狭い個室の中へ入ると、ゲオーが僕を手招きして居場所を空けてくれた。
「問題ない。この先もしっかりと国の為に働きなさい」
剣士フロリダが礼を言う白髪の占い師は分かりやすく在り来たりな風貌の占い師だった。両手指に付けられた光輝く宝石の数々を見て、「以前、バイカル王国で占い師に吹っかけられた事あったな」と僕は思い返していた。
「貴公も占いを受けるのだ。エーゲ帝国一の占い師だぞ」
剣士フロリダは気乗りしない様子の僕をガン無視した発言をかまして来るので、女性というのはどこの国でも等しく占いが好きな種族なのだなあと腑に落ちる。そんなやり取りを見てゲオーは笑いを堪えていた。
「ま〜〜。ま〜〜」と呪文の言葉を連呼して目前の水晶に両手を怪しく操る占い師の姿を見て、僕は心の中で占い師の次の言葉を予想してみた。
とりあえず、まず褒めるのだ。
「あなた様は、非常に力強い星の下に生まれておる」
次に不安を煽る。
「しかしながら、先祖の過ちがあなた様の将来の足を引っ張る」
次に営業を仕掛ける。
「この壺を買えば、呪いは一瞬で消え去りましょうぞ。今ならサービスしておきます」
よ、予想通り…。
僕はバイカル王国に留まらず、エーゲ帝国でも占い師にカモられそうになるのか…。
残念な思いが僕の胸中をかすめた刹那、占い師の目前の水晶が真っ二つに無音で割れた。
場は不意に不穏な空気に包まれた。
占い師の顔は下方を向いたまま、止めどない脂汗を吹き出し、じっとしている。よく見ると小刻みに震えているのが分かる。何かに恐怖しているようだった。僕ははたと気付く。少女ゼウスだ。こんな仕業、少女ゼウスが行なったとしか考えられない。そして今占い師は、少女ゼウスの存在を朧げながら察しているのだ。ぽたぽたと地面に落ちている脂汗が何よりの証拠であろう。
「誠に失礼致しました…。きょ、今日で占い師は廃業します…」
驚いた。この占い師、キナ臭い人物だと思っていたが、実は『本物』だったんじゃないのか。もしこの占い師が本当に偽物であるならば、無言でマンゴー飴をただ舐めているだけの少女ゼウスをあり得ない『なにか』だと感づきはしないだろう。見過ごすはずである。でも『元』占い師はそこでちゃんと立ち止まり、察した。これは並大抵の事ではない。僕は『元』占い師を見直した。
一行が店を後にしようとした直後、僕は『元』占い師に背後から呼び止められた。
「勇者様、先程は大変なご無礼を致しました。あの様なお方を携える伝説の勇者様でいらっしゃったとは露にも存じ上げず、申し訳ございません。代償と言っては些か過ぎるかもしれませんが、エーゲ帝国に語り継げられる伝説に『真実の恋は龍になる』というものがございます。もしかすればこの言葉いつかあなた様を救ってくれるかもしれません。ご武運を」
僕は『元』占い師に別れの礼をして、焔のダンジョンの入り口へと向かう剣士フロリダ達の後を追った。
両手に一杯の荷物を携えて。
いつまで持たせんだよっ!!




